池袋雑居ビル ロードレーサーで見た日本⑦ 100円で泊まれると聞いた盛岡大学へ
100円で泊まれると聞いた盛岡大学へ
先日、ニュースで盛岡大学の近くにクマが出没したという話を耳にした。
そのニュースを聞いた瞬間、40年以上前の旅の記憶が鮮やかによみがえってきた。
あの日、私はロードレーサーを押しながら盛岡駅周辺で昼食を食べられる店を探していた。
駅の外の小上がりの階段で、自転車を組み立て終えた同年代くらいの青年と出会った。
話をしてみると、彼は青森の恐山へ行ってきた帰りだという。
旅の話に花が咲く中で、彼がこんなことを教えてくれた。
「盛岡大学なら、100円で、もしくは無料で泊めてもらえるらしいよ。」
今となっては100円だったのか無料だったのか、記憶は定かではない。しかし、その言葉は宿のあてもなく困っていた私にとって、まさに救いだった。
「行ってみよう。」
私たちは二人でロードレーサーを押しながら盛岡大学へ向かった。
しばらく歩き、間口の広い校門をくぐる。
少し進むと右手に電話ボックスが見えた。
さらに少し歩いて右へ曲がると、年季の入った古い木造の建物が建っていた。
「ここなのだろうか。」
そう思いながら玄関へ向かう。
入口には靴やサンダルが無造作に並び、学生たちが生活している空気がそのまま伝わってきた。
「こんにちは。」
声をかけても返事がない。
もう一度「こんにちは」と呼びかけると、奥から白いランニングシャツ姿の男性が出てきた。
「こちらに泊めていただけると聞いて来たのですが……。」
私が言いかけると、その男性は何も驚いた様子もなく、小さな箱を差し出して言った。
「100円になります。」
その一言を聞いた瞬間、「本当に泊めてもらえるんだ」と胸をなで下ろした。
宿のあてもなく、この先どうしようかと考えていた私にとって、その100円は何よりもありがたかった。
男性からはいくつか注意事項の説明があった。
しかし、安心した気持ちが大きすぎて、正直ほとんど耳に入っていなかった。
今でも覚えているのは、ただ一つ。
「洗濯機は使わないでください。」
という言葉だけである。
こうして私は、その夜の宿を確保することができた。
このときの私は、これから案内される部屋がどんなものなのか、まったく想像もしていなかった。
その部屋で待っていた光景は、40年以上経った今でも忘れることができない。
池袋雑居ビル
(つづく)
