香港映画「これからの私たち - All Shall Be Well」見ました
同性婚が非合法の香港では、遺言状がなければ、世を去ったパットの遺産をアンジーに継ぐ権利はない。力を合わせて築いた財産や2人で買った家であっても…。
『これからの私たち - All Shall Be Well』は香港の同性愛に関する法律の問題点や根深く残る差別を描き、ベルリン映画祭でLGBTQをテーマにした優れた作品に贈られるテディ賞を受賞。同時に、深刻な住宅不足や就職難、経済格差などの問題も浮かび上がらせ、多角的な視点で香港社会をとらえる。
同性カップルだけではなく、事実婚カップルや、1人で老いる不安を抱えるシングルにとっても、他人事とは思えないテーマを映画にしたのは、『ソク・ソク』 で長年抑圧されてきた同性カップルの老年の愛を描いて高く評価されたレイ・ヨン監督。アンジーの複雑な心情を繊細かつ力強く演じるのは、『ソク・ソク』で香港金像奨助演女優賞に輝き、話題作への出演が続いているパトラ・アウ。パット役には30年以上も銀幕から遠ざかっていたマギー・リーが起用され、短い出番ながらも、颯爽として自立したキャラクターを鮮烈に立ち上がらせている。『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』で日本でも人気急上昇中のフィッシュ・リウが重要な役回りを果たすパットの姪を好演している点も注目だ。
香港の様々な景色。
豊かな生活を送る主人公たちの、穏やかで静謐な朝食シーン。
猥雑な街の姿。
山や湾の姿。
静かで、美しい映画でした。
そして、しんと深い。
主人公は、レズビアンのカップル。
髪を長く垂らし、スカートを履くアンジーと、
短髪を七三に整え、スラックス姿のパット。
パットは明るく強くたくましい雰囲気がある。
アンジーを優しく庇護する態度が感じられる。
二人は30年以上、共に支え合って、深く愛しあって暮らしている。
二人で買った高級マンションに住んでいる。
比較的近くに住んでいると思しき、パットの兄の家族と親しくしており、アンジーは彼らに「パットの伴侶」として認められている。
一方のアンジーの実家は少し遠いところにあるのだろうか。
アンジーの両親は、知っていながらパットを「親友」と表現し、心理的に二人を認めることができていない。
映画は、冒頭、二人の麗しい愛の日々を、
さらに、パットの兄家族(妻、長女、長男)と長く親しく付き合っている様子を描きます。そこにはっきり見える「家族」としての歴史。
ところが、そんなある日、もう本当に、「ぽっくりと」パットが亡くなってしまう。
昔、私の友人のお父さんが、お祝いの席で楽しい時間を過ごしたその夜に亡くなる、ということが実際ありました。まだ50歳だったと記憶しています。そんな感じの……パットの最期。
物故者の「夫」「妻」の立場であれば、権利の筆頭であるのに。
香港でも日本同様、同性婚は認められていないようで、アンジーは法的にも一般常識的にも、「お友だち」の立場に置かれてしまう。
日本でもやっぱり、「内縁の妻」が相続を認められるには、それ相応の手続きが必要。
パットは準備していなかった。
「遺言書」がない。
仕方ない……60代のパットはとても元気で、もっと未来を見つめていた。
配偶者以外の相続では、とにかく「血縁」に強くこだわる、という意味で、日本も香港も似た状況だと思う。
血縁さえあれば、物故者と一面識もなくたって、遺産を受け継ぐことができるのにねえ。
30年以上寄り添ったアンジーには何の権利もない。
でも、映画は、その法的な権利問題を詳らかにしていこう、というところより、もっとずっと深いところに立ち入って来る。
法の存在が、
彼らの長年の絆の間に、無遠慮に割って入る。
法が、きまりが、アンジーを認めない。
法は、あくまで国の、人々の管理を簡便にする手段としてのみ、機能しているように感じられると同時に、そのせいで、アンジーだけが傷を受けるのだ。
最初は、自分たちの家族同然のアンジーを支えなければ、と思っていたパットの兄家族が、否応なく「アンジーに権利はない」を突き付けられることにより、心を揺り動かされて行くのだ。
人の弱さだ。
アンジーにとっては、許し難い状況なんだけど、アンジーもまた、悩み、揺れて、答えを出せない。
人間の心の複雑さが丁寧に描かれており、胸に迫る。
これから先の人生なんて、パットとアンジー同様、誰だってわからないのではあるけれど……
普通に婚姻関係を届け出たというだけで、何だか安穏と暮らしている私。
これが、まるで生きるための策略だった気すらしてしまう。
愛の深さじゃなく、
たかが紙一枚の、生存戦略。
戦わずして勝手に権利を得ている……ごめんねアンジー。
アンジーが、パットと共同名義の貸金庫を開けに銀行に出向いて、拒否されるシーンがあるんですが、「愛にイナズマ」の趣里ちゃんを思い出しました。
「本人でないと、解約できません」しか言わない店員さん。

法治国家は法が全て。
どんなに正しい言い分と知っていようと、理解できようとも関係ない。個々のケースに臨機応変に対応することはできない。
わかるんです、わかるんですよ。
個別対応なんて、やっていられない。
マニュアル通りでなきゃ。困る。
だけどやるせない。わかっちゃいるけど、やるせない。
だけど映画の最後は、力強く過去と未来を見つめるアンジーが凛々しく美しく……
