新「はじまりの断章」
……夜にしか、
ほどけない言葉があるわ…。
昼の言葉は、
名を名乗り、
役目を果たし、
誰かへ
答えを返すためにある。
けれど、
夜の言葉は…。
誰にも見せなかった傷へ、
そっと指を伸ばす。
ピアノの蓋を閉じたあと…。
歌い終えた声の余韻が、
胸の奥で、
まだ微かに震えているとき…。
音にも、
祈りにも、
預けきれなかった
ものだけが、
ワタクシの中に残る…。
だから、
言葉にする。
上手に何かを
「表現したい」から
ではなくて。
書かずにいると、
誰にも気づかれないまま、
ワタクシの底へ
沈んでゆくものが、
あるから…。
…言えなかった痛み。
…差し出せなかった手紙。
…爪を隠して微笑んだ
女の孤独。
…崩れまいとして守った矜持。
そして、
それでもなお、
愛することを
諦められなかった夜…。
ここでは、
それらをひとつずつ、
水面へ掬い上げてゆくわ。
詩になる日もある。
エッセイになる日もある。
独白になる夜も、
物語の衣を纏う夜もある。
けれど、
どの言葉もきっと、
ワタクシが確かに生きた、
呼吸の欠片。
これは、
完成された宣言ではない。
「はじめまして」と、
何もなかったように
きれいに始められるほど、
人の心は、
まっさらではないもの…。
この場所を開く前から、
ワタクシの夜は続いていた…。
孤独も、
音楽も、
祈りも、
愛も…。
ずっと前から、
ここにいた。
だからこれは、
はじまりでありながら、
すでに
何かの途中にある断章。
深い夜のどこかで、
眠れずにいる誰かが、
この言葉の前で、
ほんの少し立ち止まり、
自分の呼吸と
重なるものを
見つけてくれたなら…。
そのひとときだけでも、
ワタクシたちは、
それぞれの孤独の中で、
ひとりではない。
今夜から、
声になれなかったものを、
ここへ置いてゆくわね…。
暗闇を消すためではなく、
暗闇の中にも、
確かに在るものを、
小さな灯りで、
見つけるために……。
その最初のひと欠片を、
いま、
ここに…。
2026.05.09
2026.08.01加筆して修正
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