ファウンド・アンド・ロスト(・アンド・ファウンド)〜私が拾得物遺失所になった話〜|チャレがや杯2026応募作品
大学時代、12時台から夜の6時過ぎまで約6時間、見知らぬ人を待ちつづけたことがある。
来るかわからないその人に、「お願いだから、早く来て」と懇願しつつ。
その日私は2限から授業。大教室へ着いた時、ちょうど1限終わりの他学部生たちが扉から出てきた。
適当に席を選び、授業が始まり、しばらくして気づく⸻机の下に、誰かの何か、ある。
そっと引っ張ると、手帳のようだ。机の下でパラパラめくりはじめて、すぐ分かった。超ド級にプライベートなことばかり書いてある。
4月始まり、見開き1週間。小さく丁寧な字で、左側に買ったもの食べたもの、病院など記録。右側には日記的メモが綴られている。
もう講義の内容は一切入ってこない。
読み耽ってしまった。
モーニング娘。への推し活記録や思いの丈なんて、最も穏当な内容だ。
陰部の湿疹で通院。子宮頸がんワクチンを打つか揺れる。
母の宗教への傾倒。彼女の大小の嘘への不審、怨念もしくは呪詛。
ミスコンテスト出場準備で、人が変わった親友へのもやつき。
秋に男性に告白され交際開始。1月後にはラブホテル料金を割り勘で払い、避妊目的でピルを飲むように。「毎回ホテルは嫌。もっとプールとか普通のデートがしたい」。
名前や住所、電話番号など個人情報は、発見できず。
手帳を閉じ、私がまず思ったのは、
(これ絶対、外に忘れちゃダメなやつ。)
持ち歩かず、実家の部屋にしまうべき……、なのだが、肌身離さず持たざるを得ない理由はもう読んで知っていた。
母親は彼女の不在時、部屋を隈なくチェックする。置いておけない。
2限終わり前、いったん元あった机の下に戻す。
授業が終わり、同じ学科生らが教室を出る。
(……どうするこれ)
放置して去れる性格では、私はない。
常識的な線は、「大学事務局に届ける」。
が、打ち消す。書かれている内容が内容。プライベートすぎる。
おとしものを照会し、あったにせよ、職員達であれ「読まれた……」とショックを受け、消せない黒歴史化してしまうかも……。
書くなよ置き忘れるなよ、なのだが、誰だってやらかす。
読んで、変に持ち主へ感情移入してもいる。
で、決めた。
(オッケ。「人間遺失物拾得所」に成ってやんよ)
この席に私が留まれば。
机の下の手帳に他者が手を伸ばすことはできない、それを許さない。
ただひとり、落とし主を除いては。
彼女が果たしてここに戻り、回収したら、私はお役御免。
遺失物拾得所……か、私目線では拾得物遺失所に、成るのだ。
そこから後の時間は、一言で言えば、苦行荒行。
じっと座りつづけイコール、学食に行けない、トイレにも行けない。
空腹でギュルギュル音が鳴る中、午後最初の3限の授業「ドイツ文学史」を聴講。他学部の授業で特段興味もないが、いかにもな顔を作る。俳優や女優にでもなった気分。
リュックの底を手であさる。ライターの次にフリスクの箱を触り、落とさぬよう注意深くシャカシャカし、かじる。大教室で私だけ、冬山遭難中みたくなっていた。
スマホにくる連絡もガン無視と決めた。悪い友らに居場所が割れたら、詮索の的となり、最悪、やって来て手帳を読もうと強奪される。
4限、5限。
来ない。気が遠くなりかける。
当時の恋人からの連絡も、徹底無視。恋人とは翌月バレンタイン目前で破局するが、それも遠因だったかも。
そして、膀胱も破裂寸前だった。
それでもあの時、やれて本当によかった。
やらなければ絶対、彼女と知り合えなかった。今も続く公私にわたるパートナーシップを築くことなど、成し得なかったわけだから。
(了、1,500文字)
コッシーさんとみくまゆたん会長さんの、こちらに参加しました。
13キーワード全入れ、1500文字ピッタシを狙って、やってはみました。
内容が面白いかどうかは、読んでくださる皆様に委ねます☆
が、書く作業自体は楽しんでできました。
ありがとうございました🐍✨
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