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【遠回り人生 LIVE TOUR】M07.楽屋に届いた午後

午後の楽屋に、小さな紙袋が届いた。

「差し入れです」

マネージャーの霧島がテーブルに置くと、パイセンが真っ先に立ち上がる。

「食いもん!?」

「手紙もあります」

「じゃあ先に読め」

アニキに言われ、素直に座り直した。

紙袋の中には、手作りのスコーンと紅茶葉。それから、小さな手紙。

『遠回り人生のみなさんへ

いつも素敵な音楽をありがとうございます。
紅茶と、手作りのスコーンを送ります。
よかったら、みなさんでお茶の時間にどうぞ。

これからも応援しています。』


「手作りだって!」

ほぴこが包みを覗き込む。

天使様の横で、じじ様がもう一枚の紙を見つけた。

「こっちは、紅茶の淹れ方みたい」

お湯の温度、茶葉の量、蒸らす時間。

その最後に、小さく一行。

『――昨年、紅茶の資格を取りました。』

「資格!?」

「すごいねえ」

天使様が笑う。

「じゃあ、この通りに淹れてみようよ」

なぜか全員が、じじ様を見た。

「……僕?」

「一番ちゃんと読んでた」

アニキの一言で決まった。


じじ様がメモを横に置いて、紅茶を淹れる。

湯気と一緒に、ふわりと香りが広がった。

「……全然違う」

ほぴこがカップに顔を近づける。

「香りがすごい」

「苦くねえ!」

「お前、普段どんな紅茶飲んでんだよ」

パイセンの隣で、アニキが呆れる。

天使様もひと口。

「紅茶って、こんなにおいしいんだねえ」

次はスコーン。

半分に割ると、ほろりと生地がほどけた。

「うまっ」

「これ好き」

「まだ全員食ってねえからな」

「2個目いってないって!」

じじ様が、手元のスコーンを眺める。

「……これ、ちゃんと割れてるね」

「割れてる?」

「こういうふうに膨らんで割れるの、意外と難しいらしいよ」

天使様も自分のスコーンを見る。

「じゃあ、何回も焼いたのかな」

「たぶん。紅茶の資格だって、簡単じゃないだろうし」

手紙には、そんなことは何も書いていなかった。

頑張ったとも、失敗したとも、何度やり直したとも。

ただ、紅茶の淹れ方と、きれいに焼けたスコーンがここにある。

天使様が、もうひと口かじった。

「僕らには、できたところしか見えてないんだね」

少しだけ間があった。

「……いっぱい頑張ったんだろうねえ」


「ん〜……♪」

天使様が、不意に鼻歌を始めた。

「お茶にしよう〜♪お茶にしよう〜♪」

「……何だそれ」

「今できた」

「だろうな」

「スコーンもあるし〜♪紅茶もあるし〜♪」

「見たまんまじゃねえか」

「今日はちょっと寒いし〜♪……ん〜……お茶にしよう〜♪」

アニキは呆れた顔のまま、近くにあったアコギを取った。

ぽろん。

天使様が笑う。

「ん〜……」

もう一度、ぽろん。

「……あ」


歌が、続きを見つけた。

急がなくてもいいからさ

うまくいかない日もあるし
何度やっても
だめな日もある

それでも今日は
ここまで来たから

ちょっとくらい
休んでいこう


ぼん、と低い音が加わった。

いつの間にか、じじ様がベースを持っている。

パイセンも、テーブルを叩き始めた。

とん、とん

一拍、遅れる。

「あ」

誰かが吹き出した。

「今のなし!」

「もう鳴ったから無理」

「厳しいな、じじ様!」

笑い声のあと、また、とん、とん。

ほぴこが鍵盤に手を置く。

ぽろん


窓の外には、少し涼しくなった秋の午後。

紅茶の湯気が、ゆっくり上っていく。

天使様が歌う。

湯気の向こう いい香り
知らない季節を連れてきた


少しだけ、声が小さくなった。

君が歩いてきた時間まで
届いたような気がした


霧島の手が、一瞬止まった。


お茶にしよう
お茶にしよう

遠回りの途中で
ちょっと お茶にしよう


次の言葉が出てこなくて、「ん〜……」と考える時間もあった。

少しくらいずれても、誰も止めなかった。

誰も、新曲を作ろうとは言わなかった。

ただ、誰かから届いた午後を囲んでいたら、

音楽が鳴った。


次の予定の時間になり、5人は楽屋を出ていった。

「ごちそうさまでしたー!」

パイセンの声が、廊下の向こうへ消える。

霧島は資料を閉じた。

テーブルには、スコーンがひとつ。

その横には、少し冷めた紅茶。

スコーンをひと口。

「……美味しいですね」


窓の外では、涼しい風が吹いていた。




🫖ENDING

誰かから届いたものの向こうには、
見えない時間があるのかもしれません。

何度もやり直した時間。
うまくいかなかった時間。
それでも、もう一度やってみた時間。

その全部を見ることはできなくても、
ある日、思いがけない形で届くことがあります。

言葉だったり。
手紙だったり。
ときには、焼きたてのスコーンだったり。

だから今日は、少しだけ立ち止まって。

遠回りの途中で、ちょっとお茶にしよう。

Special Thanks

今回の公演は、メンバーシップ仲間ひじきちゃんのnoteのコメント欄から生まれました。

「遠回り人生のみんなに、手作りのスコーンを差し入れしたい」

そんなひと言から始まった、小さな秋の午後です。

誰かが歩いてきた時間が、誰かに届いて、また別の物語になる。

第2部が始まったばかりの遠回り人生に、こんなにあたたかな「遠回り」を届けてくれてありがとう。

ひじきちゃん、素敵なきっかけを本当にありがとう。

ひじきちゃんのnote


📓 業務日誌

差し入れ:スコーン・紅茶葉
メンバー:完食
予定外のセッション:発生
業務進行:若干遅延

総評:
休憩も必要。


――マネージャー 霧島蓮太


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