【せりふ三題噺】コンビニバイト君と常連さん「今日はここまでにしよう」
■セリフ
「今日はここまでにしよう」
■三題
・置き配
・コンビニ
・雪うさぎ
「今日はここまでにしよう」
店長の言葉に、落ち着かない様子で窓の外へ視線を向けていたアルバイトの青年がそっとため息を付く。
時刻は23時50分。
「返送手続きっすか」
「珍しいね、あの置き配の人が期限過ぎちゃうの」
「ほぼ受け取り日当日に来店されますからね、あの人」
学生向けの寮や単身者の多い地域故か、宅配のコンビニ受け取り指定を利用する客は多い。
この手のサービスは通常、3日間の保管期間を過ぎれば一律返送となる。再発送は不可。
スタッフも人間なので、いつものお得意さんには融通を利かせたくもなるのだが、今時はそうもいかない。
「や、でもあと10分……」
「あと7分だねぇ」
ましてやアルバイト、松井青年にとっては大学の先輩でもある相手なので、少々気不味い。
「学校ではいつも通りなの?」
「や、学部違うんで大学では滅多に会わないんすよ。たまに喫煙所で喋るくらい」
「へ〜意外。仲良さそうなのに」
あと5分。
「今日は電車も止まってないよね?」
「そのはずですけど……ちょっと雪の様子見てきます」
間の抜けた入退店音が鳴り響く。
細々と舞い続ける雪はまだ止まない。風のない夜で良かった、と思いながら袖をめくる。
あと、3分。
「あ」
腕と腕時計越しに見えたのは、紺色の傘と真新しいスーツ。
「あ、松井くん、おつ」
「店長ー!間に合った!?」
「……かれさま?」
傘を畳むのもそこそこに、引きずられるように入店する。
「はいバーコード出して下さい! 商品合ってますね!?」
「あっ、はい」
あと1分。ギリギリの戦いであった。
ガッツポーズ後、ハイタッチを交わす店長とバイト青年。仲良いな君たち、とは置いてけぼりの置き配の人こと先輩の感想だ。
「いやうん、ギリギリになってゴメンネ?」
「いえいえ、卒論お疲れ様っす」
「あはは、そっちはようやく終わったよ」
色々な意味で、と付け加えられた一文は聞かなかったことにしよう。
「今日は朝まで?」
「6時までシフト入ってます。講義は午後からっすね」
「本当にお疲れ様……!」
松井からすれば、元から睡眠が短く不規則になりやすい体質なのでどうということ無いのだが。むしろ、お手本のような健康優良児がこんな時間まで出歩いている方がよっぽどお疲れだろう。
「うう、後輩の優しさが染みる……頑張るよい子にはお菓子あげちゃう」
「お疲れ過ぎません?」
そっと握られた手のひらにちょこんと置かれた、素朴な個包装。駅デパの土産物売り場にありそうな趣き。
「博多の銘菓らしいよ。箱で貰ったからおすそ分け」
「そりゃどうも」
手持ちのエコバッグからもう一つ取り出して、包装を剥いて見せてくる。マシュマロだろうか、ふわふわした雪うさぎと目が合った。
「はい、あ~ん」
「え〜……」
「えーじゃなくてあーだってば」
訂正。よっぽどではなく、かなりキている。
大人しく口を開けたのは、憐れみだったのかちょっとした恐怖だったのか。味は美味しかったのがせねてもの慰めか。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
そんなやり取りを見つめる店長もニコニコだ。
まるで触れ合い動物園で小動物に餌をあげてはしゃぐ初孫に目を細めるジィジのよう。ジィジ、その人達は幼児じゃなくて成人です。
「卒論終わったのなら、今度飯でも行きます?」
「いいね〜噂のパンチョ?」
「地味に遠いんすよね、あの店」
今夜の雪は、まだ止まない。
以上、1,360字。
こちら参加させて頂きました。
別企画ですが、これ↓の続編でした。
前作もBLというよりラブ未満のお話ですが、苦手な方はご注意下さい。
