【書評】『ホテルクラシカル猫番館5』―「謝りたい」と思える大人でいたい
小湊悠貴さんの「ホテルクラシカル猫番館」シリーズ第5弾は、“再会”と“わだかまりの解消”が大きなテーマになっている一冊である。
このシリーズの魅力は、クラシカルなホテル、美味しそうなパンや料理、猫たちの癒やしだけではない。人と人との距離感や、不器用な優しさを丁寧に描くところにある。今回も、その魅力が存分に発揮されていた。
昔の友人と再会する怖さ
今回は紗良も要も、かつて親しかった友人と再会する。
若い頃は近すぎたからこそ傷つけ合い、時間が経つほど連絡を取れなくなる。大人になると、「今さら謝れない」「相手はもう忘れているかもしれない」と考えてしまうものである。
本作では、その微妙な感情の揺れがとてもリアルだった。
特に印象的だったのは、“悪人がいない”ことである。誰かが極端に悪かったわけではなく、ほんの少しの意地や誤解、タイミングの悪さが積み重なって距離ができてしまう。その描写が実に上手い。
だからこそ、読んでいて胸が痛くなる。
そして同時に、「分かるなぁ」と深く共感してしまうのである。
パン作りが人をつなぐ
本作ではベーグル作りやピロシキ作りが重要なモチーフとして登場する。
料理やパン作りというのは不思議なもので、一緒に手を動かしていると、言葉だけでは埋められない距離が少しずつ縮まっていく。
これは仕事でも同じなのかもしれない。
職場でも、真正面から「仲良くしましょう」と言うより、一緒に何かを作るほうが関係が改善することがある。共通の目的や作業は、人間関係の潤滑油になる。
本書を読みながら、そんなことを考えた。
「謝りたい」と思えることの価値
歳を重ねるほど、人は自分の非を認めづらくなる。
しかし本作では、登場人物たちが「謝りたい」「やり直したい」という気持ちを素直に抱いている。その姿がとても誠実で、読後感の良さにつながっていた。
謝罪とは負けではない。
むしろ、人間関係をもう一度育て直そうとする勇気なのだと思う。
本書は、そんな“大人の再出発”を優しく描いた物語である。
紗良と要の“次のステージ”にも期待
シリーズを読んでいると、どうしても気になるのが紗良と要の関係である。
今回はそれぞれの過去に一区切りがついた印象があり、二人が次にどんな未来へ進んでいくのかますます楽しみになった。
大きな事件が起こるわけではない。
けれど、人の気持ちの機微をここまで丁寧に描ける作品は貴重である。
疲れた心をそっと温めてくれるような一冊だった。
心に残ったポイント
人間関係のわだかまりは、時間だけでは解決しない
一緒に「何かを作ること」は、人との距離を縮める
謝る勇気は、大人になってからこそ必要
優しい物語には、人を前向きにする力がある
この本はこんな人におすすめ
ほっこり系の人間ドラマが好きな人
「かもめ食堂」のような空気感が好きな人
パンや料理が登場する小説が好きな人
疲れた心を癒やしたい人
優しい読後感の作品を探している人
