ジャーナリングとは? 書く瞑想が「自己認識」につながる理由
夜、布団に入ってから。
なぜか急に、脳内で会議が始まりませんか。
議題は「私、このままでいいのかな」。
参加者は全員自分。議長も自分。反対意見を出すのも自分。 しかも去年の会議と、議題がまったく同じです。
講座は受けました。本も読みました。資格も取りました。 動いていないわけじゃない。むしろ、けっこう動いてきたほうだと思う。
なのに「で、結局何がしたいの?」と聞かれると、答えられない。
そして議事録も残らないまま、朝が来ます。
👉 これ、意志が弱いからじゃないんです。
なぜ、この会議だけ終わらないのか
心理学では、あの脳内会議のことを 反芻(はんすう)思考 と呼びます。
牛が一度飲み込んだ草を、もう一度戻して噛み直す、あの反芻です。 名づけた人のセンスがえげつない。でも、たしかにそっくりなんですよね。
ただ、反芻にも種類があります。
たとえば「昨日のあの言い方、なんだったんだ」というタイプ。 これは正直、まだマシなほうです。考える対象がはっきりしているので。 一週間もすれば「まあ済んだことだし」で、だいたい終わります。
厄介なのは、もう一方です。
「私は何がしたいんだろう」
これには、終わりの合図がありません。
済んだ話じゃないから、時間が解決してくれない。 答えが出るまで終われないのに、その答えは自分の中にしかない。
しかも、私たちはそれを頭の中だけで探そうとします。
だから同じ引き出しを開けて、中を見て、閉じて、また開けている。 去年と同じ引き出しを、今年も開けている。
10年考え続けている人がいるのは、そういうことです。 根性が足りないわけでも、真剣さが足りないわけでもありません。
夜に会議が始まるのには、理由があります
そしてもうひとつ、脳のほうにも事情があります。
私たちが何かに集中していないとき、脳では デフォルトモード・ネットワーク(DMN) という回路が活発になる、と言われています。
名前は仰々しいですが、担当しているのは 「過去を思い出す」「未来を想像する」「自分について考える」。
要するに、「自分についての考えごと」担当です。
問題は、この回路がやたら優秀なこと。 黙っていても勝手に立ち上がるし、途中で止めるボタンがついていません。
夜、やることが何もなくなった瞬間に会議が始まるのは、つまり仕様です。
👉 暇になったから静かになる、ではなく、暇になったから動き出す。
なお、これから紹介する方法にかかる時間は、思っているよりずっと短いです。 ある研究では、2分でした。 その話は後半でします。まずは、なぜこの会議から抜けられないのかから。
たぶん、順番が逆でした
ここで少し、状況の話をさせてください。
子育てが一段落した人。 定年で組織を離れた人。 長く続けた仕事や役割を、何かの事情で手放した人。
立場はバラバラですが、状況としては全員、 前の役割を失った直後にいます。
そして多くの場合、そこですぐ「次」を探しに行きます。
講座を申し込む。資格を調べる。誰かに相談する。話を聞きに行く。
熱量はある。行動もしている。 なのに、なぜか空回りする。
私も、そういう時期の方とお話しする機会が何度もあるのですが、 だいたい共通しているのが、 前のものについて、まだ何ひとつ言葉にしていないことなんです。
やり切ったのか、心残りがあるのか。 誇らしいのか、実はちょっと腹が立っているのか。 あの日々は自分にとって何だったのか。
聞かれたことがないので、答えたこともない。 だから、自分でもわからない。
「次を探す前に、前のものを片づける」
順番としては当たり前に聞こえますが、 これがどれくらい効くのか、実は数字で示した研究があります。
書いていたら、仕事が決まった人たち
1994年に発表された、スペラ、ブールファインド、ペネベーカー(Stefanie P. Spera、Eric D. Buhrfeind、James W. Pennebaker)
による研究です。 掲載されたのが心理学ではなく経営学の学術誌、というのがまた面白いところで。
対象は、レイオフされたばかりの専門職63名。 全員、それなりにキャリアを積んできた人たちです。
彼らを3つのグループに分けました。
失職について、自分の考えや感情を書くグループ。 感情には触れず、その日の予定など当たり障りのないことを書くグループ。 何も書かないグループ。
書くのは1日20分ほど、5日間だけ。それ以外は何もしていません。
そして8ヶ月後。
再就職していた人の割合は、 感情について書いたグループが53%。他の2グループは、24%と14%。
倍以上の差がついていました。
ここまでなら「まあ、書いて気持ちが整理されたんでしょうね」で 済ませられる話かもしれません。
でも、この研究の本当に面白いところは、その先にあります。
研究チームが調べたところ、 書いたグループと書かなかったグループで、 受けた面接の回数は変わっていなかったんです。
つまり、就職活動を頑張るようになったわけではない。 やる気が上がったわけでもない。 応募数が増えたわけでもない。
変わっていたのは、 前の仕事に対する見方と、次に向かうときの構えのほうでした。
👉 頑張ったから決まったのではなく、前の感情が片づいたから、次に進めた。
私はこれを知ったとき、ちょっと背筋が伸びました。
「まだ動きが足りない」と思って講座を増やしていた時期の自分に、 教えてあげたい話だなと。
書くと、頭の中で何が起きているのか
では、書くと何が起きているのか。 分解すると、3つのことが同時に起きています。
(1)置く
料理でたとえるなら、頭の中で考えるのは まな板のないキッチンで調理しようとしている状態です。
材料はそろっている。包丁もある。 でも置く場所がないから、両手で持ったままあれこれ考えている。
だから同じ材料を持ち替えているだけで、いつまでも何も切れない。
さっきの「次を探しに行くと空回りする」話も、たぶんこれです。 両手がふさがったまま、新しい材料を取りに行こうとしている。
書き出すというのは、要するにまな板を出す行為です。
(2)名づける
マインドフルネスには「ラベリング」という基本の技法があります。 今の状態に、名前をつけるだけ。
不安がある →「不安」。イライラする →「怒り」。なんかザワザワする →「落ち着かない」。
たったこれだけなのに、脳の中では意外と大きなことが起きているようで。
リーバーマンらの研究(2007年)——論文タイトルが 「Putting Feelings Into Words(感情を言葉にする)」という、そのまんまのものなのですが—— では、感情に言葉のラベルをつけたとき、 恐怖や不安に反応する扁桃体の活動が下がり、 判断や制御をつかさどる前頭前野の一部が活発になる、と報告されています。
不思議ですよね。名前をつけただけなのに。
でも、日常でも似たことは起きていて。
夜中の正体不明の物音は怖いけれど、 「あ、洗濯機か」とわかった瞬間にどうでもよくなる、あの感じです。
モヤモヤも同じで、モヤモヤのままだと巨大に見えます。 書き出して「あ、これ単に寝不足と、来週の予定が嫌なだけだ」とわかると、 急に等身大になる。
(3)つなげる
そして書いているうちに、バラバラだった出来事が、 順番と理由を持ちはじめます。
「あれがあって、だからこうなって、それで今こうなんだ」
さっきのレイオフ研究で起きていたのは、たぶんこれです。 前の職場のことが、ようやくひとつの話になった。 話になったから、置いてこられた。
やりたいことは、書いたものの中から見つかる
ここで、ひとつ大事なことを。
「何がしたいかわからない」という人がジャーナリングでつまずくとき、 理由はだいたい同じです。
答えを書こうとしてしまう。
書いても答えが出ない。だから意味がないと思ってやめる。
でも、ジャーナリングは答えを出す作業ではありません。 素材を出す作業です。
さっき「同じ引き出しを開けて閉めている」と書きましたが、 やることはその逆です。
引き出しの中身を、全部床にぶちまける。
順番も、きれいさも、整合性もいりません。 とにかく全部出す。出してから、床に散らばったものを眺める。
そして、なぜか目が離せないものを見つける。
👉 やりたいことは、考えて出てくるものじゃない。 書いたものの中から、見つかるもの。
考えて出てこなかったのは当然なんです。 頭の中には、引き出しを開ける機能しかないので。
本番は、読み返す時間です
ということは、書きっぱなしでは終わりません。
書いている最中は、まだ吐き出しているだけ。 ジャーナリングの本番は、書き終わったあとにあります。
書き終わった直後の自分は、書いていたときの自分と、もう少しズレています。 だから自分の文章なのに、ちょっと他人が書いたもののように読める。
「へえ、こんなこと思ってたんだ」
この「へえ」が出たら、その日は大成功です。
ただし、コツがひとつあります。
良い悪いを決めないこと。
「こんなこと考えるなんて心が狭いな」も、 「よし、前向きなこと書けてる」も、どちらもいりません。
そう思ったんだな。ふーん。それだけ。そのまま受け取る。
これ、マインドフルネスでいう「評価しないで観る」そのものです。 だからジャーナリングは、書く瞑想とも呼ばれています。
読み返しながら、なんとなく引っかかった言葉に印をつけてみてください。 理由はわからなくて構いません。むしろ、わからないほうがいいくらいです。
それが、床にぶちまけたものの中で、 今のあなたがなぜか目を離せないものです。
👉 書くのは、吐き出す作業。読み返すのが、自己認識の作業。
しかも、10分もかかりません
「毎日30分もノートに向かうなんて無理」と思われた方。
2008年に発表された、バートンとキングの研究があります。 タイトルが「The two-minute miracle(2分間の奇跡)」。強気です。
この研究では、参加者に1日2分、それを2日間だけ書いてもらいました。 それだけで、4〜6週間後の心身の不調の訴えが、書かなかった人たちより少なかった。
2分×2日で、です。
もちろん、長く書いたほうが効果が大きいという研究もあります。 この2分の研究がやったのは「どこまで短くしても効果が出るか」を試すことなので、 2分が最適というわけではありません。
ただ、続かない30分より、続く5分のほうが強いのは間違いないと思っています。
私自身がやっているのは、こんな形です。
まず、1分だけ呼吸に集中します。 目を閉じて、息が入って出ていくのをただ感じる。 頭を空にするためではなくて、「ここから自分の時間ですよ」という合図です。
次に、5分で書きます。タイマーをかけます。
ここでひとつだけ、大事なルールがあります。
考えて、絞り出さないこと。
お題を見て、浮かんだことをそのまま書く。それだけです。
たとえば、こんなお題です。
今日、あなたの日常をひそかに支えてくれた「当たり前」は何ですか?
あなたが人生で最も大切にしたい価値観は何ですか?(誠実さ、自由、愛、探求……)
前者は軽く、後者はけっこう重い。 でもどちらも、「うーん」と考え込むのではなく、 お題を読んだ瞬間に浮かんだものを書きます。
「何かないかな」と探し始めたら、それはもう頭の中に戻っています。 さっきの引き出しを、紙の前でまた開けているだけです。
浮かばなければ、浮かばないでOK。 「何も浮かばない」と書いてしまってもいい。
字は汚くていい。文章になっていなくていい。単語だけでもいい。 書くことがなくなったら、そこで終わりです。無理に埋めません。
最後に、2〜3分かけて読み返します。 評価はしないで、引っかかった言葉にだけ印をつける。
合計10分弱。
時間はご自分に合わせて変えてください。3分でも、10分でも構いません。
ただ、終わりを決めておくことだけはおすすめします。 終わりが決まっていないと、途中からまた反芻に戻ってしまうので。
犬には肩書きがありません
うちにはライマーとテオという犬が二頭います。
彼らには役職も、実績も、資格もありません。 名刺もないし、キャリアプランもない。
それでも毎日、とってもごきげんです。ずるいです。
でも同時に、彼らは自分を振り返ることもできません。 「最近ちょっと吠えすぎかもしれない」とは、たぶん一生思わない。
肩書きを失ったあとに、 「じゃあ自分は何者なんだろう」と問い直せるのは、人間だけです。
正直、けっこう面倒な機能だと思います。 夜中に勝手に会議を始めるくらいですから。
でもこれは、手放したあとにもう一度やり直せる、唯一の機能でもあります。
ぐるぐるするのも、見つけるのも、使っているのは同じ機能です。 違いは、自動で再生されているか、自分で動かしているか。それだけ。
まとめると
やりたいことは、頭の中では見つかりません。 引き出しを開けて閉めているだけになるので。
探しに行く前に、まず前のものを言葉にする。 順番としては、たぶんこちらが先です。
そして書いたら、読み返す。評価せずに、そのまま受け取る。 引っかかった言葉に、印をつける。
ここまでやって、ようやく自己認識になります。
もし今夜も会議が始まったら。
その議題を、紙に移してみてください。 5分書いて、2分読み返す。それだけです。
頭の中に置いておくよりは、たぶん進みます。
……とひととおり書いておいてなんですが、 実際にやってみると、ひとつだけ地味に大変なことがあります。
お題を探すのが、けっこう面倒くさい。
毎日となると、これが意外と続かない理由になります。 書く気はあるのに、お題を探しているうちに時間が過ぎていく。
お題があらかじめ印刷されたジャーナリング用のノートも売っていて、 それを使うのもひとつの手です。
私はしばらく、その日ごとにAIにお題を出してもらっていました。 「今日はこんな気分だから、こういう問いをください」という感じで。
これはこれで良かったのですが、毎回説明するのが、だんだん面倒になってきて。
そこで、最近思いました。
そうだ、私に合ったお題を出してくれるアプリを作ればいいのでは?
というわけで、作りました。 作業時間は30分くらいです。
次回はその話を。
ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。プロフィールには、私が大切にしている視点や、日々考えていることをまとめています。よかったら、のぞいてみてください。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!