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小さな女の子だった。

生まれてからずっと寝たきりである。

お母さんは一生懸命に女の子の世話をするけれど、
ときどき疲れ果ててしまう。

車いすを押してあるいていると、ジロジロ見られる。


「愛情が足りないから 子どもの障害がなかなか良くならない」

と親せきに言われる。

もう、私も娘もこの世から消えてなくなりたい・・・ そんな思いが脳裏をかすめていくことが何度かあった。
誰にもしられないようにしていたけれど。
お兄ちゃんはやさしくて、思い詰めたお母さんの背中をさすってくれた。

「だいじょうぶだよ。お母さん。僕がついている」

その優しさに何とかお母さんは支えられて、 重い障害のある娘を抱えてここまで生きてきた。
そのお兄ちゃんが時々、小さな声でお願いする。
「学校にだけは(妹を)連れてこないでね」


いじめによる子どもの自殺も各地で相次いでいる。
学校という子ども社会で生きていくのは大変だ。
もしも重い障害の妹を見られたら、 いじめや冷やかしの対象になるかもしれない と心配だったのだろうか。
お母さんはお兄ちゃんの気持ちが痛いほどわかる。

「そうだね。つれていかないから安心して」 そう言いながらお母さんは、 娘がお兄ちゃんの学校ではいないことにされている、 ということにさみしさを感じていた。

お母さんは、 その気持ちをお兄ちゃんに気づかれないように必死だった。 お母さんは妹が不憫でしかたがなかった。
たしかに重い障害はある。
だけど、この子は生きている。
存在していないことにしなくたっていいじゃないか。


ある日、六年生になったお兄ちゃんがソフトボールの選手に選ばれた。
もうそろそろ大丈夫じゃないかと思い、 妹にも兄の活躍する姿を見せたくて、お母さんは決心を固めた。
車いすに妹を乗せて学校へと応援に行った。
お兄ちゃんの気持ちを考えて、隠れるようにして応援していたのだけれど。 そんなお母さんの気持ちが天に届いたのか、お兄ちゃんのチームは勝った。 「お兄ちゃん、がんばったね」
お母さんが妹の車いすを押して帰ろうとしたときだった。
チームメイトたちのざわめきが聞こえてきた。

「あの車いすの女の子はいったい誰だ?」
「一緒にいる人は、あいつのお母さんじゃないか?」
「あれ?あいつに妹なんていたのか?」

子どもたちはだんだん近づいてくる。
気がついたときには、お母さんと妹は子どもたちにかこまれていた。車いすの中の小さな女の子に、 お兄ちゃんの同級生たちの視線が注がれる。 お母さんの心臓の鼓動が聞こえてきそうだ。



「学校にだけはつれてこないでね」 と言われたのに・・・。  


そのとき、じーっと見ていた子どもたちの何人かが手をのばして、
妹の頭を撫でて言ったという。

「勝利の女神だね」

「ぼくたちはこの子が応援してくれたから勝てたんだよね」

「そうだよ、そうだよ」

「勝利の女神だよ。ありがとう」

「佐藤三代治『心に響く小さな5つの物語』より」


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