『ゲテモノ臭』がするロックアルバム
誰にでも好き嫌いはある。
ロックは基本的に好きなものだけ聴けばいいと思うが、あまり詳しくない、聴いていないものを批判するのはやはり良くない。私は比較的許容範囲が広いというか、基本的になんでも美味しく食べることができる。しかし唯一、長年避けてきたジャンルがある——いわゆる「ゲテモノ臭」のするやつだ。
グラムとかメタルとか、変態とか、そういう方向の話ではない。純粋なゲテモノ。「なぜこれが存在するのか」という疑問を先に感じさせるタイプのやつ。最初からゲテモノ臭を出して制作されたやつ。
今日はそういうアルバムを順に聴いてみて、そのゲテモノ臭とやらを正面から愉しんでみようと思う。
Gene Simmons (1978)

Kiss が Alive II のあとしばらく休養を取ると宣言して、1979年の『Dynasty』をリリースするまでの間に発売されたのが、各メンバーのソロアルバムである。相当なKISSファン以外では、『Love Gun』まで聴いても、これらのソロを制覇した人はなかなかいないのではと思う。
私もその一人で、まあ有名どころではAce Frehleyの「New York Groove」くらいしかよく知らなかった。特にGeneの場合、一体何をやらかすか—— Paul や Peter のように歌を聴かせるタイプのソロならまだしも、もはやゲテモノを通り越して卑猥さすら感じていたため、かなり避けていた。
しかし彼らの全盛期とも言える70年代中期から後期にリリースされた作品だけあって、実はクォリティが相当高い。
当時KISSのメンバーの一部には不満が鬱積しており、バンドの結束を保つために4人同時ソロアルバム計画が立案された。プロデューサーのSean Delaneyは Gene に「悪魔キャラを全面に押し出すか、好き放題やるか、どちらかにしろ」と告げた。シモンズは迷わず後者を選んだ。
このアルバムの凄みは、ゲストミュージシャンの豪華さにある。
Radioactive
イントロは不穏な弦楽のプレリュード、ボーカルは Janis Ian。と思いきや1:06から突然ポップなロックへ——この落差が秀逸だ。ギターは Aerosmith の Joe Perry。70年代ハードロックファンとしては、Geneと Joe Perry に交流があったことが嬉しい驚きだが、Joeがその後 Aerosmith を脱退するのはこのアルバムのせいではないか、などと勝手に勘繰りたくなる。コーラスはデトロイト出身の Bob Seger、ピアノは Eric Troyer。ヘヴィなドラムの上にポップなギターとボーカルが乗る、普通に良い曲だ。サビに入る前のベースの動きが特に好き。
なお最近のGeneのソロツアーでも、このプレリュードがライブのオープニングに使われている。
Burning Up with Fever
イントロの不協和音のあとに「Lovely」と自己陶酔する例のくだり。ただそのあとちゃんと音がまとまるところも含めて完成している。もともとは『Destroyer』レコーディング時にデモが録られたが、Bob Ezrinにボツにされた曲。
See You Tonight
KISSの前身バンド、Wicked Lesterの1971年アコースティック・デモが原型。Beatlesへの愛が全面に出た、軽やかなポップ・ナンバーだ。バッキング・ボーカルには、ブロードウェイ・ミュージカル「Beatlemania」の出演者が起用されるという念の入れよう。KISSの「Sure Know Something」と比べても引けを取らない、隠れた名曲だと思う。
Tunnel of Love
重い低音リフで始まり、イントロからAメロはヘヴィなサウンドが続くが、サビで急に柔らかくなる。このギャップが面白い。ギターにはJoe Perryの名前がクレジットされており、バッキング・ボーカルはDonna Summer。シンプルにサビ=タイトルで覚えやすく、アルバムの中では最もKISSっぽい質感の曲かもしれない。
See You in Your Dreams
KISSの1976年作『Rock and Roll Over』に収録されていたが、シモンズ自身が仕上がりに納得いかず再録音した曲。よりポリッシュされており、Cheap Trick の Rick Nielsen がギターで参加している。KISSのイメージに女性バックボーカルはなかったので新鮮だが、サウンドの芯には初期KISSの匂いがちゃんと残っている。
When You Wish Upon a Star
アルバムの締めくくりは、ディズニー映画『ピノキオ』のカバー。シモンズはイスラエルで極貧の幼少期を過ごし、8歳でアメリカに移民した。「この曲を初めて聴いたとき、英語がほとんど話せなかったけど、歌詞の意味はわかった」と本人は語っている。レコーディング中にシモンズが泣き崩れ、プロデューサーが再録音を禁じたため、「声が微かに震えるテイクがそのまま使われている」とのこと。悪魔のメイクをした男の、別の顔だ。
Black Sabbath 『Born Again』 (1983)

なんだ、これは。
Ian Gillanの声に触れる前に、まずジャケットについて言わなければならない。食べる前からゲテモノ感200%である。赤い悪魔の赤ちゃんが青い背景に浮かんでいる——なぜ青なのか、今もって謎だ。
それはともかく、Ian Gillanである。今となっては望んでも得られないあの強烈なシャウト、彼の代名詞とも言えるあの声を、こんな形で使うとは。なんという無駄遣いか。しかもバンドは大ベテランのBlack Sabbathだ。それがチープなジャケットと奇妙なシャウトで、これまで築き上げてきたスタイルをかなぐり捨てようとは——残念の極みとしか言いようがない。
Trashed
その始まり方なの? という始まり方だ。曲の勢いに無理やり乗ろうとするGillanのシャウト。リフとボーカルがどこかかみ合わず、リズムと声がそれぞれ空中に浮いたまま、最後まで着地しない感じがする。リフ自体は「Neon Knights」と同じ感覚で、正直ボーカルを抜いたら相当カッコいいのではないか。それにしても若いころのIan Gillanのシャウトはすごい。これはもっと別のところで使うべき声だった。『Perfect Strangers』で大人しくなってしまったのが、今となっては惜しい。
Disturbing The Priest
イントロのGillanの笑い声からすでにゲテモノ臭が漂う。歌詞の単語数は多く、ひたすらGillanが叫び続ける構成だが、バックのサウンドは実はしっかりしている。紛れもなく『Heaven and Hell』以降の80年代サバスの音だ。表と裏の落差が激しい一曲。
Zero The Hero
初期Black Sabbathのどろどろ感が戻ってきたと評判の曲。たしかにリフとサウンドはそうかもしれない。それでもGillanはなぜそんなにシャウト風に声を張るのか——ただ、他の曲よりはずっとマッチしている。もしかしたらGillanの新しい一面を掘り当てた曲かもしれない、と思わせる暗黒感がある。ギターソロだけが気を吐いており、まるでボーカルと一緒に叫んでいるようだ。
Digital Bitch
曲名が秀逸。デジタル・ビッチ。金持ちで豪快なビッチから逃げおおせ、と繰り返し歌うだけの曲だが、これが笑える。しかしギターリフは相変わらずカッコいい。このリフ、ちゃんとした別の曲に使ったほうが良かったのでは、と思わずにはいられない。いわゆる正統派ハードロックのリフだ。
Born Again
Ian Gillanは本当に凄いボーカリストだと思う。このジャンルにおける「シャウトするボーカル」のスタイルを確立したという意味では、Robert Plantにも匹敵する。しかも現役で、つい最近の日本公演でも、熟練した歌声と、苦しいながらも絞り出すシャウトを聴かせてくれた。
そんなGillanがしっとりと歌えることを示したのがこの曲だ。Black Sabbathの中では、こういう曲でこそ本領を発揮できるのではないかと思いながら聴いていると、中盤でまたすさまじいシャウトが炸裂する。それがまた悪くない。

ちなみにこの時期のライブ・ブートレッグに、『Born In Hell』というものがある。これが実は一聴の価値がある。
まず往年のサバスの曲を歌うGillanが、素直にカッコいい。「Paranoid」や「Children of the Grave」では無駄に叫ばず、「War Pigs」や「Iron Man」にいたっては、Gillanが中音域で淡々と歌うだけで鳥肌が立つ。ああ、この声をこう使えばよかったのか、と思わせる瞬間がいくつもある。
ただ、「Smoke on the Water」をやった途端に完全にDeep Purpleになってしまうのはいただけない。そこだけはいくらGillanでも笑えない。
レア音源ではあるが、このラインナップでのサバスの実力を確認できる意味でも、聴く価値は高い一枚だ。
Exodus Bonded by Blood (1985)

海外版のLPレコードを所有していたが、手に取るのも嫌だったアルバムだ。ジャケットを持つときは右上の端をちょっとつまんで運んでいた記憶がある。たしかこれ、発禁になったやつだと思う。Van Halenにも似たような話があったが、これはさすがにいただけない。
しかしゲテモノ臭の根本は、ジャケットだけではない。
初代ボーカル、Paul Baloffの声である。お世辞にも上手ではないし、スラッシュメタルという吐き捨てるようなジャンルとの組み合わせは、正直なところ滑稽にも映る。ただ、これがクセになるのだ。
さらにアルバムタイトル『Bonded by Blood』は文字通りの意味で、バンドのメンバーたちがある夜語り合い、バンドへの愛を永遠のものにしようとカミソリで手を切って血を混ぜ合わせたという逸話が残っている。これだけでゲテモノ度はかなり高い。
Bonded by Blood
ベイエリア・クランチの名が示す通り、野菜を中華包丁で刻むようなリフが炸裂する。ツービートの縦ノリのドラムと、吐き捨てる——というより、どこか気持ち悪い囁きにも聞こえるボーカル。この曲でこのアルバムの世界観はすべて説明できる。
Exodus
Paul Baloffの男気あふれる汚らしい歌声が耳に残る。しかしバックの演奏はかなりカッコいい。16ビートのギターリフはこの後のExodusでも聴けるが、ベイエリア・クランチの気持ちよさがそのまま味わえる。バンドの名を冠するだけあってサビはキマっているし、このサウンドをいち早くやったという意味でも価値のある曲だ。ライブでも映える。
A Lesson In Violence
なかなかのスピード、ギターの刻み。この頃のスラッシュはどれも同じに聞こえそうなものだが、この曲はサビを一度聴けばすぐ思い出せる。ここまでアルバムを聴き進めると、Paul Baloffのだみ声がもはや気にならなくなるどころか、逆に求め始めている自分に気づく。
Piranha
昔、運転免許を取るために教習所に通っていたとき、教官に怒られるたびに憂さ晴らしに聴いていた曲のひとつだ。イントロだけで胸がいっぱいになる。
それ以外のゲテモノ
この時点で「もうゲテモノはいいや」となったので詳しいレビューは控えるが、他にも愛すべきゲテモノがあるのでかいつまんで紹介する。
W.A.S.P. — W.A.S.P.(1984年)
半裸に革ジャン、ステージに生肉をまき散らし、「女性を拷問する機械」を舞台装置として持ち込んだバンド。音楽的には意外とキャッチーなHR/HMなのだが、そのビジュアルと挑発性で当時のPMRC(ペアレンツ・ミュージック・リソース・センター)に目をつけられ、米議会で名指しで批判を受けた。「Animal (F**k Like a Beast)」はその後歴史的な検閲問題に発展する。ゲテモノの入り口としては教科書的な一枚。
Venom — Welcome to Hell(1981年)
ブラックメタルの始祖にして元祖ゲテモノ。演奏技術は壊滅的——本人たちもそれを誇りにしていた——歌詞は悪魔礼賛一色、録音はカセット並みの音質。しかしその乱暴さがSlayer、Darkthrone、Mayhem を生む直接の種になった。「上手さ」がジャンルの要件ではないことを証明した最重要盤。
Celtic Frost — To Mega Therion(1985年)
スイス発の怪物。不協和音と禍々しさが全編に満ちた一枚で、「Circle of the Tyrants」は名曲。ボーカルのTom G. Warriorによる「ugh!(うっ!)」という吐き出しボイスがとにかくクセになる。湯舟につかっているときに思わず「うっ!」とうなっている自分が容易に想像できる。デスメタルとブラックメタルの双方の原型がここにある。音楽的ゲテモノ度は最高峰クラス。
Ozzy Osbourne — Bark at the Moon (1983)
ゲテモノといえばこれかもしれないが、Black Sabbathについてはすでに前述しているのであまり触れない。タイトル曲は有名だし、普通に名曲だと思う。
ゲテモノを食べ終えて
こうして並べてみると、「ゲテモノ」というのは「粗悪品」とは別物だということがわかる。
Gene Simmons のソロは、KISSファンを意図的に裏切りに行った実験作だ。Born Againは、泥酔した勢いで加入が決まり、スタジオではテントに籠もり、ツアーではストーンヘンジが舞台に入りきらないという最悪の条件下で生まれたゆえの混沌である。そしてBonded by Bloodは、創設メンバーのKirk HammettをMetallicaに引き抜かれた直後、残されたメンバーが意地で作り上げた傑作だ。
どれも、怠けて作られた作品ではない。むしろ何らかの歪な必然性の中から生まれている。だから食べてみると、それぞれに独自の旨みがある。
ゲテモノを怖がる必要はない。ただし、一度試して合わなければ、無理して食べ続けることもない。
