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モントレー・ポップ・フェスティバルの映像を見た感想

しばらく放置していたのですが、ようやく『モントレー・ポップ・フェスティバル』の映像を見ることができました。

1960年代後半のロックを集中的に聴いていた頃、ディスクユニオンでこのDVDセットが破格の値段で売られているのを見つけ、迷わず購入しました。それからしばらく積んだままでしたが、ようやく腰を据えて鑑賞です。

サマー・オブ・ラブの中心

1960年代後半に広がった「カウンターカルチャー」は、既存の価値観や権威に対抗した若者文化全体を指す大きな概念です。その中でも「サマー・オブ・ラブ」とは、1967年の夏、サンフランシスコを中心にヒッピー文化が世界的なムーブメントとなった出来事を指します。

1967年という年は、ロックが単なる若者の娯楽から、一つの文化へと変わった年でもありました。ベトナム戦争、公民権運動、ドラッグカルチャー、自由と平和を求めるヒッピーたち――そうした時代の空気が、このフェスティバルにはそのまま封じ込められています。

その象徴として語られるのが、この『モントレー・ポップ・フェスティバル』です。会場となったモントレーは、カリフォルニア州でサンフランシスコとロサンゼルスの中間付近に位置する美しい港町です。フェスティバルの詳しい経緯については多くの資料がありますので、本記事では映像作品を見て感じたことを中心に紹介したいと思います。

出演者には Simon & Garfunkel、The Who、The Byrds、Janis Joplin、Jefferson Airplane、Otis Redding、Jimi Hendrix など、後に伝説となるアーティストがずらりと並びます。その中でも、特に印象に残った演奏を紹介します。

Big Brother And The Holding Company - 『Ball and Chain』

本来、彼らは6月17日昼の部に出演していました。しかし、その時の演奏はあまりにも素晴らしかったにもかかわらず、撮影スタッフのミスによって映像が残されませんでした。そこで翌18日夜の部に急遽再出演が決まり、あらためて撮影されたのが、このDVDに収録されている映像です。

この『Ball and Chain』は、ジャニス・ジョプリンを世界へ送り出した伝説のライブとして知られています。

スロー・ブルースを基調とした曲ですが、ジャニスは叫び、唸り、絞り出すように歌います。歌というより感情そのものをぶつけているようで、客席の表情も次第に変わっていきます。有名なのは、客席で見ていたママス&パパスのママ・キャスが、思わず口をあんぐり開けて見入ってしまう場面です。その表情だけでも、このステージがどれほど衝撃的だったかが伝わってきます。

The Who - 『My Generation』

ここで突然、空気が変わります。
それまでの出演者は、ヒッピーらしい自然体の雰囲気やブルース色の強い演奏が中心でした。そこへ現れたのが、ロンドンのモッズ文化を背負った The Who。細身のスーツ姿で登場し、一見すると都会的で上品なバンドに見えます。しかし演奏が始まると、その印象は一瞬で吹き飛びます。

演奏は荒々しく、まるで暴走列車。特にドラムは暴れ回り、リズム隊全体が楽曲を力ずくで押し進めていきます。
そして有名なラスト。
ピート・タウンゼントがストラトを叩きつけ、アンプを殴り、ステージには破片が飛び散ります。スタッフが慌てて片付けていると、今度は爆薬が破裂し、ドラムセットまで吹き飛びます。

今では伝説となったロックの破壊パフォーマンスですが、当時初めてこれを目撃した観客は、一体何が起こったのか理解できなかったでしょう。

Country Joe And The Fish - 『Section 43』

ここでようやく、私が思い描いていた「サマー・オブ・ラブ」の景色が現れます。幻想的なオルガンが鳴り響き、演奏はブルースというより浮遊感に満ちたサイケデリック・ロックそのもの。観客も激しく盛り上がるというより、それぞれが思い思いに音楽へ身を委ねています。芝生に寝転ぶ人、静かに目を閉じる人、ゆっくり身体を揺らす人。

映像からは、競争や効率とは無縁の時間が流れているように感じられました。アウトテイクで収録されている『Not So Sweet Martha Lorraine』もサイケ色が濃く、こちらも非常に印象的です。

朝を迎えた会場の映像も映し出されますが、その光景だけでも、このフェスティバルが単なるライブイベントではなく、一つの共同体だったことを感じさせてくれます。

Otis Redding - 『Shake!』

このDVDを見て、一気にオーティス・レディングが好きになりました。当時、ロックフェスティバルで黒人ソウルシンガーがこれほど歓迎されること自体、とても象徴的な出来事だったと思います。

ヒッピーたちは人種の違いを越えて音楽を楽しみ、オーティスも全力でその期待に応えます。観客との一体感が本当に素晴らしい。ステージングには余裕があり、大人の貫禄すら感じます。先ほどまでギターを壊していた The Who の若々しいエネルギーとはまったく違う魅力があります。ラストに向かってテンポが上がっていく高揚感も最高です。

残念ながらオーティスは、この年の12月に飛行機事故で亡くなります。短い活動期間でしたが、この映像をきっかけにもっと聴いてみたくなりました。

Jimi Hendrix - 『Wild Thing』

そして、このフェスティバル最大級の衝撃。ジミ・ヘンドリックスです。
登場した瞬間から、すでに別格のオーラがあります。
『Wild Thing』はカバー曲ですが、原曲の面影がなくなるほど強烈なファズサウンドで塗り替えられています。

演奏はどこまでが予定でどこからが即興なのか分からないほど自由。ギターは叫び、ノイズは音楽へと変わり、観客もその世界へ引き込まれていきます。途中ではギターをアンプへ擦り付け、不協和音だけが鳴り響く時間が続きます。それでも誰も戸惑わず、その空気に酔いしれているように見えます。
そしてクライマックス。
ギターを床へ寝かせ、火を放つ。
ロック史に残る名場面です。
この瞬間、ギターは楽器ではなく、一つの芸術作品になっていました。

Ravi Shankar - 『Raga Bhimpalasi』

DVDでは最後を飾る演奏です。この映像では、演奏だけではなくフェスティバルそのものの空気を味わうことができます。
芝生に寝転ぶ若者。
寝袋にくるまるヒッピー。
シャボン玉。
風船。
花。
「LOVE」とペイントされた動物。
座禅を組む人。
ヘルズ・エンジェルスの革ジャン。
誰もが好きなように時間を過ごしています。

その風景の上を、Ravi Shankar のシタールがゆっくり流れます。
静かに身体を揺らす人。
踊る人。
瞑想する人。
涙を流す人。
1967年という時代が理想としていた「自由」と「平和」が、そのまま映像になったような時間でした。個人的には、この演奏こそがモントレー・ポップ・フェスティバルを最も象徴している場面だったように思います。


サマー・オブ・ラブの象徴

紹介した以外にも、Simon & Garfunkel、The Byrds など見どころは数多くあります。地元サンフランシスコを代表する Jefferson Airplane は、本編ではなくアウトテイクで『Somebody to Love』が収録されています。一方、Grateful Dead は映画化そのものに否定的だったため、演奏映像は収録されていません。

一般的には、Jimi Hendrix や Janis Joplin がモントレー・ポップ・フェスティバル最大の見どころとして語られることが多いでしょう。しかし、私が最も心を動かされたのは Otis Redding と Ravi Shankar でした。

モントレー・ポップ・フェスティバルは、単なるロックフェスではありませんでした。1967年という時代が夢見た「自由」と「平和」、そして音楽の力を、そのまま映像として残した歴史的な記録です。だからこそ半世紀以上が過ぎた今見ても、その輝きはまったく色褪せていません。

しかし、この理想は長くは続きません。
わずか2年後、同じカリフォルニアで開かれたアルタモント・フリー・コンサートでは、ヒッピー文化の理想は暴力と混乱の中で大きく揺らぐことになります。その対照的な姿については、次回『アルタモント・フリー・コンサート』の映像を見ながら、あらためて語ってみたいと思います。

あとがき

なお、本記事を書くにあたり、NotebookLM を活用し、海外のファンサイトや各種資料を参考にしました。また、室谷憲治著『'67~'69 ロックとカウンターカルチャー 激動の3年間』(河出書房)も、大変参考にさせていただきました。


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