ブラック・サバスの最高傑作は「Vol. 4」だと思う理由
Black Sabbath の作品群の中で、この『Vol. 4』はどんな立ち位置なのでしょうか。やはり『War Pigs』『Paranoid』『Iron Man』という代表曲を収録した「Paranoid」や、ドゥームメタルの原点とも言える「Black Sabbath」、そしてヘヴィネスを極限まで追求した「Master of Reality」の陰に隠れがちな印象があります。しかし、アルバム全体の完成度という点では、この「Vol. 4」こそ初期 Black Sabbath の最高傑作と個人的に位置づけています。派手な代表曲こそ少ないものの、一曲一曲の完成度が驚くほど高く、アルバムとして聴いたときの満足感は群を抜いています。
『Wheel Of Confusion/The Straightener』
大学時代、知人からCDを借りて初めて『Wheel Of Confusion』を聴いたときの衝撃は、今でも忘れられません。再生ボタンを押すと、ドラムフィルでもギターリフでもなく、いきなりチョーキング一発で始まるのです。そこから始まるのは、極端にテンポを落とした単音主体の重いリフ。その上を、不気味なのに妙に耳へ残るオジーのメロディが漂い、曲全体からは何とも言えない危険な香りが立ち込めています。サビらしいサビはなく、ひたすらバースを繰り返していく構成ですが、その合間に差し込まれる短いリフが絶妙で、特にビル・ワードのドラムが抜群の存在感を放っています。
2分30秒あたりから始まる最初のセッションも圧巻です。リズム隊はまるでジャズのように自由でありながら、トニー・アイオミの重厚なリフやギターの効果音が不思議なスピード感を生み出し、ゆったりしたテンポにもかかわらず緊張感が途切れません。短いジャムを終えると、ごく自然に冒頭のフレーズへ戻っていく流れも見事です。
そして最後のバースを終えた5分20秒頃から、再び長いジャムセッションが始まります。ここからが『The Straightener』と呼ばれるパートなのでしょうか。鐘のように響くギターの効果音と、繰り返されるコードを土台に、基本に忠実なペンタトニックのギターソロがじっくりと歌い上げられます。ブルースをルーツに持つハードロックの王道とも言える要素が詰め込まれているのに、どこか妖しく、そして心地よい。この不思議な浮遊感こそが、『Wheel Of Confusion/The Straightener』最大の魅力なのだと思います。
『Tomorrow's Dream』
以前、Black Sabbath の公式チャンネルで『Tomorrow's Dream』のスタジオライブ映像が公開されたときは、本当に驚きました。「この曲を演奏するんだ」と思わず声が出たほどです。いわゆる代表曲ではありませんが、スローからミドルテンポで展開する重厚なギターリフはまさに"ザ・サバス"。アルバム曲でありながら、一度聴くと忘れられない魅力があります。Black Sabbath の真価は代表曲だけではなく、こうしたアルバム曲の中にも数多く潜んでいます。そして『Vol. 4』には、その魅力がぎっしり詰まっているのです。
『Changes』~
『Changes』はギターもドラムもほとんど登場しない、ピアノとメロトロン主体のバラードです。「Black Sabbath がこんな曲を?」と一瞬驚きますが、前後を重厚なリフ主体の楽曲で挟むことで、この静けさがより際立っています。アルバム全体の流れを考えると、この曲は絶妙なアクセントになっています。後に多くのアーティストがカバーし、オジー自身もソロで歌い続けた名曲です。
続く『Supernaut』は一転してグルーヴ感あふれる名曲です。ビル・ワードのドラムはもちろん、バンド全体がうねるように前へ進んでいく感覚がたまりません。
そして『Snowblind』。タイトルどおりコカインをテーマにした楽曲ですが、それ以上に印象的なのはスローなヘヴィリフと自然に流れていく曲展開です。途中でシャッフルへ切り替わり、再びイントロのリフへ戻ってくる構成は驚くほど滑らかで、何度聴いても耳に心地よく響きます。
『Cornucopia』は少し影が薄い印象がありますが、実はアルバム屈指のヘヴィネスを持つ一曲です。極端にテンポを落としたイントロは、後のドゥームメタルを先取りしたような重さがあります。そこからミドルテンポへ展開し、アルペジオやシャッフルまで次々と飛び出す構成には、アイデアが溢れ出しているような勢いがあります。一曲の中へここまで詰め込まなくてもと思うほどですが、それが不思議と破綻せず、一つの作品として成立しているのが見事です。
『Laguna Sunrise』はクラシックギターとストリングスだけで構成された美しいインストゥルメンタルです。ヘヴィな楽曲に挟まれた箸休めであると同時に、A面の『Changes』と対になるような役割も果たしています。この頃からトニー・アイオミの作曲家としての才能が大きく開花し始めたことを感じさせる一曲です。
『Under the Sun』
『St. Vitus Dance』という軽快なロックンロールを挟み、『Under the Sun』はホラー映画のような重苦しいリフで幕を開けます。しかし30秒を過ぎると、軍隊が前進するような一定のシャッフルリズムへ変化し、その上にオジーのボーカルが乗ってきます。この曲もサビらしいサビはありませんが、同じフレーズを繰り返すことで、じわじわと迫ってくるような独特の緊張感を生み出しています。
後半は一転してスピード感あふれるインストゥルメンタルへ展開し、まるでディープ・パープルのライブを思わせる熱量で駆け抜けます。そして再び軍隊のようなリズムへ戻ると、そのまま『Every Day Comes and Goes』へ自然につながっていきます。重いリフ、ダウンチューニング、グルーヴ、そして複雑な曲展開。90年代以降のドゥームやストーナー、さらにはグランジにも通じる要素が、この時点ですでに完成されていることに驚かされます。
なんだかんだで「Vol 4」が一番好きかも
華やかな代表曲こそ少ないものの、「Vol. 4」はアルバムとしての完成度では初期 Black Sabbath の頂点にある作品ではないでしょうか。当時の彼らはドラッグに深く溺れ、生活そのものは決して健全とは言えませんでした。しかし、その危うさと混沌が皮肉にも驚異的な創造力へとつながり、この唯一無二のアルバムを生み出したこともまた事実です。だからこそ『Vol. 4』には、他の作品では味わえない独特の緊張感と芸術性が宿っているのだと思います。
今の時代では決して許されない環境の中から生まれた作品ですが、この唯一無二の空気感を現代のアーティストが再現できるのかと考えると、私は正直、自信がありません。
