共通テスト後に読む:行動情報学科って結局なにを学ぶの?(イチ教員の視点)
ものすごく久しぶりの更新となってしまいました。
共通テストも終わりますので、このタイミングで少しだけ、静岡大学情報学部行動情報学科のアピールをさせてもらいたいと思います。
行動情報学科のサイト:https://www.inf.shizuoka.ac.jp/behavior/
大学の中のことは、外からはほとんど見えません。将来のことを決めるのに、肝心の「中身」が分からないのは不安でしょう。しかも「行動情報学科」という、他にはない学科名です。一般的な学科に進学するよりも、なおさら不安が大きいかもしれません。
となると、頼れる情報源は「人から話を聞く」ことになります。
受験生・高校生の皆さんは大学についてどのようなイメージをもっていますか?テレビや漫画などのメディアから「大教室での授業」、「ゼミの風景」が伝えられることはあるかと思います。また学業以外に、「サークル」、「ボランティア」、「就活」、あるいは「合コン」。。。そういった活動で大学生は忙しいという印象を抱いているかもしれません。
ただ、上記の情報はあくまで大学生活の周辺についてのイメージで、最も重要な「大学の中で何を学ぶのか」まではなかなか見えません。だからこそ行動情報学科としては、書籍を出版したり、講義動画を整理し、少しでも学科の中で起きていることを伝える努力をしてきたつもりです。
とはいえ、まだまだ十分とは言えません。そこで、今回は「一人の教員の視点」で、なるべく率直に書いてみます。
なお、以下はあくまで私見です。同じ学科でも他の教員は異なる見方をしていることのあるかもしれません。ご注意ください。
行動情報学科は「まじめな情報系(データサイエンス系)」の学科です
一番初めに伝えたいのは、行動情報学科は まじめな情報系の学科だということです。近年の言葉でいえば、データサイエンス系の学科と言ってもよいでしょう。
本学科は2016年にスタートしました。つまり、いわゆるデータサイエンス系の学科の中でも、かなり早い時期に設置された学科です。
学科名が少し伝わりづらかったのか、他のデータサイエンス系の組織に比べ、注目されることはありませんでしたが、内容は現在流行している学科と比べても遜色ないはずです。むしろ老舗ならではの熟成されたカリキュラムが用意されています。ちなみに、情報学部というくくりでみても、日本の国立大学の一番古いのは静岡大学(1995年スタート)です。
ですので、情報系あるいはデータサイエンス系の知識や技術は、間違いなく身につきます。
ただし、他の情報工学系の学科と比べると、学びの中心が 「物理」よりも「人間」側に寄っている点が特徴です。情報系は昔は情報工学として教育されていました。そして、工学はもともと物理に近い領域とみなされたので、以前の情報系は物理系の知識を重視していました。
しかし、現在の情報学(少なくとも学部教育の段階)では、ハードウェア寄りの知識を深く学ぶ必要性は相対的に低くなってきています。行動情報学科では、そこに時間を割くよりも、社会で使える応用に重点を置いています。つまり、物理よりも、人間側の知識を重視します。
研究室は「普通の理系の情報系研究室」と変わりません
「人間側にシフトしている」と聞くと、研究室が軽いのでは、という誤解も生まれがちです。ですが、研究室は 一般的な理系的な情報系研究室と変わりません。
研究テーマについては、研究室リストを見てください。「教員のテーマではなく、卒研のテーマをしりたい」という要望も時々耳にするのですが、基本的に「教員の研究テーマ=配属された学生さんが卒論として取り組むテーマ」と考えてよいはずです。
このことは、「研究室の教員が自分のテーマを一方的に学生さんへ押し付ける」という意味ではありません。卒業研究のテーマ設定には、大きく分けて次の二通りがあります。
1つ目は、研究室で教員が進めているプロジェクトの中からテーマを選ぶ方法
2つ目は、学生さんの興味・関心から出発してテーマを立ち上げる方法
前者であっても学生さんの興味・関心を無視して研究テーマが割り当てられるわけではありません。後者であっても、教員が専門的に指導できる範囲(=責任をもって伴走できる範囲)でなければ、卒研テーマとして成立しません。
そして、学生さんの興味・関心も教員の研究テーマも、最初から固定されているものではありません。配属された学生さんの関心に合わせて、教員や研究室側が扱うテーマを広げていくことも実際に行われます。
ですので、実際に卒研で行えることをイメージするためには、教員の業績データベースを見るとよいということになります。そして、データベースをみると教員ではない名前が筆頭(=一番最初)に書いてある学会発表が多々あるはずです。以下、森田の業績リストです。

これらは、大学生や大学院生が卒研や修士研究に取り組む中で得た成果を、実際にプロの研究者が議論する場で発表したものです。
受験生・高校生にとって、研究はとても難しいものだと思うかもしれません。実際、研究を行う力は簡単に身に付くものではありません。ある程度の期間の実践的な訓練が必要です。大学の研究室活動では、教員や先輩が密接にフィードバックを受けながら、問の立て方、実験の組み立て方、データの解釈の仕方、論文の読み方、書き方、研究者らしい考え方を学んでいきます。つまり、授業を受けて学ぶというより、研究室のなかでの日常的な経験により身に着けていくものだということになります。
そういう意味では、大学の学科選びで、所属している教員の専門や研究内容はとても重要です。そして、研究室における研究のレベルと大学の偏差値は必ずしも一致しないと考えてください。世の中にはとても幅広い分野の研究があります。ですので、偏差値のような単一の基準で研究者を並べることは難しいです。行動情報学科においても、特定の研究分野において、日本を代表する世界レベルの研究者が多く在席しています(国内の学会の会長になったり、世界の研究者の結ぶハブの役割を果たしたり、伝統のある国際学会の功労者として表彰されたり)。
また、研究の力を身に着けるために、学部卒業後には「大学院」という世界があります。研究を主軸とした教育課程で、そこで論文を書き、プロと同じように世界に発表します。世界に発表された論文が世界中の研究者の目に留まれば、大きな影響を持ち、世界そのものが変わっていくこともあります。高校生の段階では、大学卒業後のことはまだ想像しづらいかもしれませんが、そういった観点から大学選びを考えてみてもよいのではないかと思います。
不確実な社会だからこそ「探究」と「情報の理解」が必要です
これからの社会がどうなっていくのか、誰にも完全に見通すことはできません。
今後は、現在存在する多くの職業の形が変化していくと考えられます。論文を読んだり書いたりする力のような研究の力のあり方も、急速に変わっていくでしょう。
ただし、その変化を駆動しているのは情報系の知識や技術です。そのため、AIが仕事の一部を置き換えるようになったとしても、コンピュータがどのように動いているのか、AIがどのようにデータから学習するのか、学習の結果として得られる知識とはどのようなものなのか、といった基本的な理解を人間が欠いたままでいることはできません。
これから求められるのは、AIによる作業を適切に理解し、使いこなし、ときには社会制度や価値観と接続しながら運用していく力です。行動情報学科は、そのためのカリキュラムを整備しており、関連する研究にも取り組んでいます。
カリキュラムの核:「情報 × 人間 × データ × システム × マネジメント」
行動情報学科のカリキュラムは、大きく分けると次のような領域から成り立っています。

基礎となる「情報」と「人間」の知識(カリキュラムマップ左端の柱)
人間と情報に関する認知科学の授業、あるいは人間の思考にも、コンピュータにも関わる計算の考え方を学びます。人間の知やAIの研究がどのように始まって、変遷してきたのか。情報を効率的に扱うための方法をどのように考えたらよいのか、これらの知識は今後の社会においても色あせることなく必要となるものです。情報システムについての知識(カリキュラムマップ左から2つ目の柱)
情報システムを組み上げるための知識を勉強します。プログラミングやデータベースに関する技術はもちろん、情報システムについての人々の要求を吸い上げて関係者間での同意がとれるような文書を作成するための知識・技術を学びます。システムエンジニア、機械学習エンジニア、プログラマなどに直結する内容です。データサイエンスについての知識(カリキュラムマップ右から2つ目の柱)
データから知識を得るための数学や統計的知識、実世界データの収集・加工などを学びます。高校までの数学のように単に数式を変換するテクニックを身に着けるだけでなく、実世界の問題について仮説をたて、その仮説を確かめるための考え方を学びます。マネジメントについての知識(カリキュラムマップ右端の柱)
実世界のデータから得た知識をどのように活用し、組織をどう動かすかを扱います。経営学の本格的な知識を基盤として、現実社会の課題を解決する経験を積みます。さらに、行動情報学の知識や技術をビジネスとして社会に実装していくための方法を学びます。
これらの知識を「融合」してきたのが、行動情報学科の10年間です。一朝一夕で作られた文理融合学部ではありません。熟成された連携があり、融合の難しさを越えてきた蓄積があります。
入試科目も少し独特です(ただし対策は十分可能)
行動情報学科は先進的な学科なので、受験科目もやや独自性が高い部分があります。前期試験では、「総合」という名称の問題を解いてもらいます。より学科の学びと直結した能力を見るために、学科が独自に作っているものです。データサイエンスや情報Iに関する知識・考察力が問われます。
ただし、共通テストが終わった後からでも十分対策可能です。大学で学ぶ内容に合わせて作問されたものですので、そのものズバリという授業を行っている高校はないはずです。どのような高校のカリキュラムであっても共通のスタートラインから対策できるはずです。ぜひ過去問や解説動画を参考に取り組んでほしいです。
過去問PDFへのリンク
令和7年 シミュレーションの問題 https://shizuoka.ac.jp/nyushi/information/kakomon/document/r07zenki/s1.pdf 令和6年 人間の感情について考える https://shizuoka.ac.jp/nyushi/information/kakomon/document/r06zenki/s1.pdf 令和5年 清涼飲料水の売上や自閉症児の診断 https://shizuoka.ac.jp/nyushi/information/kakomon/document/r05zenki/s1.pdf令和4年 コロナデータ https://shizuoka.ac.jp/nyushi/information/kakomon/document/r04zenki/s1.pdf 令和3年 インフルデータ https://shizuoka.ac.jp/nyushi/information/kakomon/document/r03zenki/s1.pdf 令和2年 OECDデータ
総合問題の対策

上記の動画は夏季オープンキャンパス特設ページから抽出したものです。以下のページには就職状況など有用な情報が掲載されていますので、ぜひ参照ください。
https://www.inf.shizuoka.ac.jp/opencampus2025/
文系・理系どちらからでも入れます(ただし必要な基礎はある)
受験は高校の理系コース、文系コースのどちらでも可能です。大学での学びは文系・理系という区分そのものがあまり意味を持たなくなるので、入口としてはどちらからでも入れるようになっています。
行動情報学科では、物理・化学・生物は扱いません(多くの情報系学科も同様と思います)。一方で、数学はできたほうがよいでしょう。特に 確率・統計は必須です。また、微分積分や行列演算を“解ける”ことは求めないとしても、考え方は理解しておいたほうがよいと思います。
文系に関する知識として、古文・漢文の知識は使いませんが、現代文は必須です。世界史、日本史、倫理なども、常識の範囲で知っておいたほうがよいでしょう。一つ一つの知識を暗記する必要はまったくありませんが、社会的な出来事の間の関係を考える力はとても重要です。
このように行動情報学の入学に求める力は高校の授業内容と連続しています。ただ、大学で求めるのは「問題を解くための知識」ではなく、探究に結びつく力であることを強調しておきます。
