「君が生まれて、家族はもう一度“ひとつ”になった」
私には、20歳離れた弟がいる。
年齢だけ聞けば、
「親子ですか?」と間違えられるのも無理はないかもしれない。
でも、
彼は紛れもなく“弟”であり、私にとって人生で一番特別な存在だ。
彼が生まれてきてくれてから、
私の生き方も、感情も、価値観も、すべてが変わった。
今日はそんな、
20歳という“時差”を越えて巡り合えた弟との物語を、
少しだけ綴らせてほしい。
その日、私の人生は一瞬で変わった。
「生まれたああああ!!」
授業中だった。
大阪の専門学校。
突然、父からメールが届いた。
奈良の病院で、弟がこの世に生まれた――
その報せだった。
嬉しさと衝動で、
思わず叫びながら席を立った。
クラスメイトは一瞬戸惑ったが、
すぐに「おめでとう!」と拍手してくれた。
担任の先生だけは状況を理解できず、
「え?どうした??」ときょとんとしながらも、
教室全体の空気に押されて、
一緒に拍手をしてくれた。
授業が終わったあと、
クラスの仲間が声をかけてくれた。
「掃除、代わりにやっとくから、早よ帰り!」
その言葉に背中を押されて、
私は電車を乗り継ぎ、
大阪から奈良へ――弟に会いに走った。
「妹と同じ日だけは…避けてほしい」
弟が生まれるまでには、
家族の深い祈りと、乗り越えてきた時間があった。
母は、ずっと願っていた。
「妹の誕生日だけは避けてほしい」
それは、母がずっと抱えてきた悲しみだった。
命を失った妹。
その誕生日は、家族にとって大切で、そして少し痛みを伴う日だった。
けれど、医師は言った。
「無理に遅らせると、胎児に影響が出ます」
どうすることもできない中で――
弟は、妹の誕生日の“前日”に生まれてきた。
まるですべてを分かっていたかのように。
これは運命だったと、今でも私は信じている。
初めて抱いた瞬間、出た言葉はただ一つ。
「おかえり。」
その小さな体を腕に抱いた瞬間、
自然とこぼれたその言葉。
待ってたよ。
ようやく会えたね。
あの時から、私は“兄”になった。
そして、君の兄ちゃんになれたことを、
私は今でも誇りに思っている。
君が呼んだ、世界にひとつだけの“ぺ”
弟が小さな頃――
父は「パパ」、母は「ママ」。
そして、私のことは、なぜか「ぺ」と呼んでいた。
もちろん母は「お兄ちゃんにご飯やでって言っておいで」と伝えていた。
それでも、君は嬉しそうに叫んだ。
「ぺ〜!まんま〜!ぺ、まんま〜!」
なんで「ぺ」だったのかは今でも分からない。
でもあの声は、ずっと耳に残ってる。
君が世界で一番愛おしい存在だった。
君のほっぺにかぶりついた日々
弟のほっぺがあまりにもかわいくて、
私は毎日のようにかぶりついていた。
ある日、弟が幼稚園の先生に言った。
「先生、僕のお兄ちゃん、僕のほっぺ食べるの」
その話を聞いた先生は、真剣な顔で母に尋ねた。
「お兄さん、本当に……食べてますか?」
笑っていいのか、心配すべきか分からない先生の表情が、
母の中でも忘れられない思い出になったらしい。
でもそれくらい、
私は弟を溺愛していた。
父と間違えられる日々
20歳離れている私と弟。
見た目には、もう完全に“親子”にしか見えない。
ある日、キッズランドで一緒に遊んでいた時のこと。
周りの保護者が話しかけてきた。
「今日はパパと一緒なんやね〜」
私は答えた。
「いえ、父は仕事中です」
「ふ〜ん、じゃあ……え?あなた誰!?」
毎回このやりとりがあった。
そのたびにこう答える。
「兄です。20歳離れた兄です」
驚かれた後、必ず少し微笑んでもらえた。
君の兄でいられることが、誇らしかった。
年老いた親に代わって叱った、兄としての覚悟
父も母も年を重ねていた。
好き嫌いの多かった君に、強く言えないことも増えていった。
そんな時、私が代わりに叱った。
ときに泣かれても、
ときに嫌がられても、
「ちゃんと向き合ってくれる人がいる」ことを、伝えたかった。
弟のことを、ちゃんと大人に育てたかった。
それが、兄としての“私の役割”だった。
妹を一緒に祈ってくれる、君の涙
君が生まれる前に旅立った、妹。
その命日は、私たち家族にとって、かけがえのない一日。
私たちには、毎年の恒例行事がある。
家族全員でカラオケへ行き、
長渕剛さんの「祈り」を全員で歌う。
歌いながら――
私は泣く。
父も泣く。
母も泣く。
そして、君も涙を流してくれる。
小さな頃から、何も言わずに隣に座って、
君も一緒に“家族”として祈ってくれていた。
その姿を見るたびに、胸がいっぱいになる。
君は、妹の存在まで家族として受け入れてくれている。
その心が、どれほど尊く、どれほど愛おしいか。
警察寮、携帯ショップ、イベント会場――
どこにいても、君はいてくれた
警察官として寮に住んでいた頃。
面会に来てくれた家族の中に、君がいた。
同期たちに事前に話していた
「20歳離れた弟がいるんだ」という話。
実際に君が現れると、
みんなが優しい笑顔で迎えてくれた。
君の存在を、私は心から誇りに思っていた。
その後、携帯販売の仕事をしていた時。
君が店に遊びに来た。
従業員スペースに入り、
バーコードリーダーを手に取って、
嬉しそうにピッピと読み取りながら遊んでいた。
イベントディレクターとして働いていた頃も、
ジャンケン大会、ガラガラ抽選、ビンゴ大会――
全部、君は全力で楽しんでくれていた。
どこにいても、私のそばには、君の笑顔があった。
それが、私の原動力だった。
そして今、あらためて伝えたい
君が生まれてきてくれて、ありがとう。
君がいてくれたから、
私は強くなれた。
私は優しくなれた。
君の存在が、
私の人生に“光”を与えてくれた。
これからも、兄ちゃんでいさせてください。
どんな未来が来ても、
どんな距離ができても、
ずっと君の兄ちゃんでいることに、誇りを持ち続けたい。
