呪術廻戦 #810「下北結界コロニー」
下北結界——。
そこは、依然として三つ巴の膠着状態にあった。
ミウラー・メン——迫真空手部総隊長(藤原家直属の暗殺部隊)
鬼無良。——激しく眼球をチラつかせる術式を操る。
そして——精巣呪縛オナニー・ギフテッド。田所浩二
三者の呪力が、互いを牽制し、
一歩も引かぬまま、歪な均衡を保っていた。
しかし、その均衡は、脆くも崩れ去る。
トーノ・オイルヌロッカーが、死の淵で落とした特級呪具——
《邪険・夜逝魔焼音》。
それを、田所浩二が拾った瞬間。
世界が、音に支配された。
「性癖展開——王導葬撫」
低く、静かな呟きと共に、
浩二の指先から、夜そのものを煮えたぎらせる褐色の音色が迸る。
鬼無良の影は、一瞬で引き裂かれ、
ミウラー・メンの幻体は、音の波に溶けて消滅した。
結界内に残っていた泳者たち——彼女を除く全ての者が、
内側から呪力を暴走させ、
絶叫すら許されぬまま、灰と化した。
田所浩二は、ゆっくりと立ち上がる。
手にした特級呪具が、まだ熱を帯びて脈打っている。
彼は薄く笑い、静かに言った。
「あれが現代の異能……?フッ....やりませんねスギィ...」
世田谷の夜が、
より深く、
より黒く、
より残酷に染まっていく。
これより先——
この結界は、
田所浩二ただ一人の領域となる。
呪いは、音と共に、
静かに、しかし確かに、
全てを飲み込んでいく。
