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SaaS is Deadは、本当にそうなのか?

AIエージェント時代に「死ぬSaaS」と「進化するSaaS」


はじめに

「SaaS is Dead」。

ここ最近、AI業界、スタートアップ界隈、投資家界隈で、この言葉を目にする機会が増えた。

直訳すれば、「SaaSは死んだ」。

かなり刺激的な言葉だ。

これまでSaaSは、スタートアップ市場の主役だった。

営業管理、経費精算、会計、人事、労務、チャット、CRM、MA、カスタマーサポート、プロジェクト管理。

企業のあらゆる業務がクラウド化され、月額課金化され、SaaS企業は高い成長率と継続収益を武器に、投資家から高く評価されてきた。

日本でも、2019年前後からSansan、freee、Chatwork、マネーフォワードなどのSaaS企業が注目され、「SaaSこそスタートアップの王道」という空気があった。

しかし、その空気が大きく変わり始めている。

理由は、生成AI。

そして、AIエージェントである。

Business Insider Japanでは、ログラス、マツリカ、TOKIUMという国内未上場SaaS企業3社が「SaaS is Dead」をどう見るか語ったイベントが取り上げられた。記事では、TOKIUMのCFOが「SaaS is Deadは本当だと思う」と発言している。

国内SaaSの当事者自身が、従来型SaaSの変化を認め始めていることは重要だ。

では、本当にSaaSは死ぬのか。

私の結論は、こうだ。

SaaSは死なない。

しかし、

「人間が画面を操作するためのSaaS」は死に始めている。

そして、

生き残るのは「AI社員が業務を実行するための業務OS型SaaS」である。


目次

  1. SaaS is Deadとは何か

  2. SaaSはなぜ強かったのか

  3. なぜ今「SaaS is Dead」と言われるのか

  4. 海外で起きたSaaSpocalypse

  5. 日本でも始まったSaaS再評価

  6. AIで無くなるSaaS

  7. 開発コストの崩壊は、誰に味方するのか

  8. AIで成長するSaaS

  9. ERP・生産管理・工程管理はなぜ残るのか

  10. AI時代に必要となる新しいSaaS

  11. SaaS提供会社はどう変わるべきか

  12. 導入支援会社はどう動くべきか

  13. 日本企業にとっての本当のチャンス

  14. 今後5〜10年で起きる変化

  15. 結論:SaaS is Deadではなく、SaaS is Evolving

  16. 参考リンク

  17. ハッシュタグ


1. SaaS is Deadとは何か

「SaaS is Dead」という言葉は、単純に「SaaS企業が全部なくなる」という意味ではない。

本質は、

従来型SaaSの競争優位が、AIによって崩れ始めている

ということだ。

これまでのSaaSは、人間が使うことを前提に設計されていた。

人間がログインする。

人間が画面を見る。

人間がフォームへ入力する。

人間がボタンを押す。

人間が承認する。

人間がレポートを見る。

つまり、SaaSの中心には常に「人間の操作」があった。

しかし、AIエージェント時代は違う。

AIがメールを読む。

AIが請求書を分類する。

AIがCRMを更新する。

AIが会議内容を要約する。

AIが営業メールを書く。

AIが経費申請を確認する。

AIが問い合わせに回答する。

AIが複数のSaaSを横断して処理する。

こうなると、人間がSaaSの画面を開く必要が減っていく。

ここが本質である。

SaaSが死ぬのではない。

SaaSの「画面」の価値が下がる。

これまでSaaS企業は、使いやすいUI、便利なダッシュボード、きれいなワークフロー、入力しやすいフォームを競ってきた。

しかしAIエージェントが業務を代行するなら、人間にとってのUIより、AIにとって操作しやすいAPI、データ構造、権限管理、監査ログの方が重要になる。

つまり、AI時代に問われるのはこういうことだ。

そのSaaSは、人間が使うためだけの道具なのか。

それとも、AIエージェントが仕事を実行するための基盤なのか。


2. SaaSはなぜ強かったのか

そもそもSaaSとは、Software as a Serviceの略である。

従来のようにソフトウェアをPCへインストールするのではなく、インターネット経由でクラウド上のソフトウェアを利用する仕組みだ。

SaaSが強かった理由は明確だった。

まず、導入が簡単だった。

昔の業務システムは、サーバーを買い、ソフトをインストールし、社内で保守しなければならなかった。

SaaSなら、ブラウザでログインすれば使える。

次に、月額課金だった。

企業側は初期投資を抑えられる。

SaaS企業側は継続収益を得られる。

さらに、常にアップデートできた。

パッケージソフトのように数年ごとに買い替える必要がなく、クラウド側で機能改善される。

だからSaaSは、DX時代の中心になった。

営業管理ならSalesforce。

会計ならfreeeやマネーフォワード。

経費精算ならTOKIUMやConcur。

人事ならSmartHRやWorkday。

ワークフローならServiceNow。

チャットならSlack。

ドキュメントならNotionやGoogle Workspace。

こうして企業の仕事は、どんどんSaaSの中へ移っていった。

SaaSは、企業の業務を「所有」から「利用」へ変えた。

サーバーを持つ時代から、クラウドに接続する時代へ。

パッケージを買う時代から、月額で使う時代へ。

IT部門だけがシステムを触る時代から、現場部門が直接ツールを選ぶ時代へ。

この変化は非常に大きかった。

だからSaaSは、クラウド時代の勝者だった。


3. なぜ今「SaaS is Dead」と言われるのか

では、なぜ今になって「SaaS is Dead」と言われるのか。

理由は、AIが「画面の前の人間」を置き換え始めたからである。

これまでの業務フローは、こうだった。

人間がメールを見る。

人間が情報を判断する。

人間がSaaSへ入力する。

人間が承認する。

人間がレポートを出す。

しかし、AIエージェント時代はこうなる。

AIがメールを見る。

AIが情報を抽出する。

AIがSaaSへ入力する。

AIが承認候補を提示する。

AIがレポートを生成する。

人間は、最終判断と例外処理だけを行う。

つまり、SaaSの利用者が変わる。

これまでは、SaaSの利用者は人間だった。

これからは、人間とAIエージェントの両方が利用者になる。

さらに言えば、将来的には人間よりAIエージェントの方がSaaSを多く触る可能性すらある。

ここで問題になるのは、従来のSaaSが「人間が操作する前提」で作られていることだ。

人間にとって見やすい画面。

人間にとって押しやすいボタン。

人間にとって分かりやすいメニュー。

もちろんそれは重要だ。

しかしAIが操作するなら、本当に重要なのは画面ではない。

API。

権限管理。

データ構造。

イベントログ。

監査ログ。

ワークフロー制御。

外部システム連携。

人間承認との切り分け。

ここが弱いSaaSは、AI時代に厳しくなる。


4. 海外で起きたSaaSpocalypse

海外では、SaaS is Dead論争がさらに激しくなった。

一部では「SaaSpocalypse」という言葉まで使われた。

SaaSとApocalypse、つまり「SaaSの終末」を組み合わせた言葉である。

背景には、AIエージェントがSaaSのワークフローを置き換えるのではないか、という投資家の不安がある。

そしてこの不安は、2026年初頭、現実の株価下落として表面化した。

Forresterは、2026年2月第1週に、ソフトウェア株から7日間で1兆ドル超の時価総額が消失したと分析している。理由として、AIエージェント革新の急速な進展と、AIが既存ソフトウェアのワークフローを置き換えるという市場の見方を挙げている。

Reutersも、米国のソフトウェア・データサービス株がAIによる破壊懸念で1週間に約1兆ドルの時価総額を失ったと報じた。報道では、ServiceNow、Salesforce、Microsoftなどの大型銘柄も下落対象に含まれていた。

ここで重要なのは、単一のAI製品だけが原因だと断定しないことである。

確かに、Anthropicの「Claude Cowork」のような、複数ステップの知識労働をユーザーの代わりに実行するAIエージェント製品は、SaaS is Dead論争を加速させた象徴的存在として語られている。

Anthropic公式サイトでも、Claude Coworkは、ローカルファイル、フォルダ、日常的に使うアプリケーションの間を移動し、複数ソースの情報を統合し、ユーザーが各ステップを調整しなくてもタスクを完了するシステムとして説明されている。

ただし、株価下落の原因は、特定製品一つではなく、AIエージェント全体が既存SaaSの利用形態を変えるという市場の再評価だったと見るべきである。

市場が恐れたのは、「シート課金」の崩壊である。

従来のSaaSは、人間の利用者数に応じて課金することが多かった。

1人あたり月額いくら。

1アカウントあたり月額いくら。

1席いくら。

しかし、AIエージェントが人間の作業を代替するなら、企業は人間のSaaS利用席数を減らすかもしれない。

人間がCRMを開かなくなる。

人間が経費精算画面を開かなくなる。

人間が問い合わせ管理画面を開かなくなる。

AIが裏側で処理する。

この場合、従来型SaaSの価格モデルは揺らぐ。

これがSaaSpocalypseの本質である。

ただし、この物語には続きがある。

その後、ソフトウェア株は反発した。

Business Insiderは、Snowflakeなどの好決算やNVIDIAのジェンスン・フアン氏の発言を受けて、「AIはソフトウェアの敵ではなく味方」という見方が戻り始めたと報じている。

NVIDIAのジェンスン・フアン氏は、AIエージェント時代はソフトウェア企業にとって大きな機会だと述べている。

なぜなら、AIエージェントは仕事をするために、より多くのソフトウェアツールを使うからだ。

AIエージェントが増えれば、ソフトウェアが不要になるのではなく、AIが使えるソフトウェアの需要が増える。

つまり海外の論点は、こう整理できる。

悪いSaaSは死ぬ。

良いSaaSはAIによってさらに使われる。

ここに、本質がある。


5. 日本でも始まったSaaS再評価

日本でも同じ議論が始まっている。

Business Insider Japanの記事では、ログラス、マツリカ、TOKIUMの3社が登壇し、「SaaSの死」をどう捉えるかが議論された。

TOKIUMは「SaaS is Deadは本当だと思う」という立場を示し、マツリカは「会社による」、ログラスは「SaaSかどうかは論点ではない」という方向の考え方を示した。

この3社の違いは面白い。

TOKIUMのような経費精算・請求書・経理業務領域は、AIによる自動読み取り、自動仕訳、自動承認補助の影響を強く受ける。

マツリカのような営業支援領域は、CRM入力や営業メモ作成がAI化される一方で、営業活動全体の高度化というチャンスもある。

ログラスのような経営管理領域は、単なる入力ツールではなく、企業の意思決定や経営データ基盤に近づくほど、AI時代でも価値が残る。

さらに象徴的なのが、freeeの動きである。

freeeは、共同創業者の横路隆氏がCAIO(最高AI責任者)に就任し、2026年2月10日の記者発表をもとにした公式noteで、SaaS is Deadを真正面から取り上げた。

freee公式noteでは、「SaaSは人が使うものではなくて、AIから使われるものになってきた」という考え方が示されている。

また、EnterpriseZineの報道では、横路氏が、従来のSaaSは人がフォームへ入力するSoE(System of Engagement)としての価値があった一方、AI時代には、AIを正しく動かせるSoR(System of Record)へシフトすると説明したとされる。

これは非常に重要だ。

SaaSの価値が、

人間にとって使いやすい画面

から、

AIが正しく仕事を実行できる基盤

へ移っているからだ。

さらに2026年3月、freeeはAIエージェントからfreeeの各種APIを直接操作できるMCPサーバー「freee-mcp」をOSSとして公開した。

会社発表によれば、freee-mcpにより、AIエージェントからfreeeの基幹業務を操作可能にすることを目指している。

これは、国内SaaS企業が「AIに使われるSaaS」へ向かい始めた象徴である。

国内SaaSでもすでに分岐が始まっている。

「SaaSだから成長する」時代は終わった。

これからは、

そのSaaSがどれだけ業務の中心に入り込んでいるか。

どれだけデータを持っているか。

どれだけAIによって成果を出せるか。

が問われる。


6. AIで無くなるSaaS

では、AIで無くなるSaaSとは何か。

まず厳しくなるのは、「人間の入力作業」を前提にしているSaaSである。

例えば、以下のような領域だ。

・議事録作成

・メール作成

・簡易レポート作成

・FAQ検索

・社内ナレッジ検索

・OCR単体

・翻訳単体

・要約単体

・データ転記

・フォーム入力

・簡易ワークフロー

・簡単なチャットボット

これらは、LLMが得意とする領域である。

もちろん、すべての企業が明日から使わなくなるわけではない。

しかし、単機能のままでは差別化が難しくなる。

例えば、議事録SaaSを考えてみる。

以前は、音声認識して議事録を作れるだけで価値があった。

しかし今は、Zoom、Google Meet、Microsoft Teams、Notion、Slack、ChatGPT、Claudeなど、さまざまなツールが会議要約や議事録機能を持ち始めている。

単に「議事録を作れます」だけでは、独立したSaaSとしての価値は落ちる。

OCRも同じだ。

以前は、請求書や領収書の文字を読み取るだけで価値があった。

しかしAIが画像を理解し、文脈を判断し、仕訳候補まで作れるようになると、OCR単体の価値は下がる。

翻訳も同じだ。

要約も同じだ。

メール作成も同じだ。

つまり、危ないのは「AIモデルの標準機能に吸収されるSaaS」である。

特に危険なのは、次のようなSaaSだ。

第一に、単機能SaaS。

一つの機能だけを提供している場合、AIモデルや大手プラットフォームに取り込まれやすい。

第二に、データを持たないSaaS。

ユーザーが使うたびに価値が蓄積されないSaaSは、AI時代に弱い。

第三に、業務の中心にいないSaaS。

周辺作業だけを便利にするツールは、AIエージェントに吸収されやすい。

第四に、APIや外部連携が弱いSaaS。

AIが使えないSaaSは、AI時代の業務フローから外される。

第五に、成果に責任を持たないSaaS。

「ツールを提供します」で止まる企業は、成果を出すAIサービスに置き換えられる。

ここで重要なのは、ユーザーの本音である。

ユーザーは議事録SaaSが欲しいのではない。

会議後の作業を減らしたいのである。

ユーザーは経費精算SaaSが欲しいのではない。

経費精算を終わらせたいのである。

ユーザーはCRM入力ツールが欲しいのではない。

営業活動を前に進めたいのである。

ユーザーはFAQ検索ツールが欲しいのではない。

答えをすぐ知りたいのである。

AI時代には、この本音に直接応えるサービスが強くなる。

だから、単に「入力しやすい」「検索しやすい」「見やすい」だけのSaaSは厳しくなる。


7. 開発コストの崩壊は、誰に味方するのか

ここで、一つの仮説を検討したい。

「既存SaaS企業は、エンジニアを減らしてLLMに投資すれば、いくらでも製品を進化させられる。だから個人が既存SaaSに挑む余地は、もう無いのではないか」

この仮説は、半分正しく、半分間違っている。

順番に見ていく。

コード生産コストは、本当に崩壊している

まず前提の確認である。

MicrosoftのCEOサティア・ナデラ氏は2025年4月、CNBCの報道によれば、社内リポジトリのコードの2〜3割がすでにAIによって書かれていると述べた。

SalesforceのCEOマーク・ベニオフ氏についても、報道ベースでは、AIエージェント導入によってカスタマーサポート部門の人員を9,000人規模から5,000人規模へ減らしたと語ったとされる。なお、こうした数字は企業の公式決算資料というより、インタビューや報道で語られた内容として扱うべきである。

つまり「人を減らしてAIに投資する」は、思考実験ではない。

大手SaaS企業で、現実に進行している経営判断である。

コードを書くことの限界費用は、確実にゼロへ向かっている。

それでも「いくらでも進化する」とは言えない三つの理由

しかし、ここから「既存企業は無敵になる」という結論は導けない。

理由は三つある。

第一に、大企業の開発速度のボトルネックは、コード生産ではない。

レガシーコードベースとの互換性維持。

既存顧客への影響評価。

部門間の調整、承認プロセス、コンプライアンス確認。

大企業の機能リリースが遅い本当の理由はここにあり、AIはコードを書く速度を上げても、会議の速度は上げない。

むしろ、守るべきレガシーを持たないAIネイティブな新興企業のほうが、同じAIを使ったときの速度優位は大きい。

第二に、コードがコモディティ化するなら、機能の多さは堀にならない。

誰もが同じ速度で機能を作れる世界では、機能で差がつかない。

既存企業がLLMで機能を量産できるなら、競合も同じことができる。

つまり開発コストの崩壊は、既存企業を強くするのではなく、「機能競争」というゲームそのものを無価値化する。

堀の所在が、コードから、データ・顧客基盤・信頼・販売網へ移動する。

第三に、「人を切ってAIへ」は万能ではない。

報道ベースでは、AIによる顧客対応の全面置き換えを進めたKlarnaが、品質面の課題から人間の採用を一部再開したとされる。

例外処理、責任の所在、品質保証。

人間を完全に外すと壊れる業務は、まだ多い。

個人は既存SaaSに勝てないのか

では、個人や超少人数チームはどうか。

正面攻撃は、確かに無理ゲー化している。

バイブコーディングの時代、既存SaaSの画面と機能を複製することは、個人でも数日でできる。

しかし、コピーできないものが残る。

蓄積された業務データ。

既存顧客基盤と切り替えコスト。

SOC2や監査対応といった信頼の実績。

販売網、パートナー網、エコシステム。

そして皮肉なことに、個人が機能をコピーできる時代とは、機能の値段がゼロになった時代である。

個人が良い機能で挑んでも、既存企業は同じ速度でコピー返しができる。

アイデア単体は、もう防御にならない。

「よっぽどのアイデアが必要」というより、正確には「よっぽどの非対称性が必要」なのだ。

それでも個人の勝ち筋は、史上最大級に開いている

一方で、別の事実もある。

スウェーデンのLovableは、Crunchbaseの報道によれば、2024年11月末のサービスローンチからわずか4週間でARR400万ドルに到達し、2025年7月には評価額18億ドルのユニコーン企業になった。ローンチから8ヶ月後のことである。

さらに一部報道では、2025年末時点でARRが2億ドル規模まで拡大したとも伝えられている。ただし、この数字は公式決算資料ではなく、スタートアップ報道ベースの情報として扱うのが安全である。

少人数のチームが、かつてない速度で売上を立てる事例が、現実に次々と生まれている。

ただし彼らが勝ったのは、既存SaaSの正面ではない。

個人や小チームの勝ち筋は、既存企業が構造的に追えない角度にある。

一、AIネイティブな新カテゴリ。

既存企業は、自社の主力製品を食う製品を出しにくい。

シートベース課金で儲かっている企業ほど、シートを減らすAIエージェントを本気で売れない。

このカニバリゼーションのジレンマは、個人には存在しない。

二、超ニッチな現場とローカル商習慣。

大手のTAM(市場規模)計算に乗らない業務は、無数にある。

日本の業界特有の帳票、承認慣行、多段階の下請構造。

現場を知る人間がAIで作るソフトウェアは、シリコンバレーからは見えない。

三、ツールではなく「完了」を売る。

ソフトウェアを売るのではなく、AIと自分で業務の完了を請け負う。

サービス・アズ・ア・ソフトウェアの形なら、個人は大手のソフトウェア販売網と競合しない。

四、配布とコミュニティの初速。

機能がコピーされる前提なら、勝負は「誰が先にユーザーの習慣になるか」である。

開発力ではなく、配布力。

これが個人の主戦場になる。

「LLMに頼めば終わる機能」の淘汰は、三つの経路で進む

最後に、単機能SaaSの淘汰について、もう一段精緻に見ておきたい。

淘汰は一つの力ではなく、三方向から同時に来る。

経路一、モデル標準機能化。

基盤モデル企業の製品アップデートで、機能ごと吸収されるパターンである。

GuardianやReuters Breakingviewsなどの報道では、Anthropicが発表した法務向けAIツールをきっかけに、法務データ・専門情報サービス企業の株価が大きく下落したとされる。市場は、法務データベースや専門情報サービスの一部がAIに代替される可能性を織り込み始めた。

モデル企業の発表一つで、単機能事業や専門データサービスの前提が揺れるのである。

経路二、プラットフォーム同梱。

Microsoft 365、Google Workspace、Slackといった基盤プラットフォームにAI機能が同梱されると、単体課金の根拠が消える。

文章校正、議事録、要約、翻訳。

この領域はすでに「同梱との戦い」になっている。

経路三、顧客の内製化。

バイブコーディングにより、「年間数百万円のSaaSを契約するより、自社で作る」という選択肢が現実になった。

特に社内ツール、ダッシュボード、簡易ワークフローはこの圧力を最初に受ける。

そして、危険度を測る判定基準は、シンプルに言えばこうだ。

そのSaaSの価値を、一文のプロンプトで言い換えられるなら、危険である。

「この文章を校正して」で終わる機能は、淘汰の対象になる。

逆に、継続的なデータ蓄積、権限管理、監査証跡、複数の当事者をつなぐ業務は、プロンプト一発では代替できない。

開発コストの崩壊は、既存企業にも個人にも、等しく味方する。

だからこそ、機能では誰も勝てなくなる。

勝負は、データ、配布、信頼、そして現場へ移る。



8. AIで成長するSaaS

一方で、AIによって成長するSaaSもある。

それは、業務データを握っているSaaSである。

例えば、以下のような領域だ。

・ERP

・CRM

・会計

・人事労務

・経営管理

・生産管理

・MES

・WMS

・SCM

・PLM

・品質管理

・設備保全

・法務契約管理

・カスタマーサポート基盤

なぜこれらは強いのか。

理由は簡単だ。

AIは頭脳である。

しかし、データがなければ働けない。

AI営業が働くには、顧客データ、商談履歴、見積履歴、契約履歴、問い合わせ履歴が必要になる。

それらはCRMの中にある。

AI経理が働くには、請求書、領収書、仕訳、支払履歴、取引先マスタ、承認履歴が必要になる。

それらは会計システムや経費精算システムの中にある。

AI人事が働くには、従業員情報、評価履歴、勤怠、給与、スキル、異動履歴が必要になる。

それらは人事システムの中にある。

AI製造管理が働くには、生産計画、工程実績、在庫、設備稼働、品質データ、不良履歴が必要になる。

それらはERP、MES、WMS、生産管理システムの中にある。

つまり、AI社員の本当の仕事場は、ChatGPTのチャット画面ではない。

企業の業務システムである。

AIは、業務システムの上で働く。

だから、業務データとワークフローを握っているSaaSは、AI時代にむしろ重要になる。

そしてこの方向性は、すでに数字になり始めている。

Salesforceの会社発表によれば、2026年度第4四半期時点で、AIエージェント製品「Agentforce」のARR(年間経常収益)は8億ドル、前年比169%増に達した。

さらに2027年度第1四半期の発表では、Agentforce ARRは10億ドル超となり、AIとデータ関連ARRの合計は34億ドル、累計38億件のAgentic Work Unitsを提供したとされている。

CRMという業務データの塊の上で、AIエージェントが実際に働き、それが売上として計上され始めた。

「業務データを握るSaaSがAIの仕事場になる」という構図は、もう仮説ではない。

ここで大事なのは、SaaSが「アプリ」から「業務OS」へ変わることだ。

従来のSaaSは、人間が操作するアプリだった。

これからのSaaSは、AIエージェントが業務を実行するOSになる。

AIが営業を支援する。

AIが経理を処理する。

AIが人事を補助する。

AIが製造現場を分析する。

AIが在庫を最適化する。

AIが問い合わせを解決する。

その時、AIが接続する先が業務SaaSである。

つまり、成長するSaaSは、次の条件を持つ。

第一に、業務の中心にいる。

第二に、重要データを持っている。

第三に、ワークフローを握っている。

第四に、AIが操作しやすいAPIを持っている。

第五に、権限管理と監査ログを持っている。

第六に、成果に近い課金へ移行できる。

この条件を満たすSaaSは、AI時代にさらに強くなる。


9. ERP・生産管理・工程管理はなぜ残るのか

ここは非常に重要である。

多くのAI論者は、企業業務を「アプリの画面」だけで見ている。

しかし、実際の企業現場はそんなに単純ではない。

特にERP、生産管理、工程管理、MES、WMS、品質管理、保全管理のような領域では、標準アプリを入れただけで業務が完成することはほとんどない。

なぜなら、現場には会社ごとの例外処理、商習慣、部門間の責任分界、古い基幹システム、Excel運用、紙帳票、バーコード、ラベル、承認ルール、マスタ管理、現場の暗黙知があるからだ。

ERPは、単なるアプリではない。

会社の基幹業務そのものである。

生産管理も、単なる予定表ではない。

工場の動きそのものである。

工程管理も、単なる進捗表ではない。

現場の作業、設備、人員、納期、品質、原価をつなぐ神経系である。

MESは、現場の実績を拾う。

WMSは、倉庫と在庫を動かす。

SCMは、調達、生産、物流、販売をつなぐ。

PLMは、設計から製造までの製品情報を管理する。

これらは、AIが出てきたから不要になるものではない。

むしろAIが本当に企業で働くためには、これらのシステムが必要になる。

例えば、AIが生産計画を最適化するとする。

そのためには、受注情報、在庫情報、設備能力、人員シフト、工程順序、材料調達、納期、品質制約が必要になる。

それらはERPやMESの中にある。

AIが倉庫作業を最適化するとする。

そのためには、在庫位置、入出庫予定、ピッキング履歴、作業者の動線、配送予定が必要になる。

それらはWMSの中にある。

AIが設備保全を支援するとする。

そのためには、設備稼働データ、点検履歴、故障履歴、部品在庫、保全計画が必要になる。

それらはCMMSや保全管理システムの中にある。

つまり、AIはERPやMESを消すのではない。

ERPやMESの上で働く。

ここを間違えてはいけない。

AI時代に消えるのは、ERPやMESではない。

消えるのは、ERPやMESに人間が手で入力し続ける作業である。

そして、ここに導入支援企業の価値がある。

標準アプリだけでは、現場の機能は補えない。

追加開発が必要になる。

既存システムとの連携が必要になる。

マスタ設計が必要になる。

運用でカバーする領域も必要になる。

現場教育も必要になる。

部門間の調整も必要になる。

AIエージェントを入れる場合は、さらに難しくなる。

何をAIに任せるのか。

どこから人間承認にするのか。

AIの判断ログをどう残すのか。

間違った時にどう戻すのか。

権限をどう制御するのか。

責任分界をどう設計するのか。

つまり、AI時代には、導入支援会社が不要になるどころか、むしろ重要になる。

ヒューマノイドロボットが工場に入る日、MESは「転記装置」をやめる

ここまでの話は、人間が働く現場を前提にしてきた。

しかし、その前提自体が変わり始めている。

生成AIを頭脳に持つヒューマノイドロボットや自律機械が、工場や倉庫に入り始めたからだ。

考えてみてほしい。

現在のMESや生産管理の仕組みは、二つの制約の上に設計されている。

一つ。機械はモノを「見る」ことができない。

二つ。人間は、働いた内容を自動では記録できない。

バーコードもQRコードも、本質的には「目が見えない機械のための名札」である。

着工スキャン、完工スキャン、入出庫スキャン。

あれは、システムが現場の物理的事実を知るすべがないから、人間がハンディターミナルでいちいち「申告」している姿だ。

日報も同じである。

作業はオフラインの物理世界で起き、システムはそれを知らない。

だから人間が思い出して、丸めて、転記する。

現場データの粒度が粗く、遅く、ときに不正確なのは、現場のせいではない。

転記という仕組みのせいである。

ヒューマノイドロボットは、この二つの制約を同時に壊す。

ロボットには、目がある。

視覚でモノそのものを認識できるなら、バーコードという名札は要らなくなっていく。

部品の外観、刻印、置かれた位置。

それ自体が識別子になる。

そしてロボットは、日報を書かない。

書かなくても、すべての動作がログとして自動的に台帳へ飛ぶ。

着工も完工も、人間の申告ではなく、観測された事実として記録される。

人間の実績入力では絶対に取れなかった100%の粒度のデータが、リアルタイムで流れ込む。

つまり、MESの「データ収集層」は段階的に消えていく。

バーコードリーダー、ハンディターミナル、実績入力画面。

これらは「機械が見えず、人間が自動記録できなかった時代」の補助線だった。

では、MESそのものが消えるのか。

逆である。

消えるのは入力の皮であり、残って太るのは台帳と頭脳だ。

第一に、作業指示の発行先が変わる。

人間に紙や画面で指示を出すのではなく、ロボットとAIエージェントが読める形、つまりAPIやMCPのような標準インターフェースで指示を発行するシステムが要る。

第二に、唯一の正を保証する生産台帳は、重要性をむしろ増す。

ロボットが自律的に動くほど、「何が正しいマスタで、現場はいまどういう状態か」を一元的に保証する台帳がなければ、現場は壊れる。

第三に、人間とロボットの混在をさばくオーケストレーションが要る。

当面の工場は、人間とロボットが同じラインに立つ。

どの作業をどちらに割り当て、ロボットのどの個体に振り、例外時に誰へエスカレーションするか。

これは新しいMESの中核機能になる。

第四に、監査証跡である。

どのロボットが、どのモデルのどのバージョンで、何を根拠に、何を実行したか。

食品、医薬、自動車のトレーサビリティ規制は、AI時代でも緩くならない。

むしろ、AIが物理世界で動く現場ほど、証跡の要件は厳しくなる。

気づいただろうか。

これは、先に見たfreeeのSoEからSoRへという話の、フィジカル版である。

人間向けの入力画面が消え、AIとロボットを正しく動かすための台帳が残る。

オフィスで起きていることと、工場でこれから起きることは、同じ一つの構造変化なのだ。

そしてこの変化は、日本にとって追い風になり得る。

現場の暗黙知、工程設計、品質管理、例外処理の知恵。

ロボットに「正しい仕事」をさせるために必要な知識は、日本の製造現場に蓄積されている。

ヒューマノイドの頭脳である基盤モデルを米中が握ったとしても、「現場の台帳と業務知識」のレイヤーは、現場を持つ者にしか作れない。



10. AI時代に必要となる新しいSaaS

AIが普及すると、既存SaaSの一部は代替される。

しかし同時に、AIそのものを管理する新しいSaaS市場が生まれる。

これは非常に重要である。

AIエージェントが企業内で働くようになると、人間社員と同じように管理が必要になる。

誰の代理として動くのか。

どの権限を持つのか。

どのデータにアクセスできるのか。

どの操作を実行できるのか。

どこまで自律的に動けるのか。

どこから人間承認が必要なのか。

何を実行したのか。

なぜその判断をしたのか。

どのくらいコストがかかったのか。

成果は出たのか。

これらを管理する仕組みが必要になる。

ここから、次のような新しいSaaS市場が生まれる。

AgentOps

AIエージェント版のDevOpsである。

エージェントの稼働状況、タスク成功率、失敗率、応答速度、コスト、ログ、評価を管理する。

複数のAIエージェントが企業内で動く時代には、AgentOpsは必須になる。

AI監査SaaS

AIが何を判断したのか。

どのデータを参照したのか。

どのツールを実行したのか。

誰の承認を得たのか。

あとから確認できなければ、企業では使えない。

AI監査は大きな市場になる。

AIセキュリティSaaS

AIは便利だが、情報漏洩や権限逸脱のリスクがある。

プロンプトインジェクション、機密情報の外部送信、誤操作、不正なツール実行などを防ぐ必要がある。

AIセキュリティは、今後の企業導入で必須になる。

MCP管理SaaS

AIエージェントが外部ツールを使うには、接続基盤が必要になる。

Model Context Protocol、つまりMCPは、AIアプリケーションが外部システム、データソース、ツール、ワークフローに接続するためのオープンな標準である。

MCPのような仕組みが広がるほど、どのAIがどのツールへ接続できるかを管理する必要が出てくる。

MCPサーバー管理、認証、権限、ログ、ガードレールは新しい領域になる。

ベクトルDB・ナレッジ管理

AIが企業知識を使うには、社内文書、マニュアル、FAQ、議事録、契約書、仕様書、過去案件の情報を検索できる必要がある。

RAG、ベクトルDB、ナレッジ管理は、AI時代の基盤になる。

AI社員管理SaaS

将来的には、人間社員だけでなくAI社員を管理する画面が必要になる。

営業AI。

経理AI。

人事AI。

法務AI。

製造AI。

CS AI。

それぞれがどの仕事を担当し、どれだけ成果を出し、どこで失敗したかを管理する必要がある。

これは、人事システムとタスク管理と監査システムが融合したような新しい市場になる。

つまり、AIはSaaSを殺すだけではない。

AIのためのSaaS市場を作る。


11. SaaS提供会社はどう変わるべきか

では、SaaS提供会社は今後どう変わるべきか。

結論は、

機能提供会社から、業務成果提供会社へ変わるべき

である。

これまでのSaaSは、「機能」を売っていた。

経費精算できます。

CRM管理できます。

人事管理できます。

勤怠管理できます。

請求書処理できます。

しかし、AI時代の顧客は、機能そのものにお金を払いたいわけではない。

顧客が欲しいのは成果である。

経費精算ソフトではなく、経費処理が終わること。

CRMではなく、営業活動が前に進むこと。

会計ソフトではなく、月次決算が早く締まること。

人事システムではなく、採用と育成が改善すること。

生産管理システムではなく、納期遅延が減ること。

WMSではなく、在庫差異とピッキングミスが減ること。

この方向へSaaS会社は変わる必要がある。

具体的には、次の方針が重要になる。

1. AIエージェントを前提にした設計へ変える

人間が画面を操作するだけでなく、AIが安全に操作できる設計にする。

API、イベント、Webhook、権限管理、監査ログ、外部連携が重要になる。

2. 自社SaaSを「業務OS」にする

単なるアプリではなく、業務データとワークフローの中核になる必要がある。

顧客の業務の中心に入れば入るほど、AI時代でも価値が残る。

3. データ資産を強化する

AI時代の価値はデータにある。

顧客の業務履歴、判断履歴、承認履歴、例外処理、成果データを蓄積できるSaaSは強い。

4. 成果課金へ近づく

ID課金だけでは限界が来る。

AIが人間の作業を減らすほど、人間ID数は増えにくくなる。

そのため、処理件数、削減時間、成果件数、改善効果に近い課金が重要になる。

5. 導入支援会社との連携を強める

AI時代のSaaSは、売って終わりではない。

ERP、MES、WMS、CRM、会計、人事などと連携し、現場運用に落とし込む必要がある。

そのため、導入支援会社、SIer、業務コンサル、BPO企業との連携が重要になる。

6. 自社の開発にもAIを全面導入する

SaaS会社自身もAIを使って開発を高速化する必要がある。

仕様作成、コード生成、テスト、QA、ドキュメント作成、カスタマーサポート、営業資料作成。

すべてにAIを組み込む。

AIを使いこなせないSaaS会社は、AIネイティブ企業に負ける。

つまり、SaaS会社は、

ソフトウェア会社から、AI業務成果会社へ変わる必要がある。


12. 導入支援会社はどう動くべきか

私は、AI時代に最も伸びる領域の一つが、導入支援会社だと思っている。

なぜなら、AIを買っただけでは会社は変わらないからだ。

ChatGPTを契約しても、会社の業務は自動では変わらない。

ERPを入れても、現場は自動では変わらない。

MESを入れても、工場は自動では変わらない。

WMSを入れても、倉庫は自動では変わらない。

必要なのは、業務設計である。

どの業務をAIに任せるのか。

どの業務は人間がやるのか。

どこで承認するのか。

どこで例外処理するのか。

どのデータを整備するのか。

どのSaaSと連携するのか。

どこを追加開発するのか。

どこを運用でカバーするのか。

この設計ができる会社が、これから強くなる。

従来の導入支援会社は、設定代行やカスタマイズが中心だった。

これからは違う。

AI業務設計。

AIエージェント設計。

データ連携設計。

権限設計。

監査ログ設計。

人間とAIの役割分担設計。

現場運用設計。

ここまで踏み込む必要がある。

特に、ERP、生産管理、MES、WMS、SCM、PLMの領域では、導入支援企業は必須である。

なぜなら、現場には標準機能だけでは処理できない事情があるからだ。

古いシステムが残っている。

Excel運用が残っている。

現場独自のルールがある。

取引先ごとの例外がある。

紙帳票がある。

バーコードやラベルがある。

設備との連携がある。

人間の勘と経験がある。

AIはこれらを一瞬で理解できない。

だから、現場を見て、業務を分解し、システムへ落とし込む人が必要になる。

今後の導入支援会社は、次のように変わるべきだ。

1. AI導入支援だけで終わらない

AIチャットボットを入れて終わりではなく、業務フロー全体を変える。

2. ERP・MES・WMSを理解する

AIだけ分かっても不十分である。

企業の基幹業務、現場業務、物流、在庫、生産、会計を理解する必要がある。

3. データ整備を支援する

AIの前に、マスタ整備、データ統合、入力ルール、コード体系、業務定義が必要になる。

4. AIエージェントの権限設計を行う

AIに何を許可するか。

何を禁止するか。

どこで人間に確認するか。

これを設計する。

5. 現場教育まで行う

AIは現場に受け入れられなければ使われない。

現場教育、運用マニュアル、トレーニング、定着支援が重要になる。

6. 保守・改善まで継続する

AI導入は一回で終わらない。

ログを見て、失敗を分析し、プロンプトやワークフローを改善し続ける必要がある。

つまり、導入支援会社は、

システム導入会社から、AI業務変革パートナーへ進化する。

ここに大きな市場がある。


13. 日本企業にとっての本当のチャンス

日本企業にとって、SaaS is Dead論争は悲観材料だけではない。

むしろチャンスである。

なぜなら、日本企業の現場業務は複雑だからだ。

海外のAIエージェントが、日本企業の現場業務をすぐに理解できるわけではない。

稟議。

根回し。

承認フロー。

取引先ごとの商習慣。

現場の暗黙知。

製造現場の改善文化。

物流現場の細かい例外処理。

会計・税務・労務の日本固有ルール。

こうした領域には、国産SaaS、国内SIer、業務コンサル、現場導入支援企業の価値が残る。

特に日本は、製造業、物流、医療、介護、建設、地方中小企業に膨大な現場がある。

AI時代に本当に価値が出るのは、単なるチャットAIではない。

現場業務を変えるAIである。

そのためには、ERP、MES、WMS、CRM、会計、人事、設備、ロボット、センサー、現場データが必要になる。

ここに、日本企業のチャンスがある。

日本はソフトウェアSaaSではアメリカに遅れたかもしれない。

しかし、AIエージェントと現場業務の統合では、まだチャンスがある。

特に、フィジカルAI、ヒューマノイド、産業ロボット、AMR、ドローン、設備保全、物流自動化とつながる領域では、日本の現場知見が武器になる。

つまり、次の勝負は、単なるSaaSではない。

AI × SaaS × ERP × 現場 × ロボット

である。

この視点で見ると、SaaS is Deadは終わりの話ではない。

新しい業務システム市場の始まりである。


14. 今後5〜10年で起きる変化

今後5〜10年で、企業ソフトウェア市場は大きく変わる。

私は、次のような変化が起きると思う。

1. 人間がSaaSを開く回数が減る

AIエージェントが裏側で処理するため、人間が画面を開く回数は減る。

ただし、SaaSそのものが消えるわけではない。

SaaSは裏側の業務基盤になる。

2. SaaSのUIは人間向けからAI向けへ変わる

画面だけでなく、API、MCP、権限管理、監査ログが重要になる。

3. ID課金が揺らぐ

AIが人間の作業を代替すると、人間ID数を基準にした課金は限界が出る。

処理件数課金、成果課金、AIエージェント課金が増える。

4. AgentOps市場が伸びる

AIエージェントの管理、監査、評価、コスト管理が重要になる。

5. 導入支援会社の価値が上がる

AIは買うだけでは使えない。

業務設計、データ整備、現場運用ができる会社が伸びる。

6. ERP・MES・WMSがAIの仕事場になる

基幹業務や現場業務のデータを持つシステムは、AI時代にさらに重要になる。

7. SaaS企業の再編が進む

単機能SaaSは統合される。

業務OS型SaaSは大型化する。

大手プラットフォームに買収される企業も増える。

8. AI社員という概念が一般化する

営業AI、経理AI、人事AI、法務AI、製造AI、CS AIのように、業務別AIエージェントが企業内で働くようになる。

9. SaaSとBPOの境界が溶ける

AIが業務を実行するようになると、SaaSはツール提供から業務代行に近づく。

ソフトウェア企業とBPO企業の境界が曖昧になる。

10. 現場導入できる会社が勝つ

結局、AIもSaaSも、現場で使われなければ意味がない。

現場に落とし込める会社が勝つ。


15. 結論:SaaS is Deadではなく、SaaS is Evolving

最後に、もう一度結論を整理したい。

SaaSは死なない。

しかし、従来型SaaSの一部は確実に厳しくなる。

特に、人間の入力作業を前提にした単機能SaaSは、AIに吸収されやすい。

一方で、業務データ、ワークフロー、権限管理、監査ログ、現場業務を握っているSaaSは、AI時代にさらに重要になる。

AIはSaaSを不要にするのではない。

AIは、SaaSの使われ方を変える。

これまでのSaaSは、人間が使うアプリだった。

これからのSaaSは、AI社員が働く業務OSになる。

そして導入支援会社は、設定代行ではなく、AI業務変革パートナーになる。

ERP、生産管理、工程管理、MES、WMS、CRM、会計、人事、品質管理、保全管理。

これらは、AI時代に消えるのではない。

AIの仕事場になる。

だから私は、こう考えている。

SaaS is Deadではない。

SaaS is Evolvingである。

死ぬのは、SaaSではない。

死ぬのは、

人間が画面に入力することを前提にした旧世代のSaaS

である。

そして伸びるのは、

AI社員が業務を実行するための業務OS型SaaS

である。

これからの企業競争は、単にAIツールを導入するかどうかでは決まらない。

どの業務をAIに任せるのか。

どのデータを整備するのか。

どのSaaSを業務OSにするのか。

どの現場から変えるのか。

誰が導入支援するのか。

ここで差がつく。

AI時代の本当の勝者は、AIモデルを持つ企業だけではない。

AIを業務に落とし込み、現場を動かし、成果に変えられる企業である。

SaaS is Deadという言葉の裏側で、いま始まっているのは、企業ソフトウェアの終わりではない。

企業ソフトウェアの進化である。

そしてその進化の中心にあるのが、AIエージェントであり、ERPであり、現場業務であり、導入支援企業なのである。

最後に、一つだけ。

本稿で書いてきたような、AIエージェントとロボットが働く時代に沿ったERP・MESアプリケーションを、実は私も、こっそり開発している。

人間の入力画面ではなく、AIが正しく仕事をするための台帳と実行基盤。

そういうものを、作っている。

続報は、いずれこのNOTEで。


参考リンク

SaaS is Dead / SaaSpocalypse 関連

  • Business Insider Japan「SaaS is Dead」と言われて当事者はどう思っている? https://www.businessinsider.jp/article/2606-saas-is-dead-unlisted-companies-truth/

  • TOKIUM公式:Business Insider Japan掲載のお知らせ https://corp.tokium.jp/news/bhr-nyt9rup/

  • EnterpriseZine:ログラス・マツリカ・TOKIUMは「SaaSの死」にどう立ち向かうのか https://enterprisezine.jp/news/detail/24357

  • Forrester:SaaS As We Know It Is Dead: How To Survive The SaaS-pocalypse https://www.forrester.com/blogs/saas-as-we-know-it-is-dead-how-to-survive-the-saas-pocalypse/

  • Reuters:US software stocks slammed on mounting fears over AI disruption https://www.reuters.com/business/us-software-stocks-stabilize-after-bruising-selloff-ai-disruption-fears-2026-02-05/

  • Business Insider:The SaaSpocalypse as we once knew it is over https://www.businessinsider.com/saaspocalypse-over-software-stocks-stage-huge-ai-rebound-snowflake-nvidia-2026-6

  • Business Insider:Why Jensen Huang says now is an incredible time to be a software company https://www.businessinsider.com/jensen-huang-incredible-time-software-company-2026-6

  • Guardian:Anthropic's launch of AI legal tool hits shares in European data companies https://www.theguardian.com/technology/2026/feb/03/anthropic-ai-legal-tool-shares-data-services-pearson

  • Reuters Breakingviews:AI apocalypse trade has a buggy logic https://www.breakingviews.com/columns/considered-view/ai-apocalypse-trade-has-buggy-logic-2026-02-04/

大手SaaS・AIエージェント関連

  • Anthropic:Claude Cowork https://www.anthropic.com/product/claude-cowork

  • Anthropic:Agents for financial services https://www.anthropic.com/news/finance-agents

  • Salesforce Agentic CRM / Agentforce https://www.salesforce.com/

  • Salesforce 2026年度Q4決算発表 https://investor.salesforce.com/news/news-details/2026/Salesforce-Delivers-Record-Fourth-Quarter-Fiscal-2026-Results/default.aspx

  • Salesforce 2027年度Q1決算発表 https://investor.salesforce.com/news/news-details/2026/Salesforce-Delivers-Record-First-Quarter-Fiscal-2027-Results/default.aspx

  • freee公式note:freee共同創業者・横路隆によるCAIO就任に伴うfreeeのAI戦略発表 https://note.freee.co.jp/n/n3dc93dc763fc

  • EnterpriseZine:freee、横路隆氏がCAIOに就任 AIエージェントによる「まほう経費精算」を提供開始 https://enterprisezine.jp/news/detail/23738

  • freee公式:AIエージェントからfreeeの基幹業務を操作可能にするMCPサーバー「freee-mcp」をOSSとして公開 https://corp.freee.co.jp/news/20260302freee_mcp.html

  • ServiceNow AI Agents https://www.servicenow.com/products/ai-agents.html

  • Workday AI Agents https://www.workday.com/en-gb/artificial-intelligence/ai-agents.html

  • Model Context Protocol 公式 https://modelcontextprotocol.io/docs/getting-started/intro

開発コスト崩壊・バイブコーディング関連

  • CNBC:Satya Nadella says as much as 30% of Microsoft code is written by AI https://www.cnbc.com/2025/04/29/satya-nadella-says-as-much-as-30percent-of-microsoft-code-is-written-by-ai.html

  • TechRadar:Salesforce CEO says it cut 4,000 support jobs - and replaced them with AI https://www.techradar.com/pro/salesforce-says-it-cuts-4-000-support-jobs-and-replaced-them-with-ai

  • Fortune:Klarna changes course and recruits humans again after AI-first customer support https://fortune.com/2025/05/09/klarna-ai-humans-return-on-investment/

  • Customer Experience Dive:Klarna changes its AI tune and again recruits humans for customer service https://www.customerexperiencedive.com/news/klarna-reinvests-human-talent-customer-service-AI-chatbot/747586/

  • Crunchbase News:Lovable, A Swedish AI Vibe Coding Startup, Becomes Unicorn With $200M Series A https://news.crunchbase.com/ai/vibe-coding-startup-lovable-unicorn-status/

SaaS基礎理解

  • IDCF:SaaSとは https://www.idcf.jp/words/saas/

  • KDDI:SaaSとは? https://biz.kddi.com/content/column/smartwork/what-is-saas/


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