220円の本棚に隠されていた爆弾
ブックオフには、おじさんたちの聖域がある。
220円の本棚と、500円以下のCDコーナー
そこだけが、小遣いという名の有限な弾薬で戦えるフロンティアだ。たとえ敵陣(1,000円以上の棚)がすぐそこに広がっていても、おじさんの財布という要塞はその国境を容易には越えさせてくれない。
だから僕は今日も、220円の棚を丁寧に哨戒する。背表紙という背表紙を目で読み、タイトルという名の審問を一冊ずつにかける。「本当に読むのか?」「読みかけて積まれる未来が見えているぞ」と、もうひとりの自分が検察官のように問い詰めてくる。
それでも昨日は、なんとなく気分が良かった。しばらく本を買っていないという軽い罪悪感と、秋めいた空気が背中を押したのかもしれない。220円の棚から3冊を厳選し、「今日の僕はちょっとリッチだな」と思いながらレジへと向かった。
「2,440円です」
その一言が、静かな戦場に落ちた。
僕はしばらく、レジのお姉さんの顔と、手の中の本と、金額表示の「2440」という数字を交互に見た。
脳の中で何かが「計算中……計算中……エラー」と点滅し続けていた。
3冊で660円のはずが、なぜ2,440円?
答えはすぐにわかった。1冊、2,000円の本が紛れていたのだ。220円の棚に。まるで高級ワインが立ち飲み屋のコップに注がれているように、場違いな値札を静かに隠し持ったまま、僕の手に収まっていた。
地雷だった。
誰かが踏んで不発のまま残したのか、それとも最初からそこに仕掛けられていたのか。真相はわからない。ただ確かなことは、僕がその本を、なんの疑いも持たずに、220円という安全地帯の住人だと信じて胸に抱えていたという事実だ。
本来の僕は小心者だ。レジで金額を告げられたら、たとえ納得がいかなくても「あ、はい」と財布を開いてしまうタイプの人間である。しかし今日ばかりは、さすがに爆死するわけにはいかなかった。2,000円という爆風は、僕の小遣い防衛ラインを完全に超えている。
「あの、これ……キャンセルできますか」
我ながら震える声だった。
返本を受け取ったお姉さんに悪意はないし、棚に地雷を仕掛けた犯人も、おそらく悪意はなかっただろう。ただ、誰かがうっかり手に取り、うっかり戻しただけ。たったそれだけで、おじさんの平和な日曜日は爆心地になるところだった。
220円の棚は、油断ならない場所だ。
安全だと思っているから、余計に怖い。値段を確認しないまま本を信じた僕の楽観主義が、今日、静かに打ち砕かれた。
これからは哨戒をより厳密に行う。背表紙だけでなく、値札という名の身分証明書を、必ずチェックする。それが、220円の聖域で生き残るための、唯一の戦訓だ。
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