90歳を過ぎても、祖母が電車で2時間以上かけて向かう場所。
私の祖母は90歳を超えている。
昨日、そんな祖母が1人で、電車を乗り継ぎ2時間以上かけて、田舎のお墓参りにいってきたと話があった。

かれこれ、このやりとりはもう5年以上続いている。
祖母の息子は、20代の若さで突然死してしまった。
その息子の命日である。たった1人のかけがえのない息子の、命日である。
これまでは祖父と車で向かっていたのであるが、祖父が亡くなった今、祖母は1人で2時間以上電車をのりつぎ、お墓参りに行く。
誰にも頼らずに。
在宅リハで出会う、暮らしの“グレーゾーン”
訪問リハビリの現場にいると、見えてくるものがある。
一見、元気そうに見える高齢者の暮らしのあちこちに、実はすでに誰かの手が必要になっている場面がいくつもあるということ。
けれどその多くは、いわゆる“要介護”の認定がついていない。つまり、制度の外側。グレーゾーンのなかにある。
ただ、その多くは「支援が届いていない」のではなく、「支援を望んでいない」というケースでもある。
たとえば、毎日の家事。少しずつしんどくなってきても、
「今日は自分でご飯を炊けた」
と生きがいを感じる人がいる。
その言葉の裏にあるのは、“できること”を手放したくないという気持ちだ。
死に物狂いで行っている家事が、その人にとっては生活であり、役割であり、誇りでもある。そこに「無理しないで」「手伝いますよ」と差し出された支援が、場合によっては生活そのものを取り上げることにもなる。
駅の階段を、腰を丸めながら一段ずつ登る高齢者を見かけることがある。見ている側は「危ないからタクシーを使えばいいのに」と思うかもしれない。
でも、本人はどうだろう。
頑張ればまだできる。だから、頑張っている。
その“できる”という実感があるからこそ、今日も一歩を踏み出しているのかもしれない。そういう日々の積み重ねの中で、何を守り、何を支援とするかは、外からは見えづらい。
私たちは、支援する側に立つとつい「良かれと思って」を連発してしまう。そして、ときにそれが“奪う側”になるということに、自分も含め、 あまりに無自覚となってしまう瞬間がある。
関わりすぎず、でも放っておかず。そのさじ加減にこそ、専門性が問われるのだと思う。
「薬、飲んだつもりなんだけどね」
ある日、ご夫婦ふたり暮らしのお宅に伺ったときのこと。
ご主人は脳卒中の後遺症があり、奥さまは元気だけれど「白内障で最近視界がぼやけてきたの」と気にされていた。
リハビリを始めようと、ご主人の座っていた座椅子の下をふと見ると、白い粒がいくつも落ちていた。飲みこぼされた内服薬だった。
「時間を見て、毎回ちゃんと手渡してるんです」
と奥さまは言う。それは本当だと思う。
でも、たぶんそのあと、薬はご主人の手からするりとすり抜け、口に届く前にこぼれていた。
本人は“飲んだつもり”、奥さまは“渡したつもり”。そんな“つもり”同士のすれ違いが、床に静かに積もっていた。
すぐにケアマネジャーに連絡し、
「薬がちゃんと口に入るところまで見守る」
ことを、チームで確認し直すことになった。
病院や施設でもこういったことはあるけれど、在宅では誰も気づかず、症状の悪化につながることもある。
その人の“がんばりたい”を、どう守るか
ほんの小さなズレが、暮らしを揺るがすことがある。
そしてそのズレは、当事者たちが悪いわけではなく、むしろその生活をなんとか保とうとしている中で、少しずつ生まれてしまうものだ。
日本で、そして海外で、自分の足で歩こうとする高齢者の姿を見てきた今でも、「安全を優先すべきなのか」「それとも自分らしさを守ることのほうが大事なのか」と問いが消えることはない。
冒頭の祖母の話。
もし、これが理学療法士である私の担当患者であれば、ちょっと戸惑ったかもしれない。
90歳を過ぎた高齢女性が
人のごった返す駅のホームを、荷物を持って移動し
座れなければ立ちっぱなしで
2時間以上かけて
たどり着いた田舎道を歩き
途中でお花を買い、それを持ち
山道を登り、お墓に向かう。
汗をかきながら、お墓掃除をし
片付けをし
荷物をまとめて、来た道を同じ時間かけてもどる
これがどんなに大変か、何度も一緒に行っているからこそ、わかる。
それでも祖母の
「まだ、これができるから」
を、どうしても奪いたいとは思えない。
だから、途中で困ったらいつでも連絡してね、とだけ伝える。
支援とはなにか。本当に必要なサービスとはなにか。その問いには、簡単な答えはない。
だからこそ、“この人は今、どう生きたいのか”というところから、関わり方を考えていくしかないのだと思う。
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理学療法士として、体のこと、心のこと、高齢者介護のこと、はたまた趣味の海外のくらしのことなど、体験からの学びをシェアしていきますね^^
