【FF8】なぜ、あの魔女はひとりだったのか|その孤独は、どこから始まったのか
前回の記事 時間圧縮とは何だったのか|世界を壊したのは、愛だったのかもしれない
はじめに|魔女は、敵だったのか
FF8をクリアした人の多くが、同じ顔をする。
「……なんか、よく分からなかったな」
時間圧縮。魔女。SeeD。ジャンクションシステム。エンディングで再会したスコールとリノア。全部クリアしたはずなのに、「全部分かった」という感覚にならない。でも——なぜか忘れられない。
それは、FF8がちゃんと「答え」を隠しているからだ。
表面の物語はこうだ。魔女アルティミシアが世界を支配しようとしている。SeeD(傭兵組織)のスコールたちがそれを阻止するために戦う。最終的に倒して、世界は救われる。以上。
……シンプルすぎる。こんな話なら、「よく分からなかった」とはならない。
「分からない」のは、本当の話がここじゃないからだ。
本当の問いは、こっちだ。
なぜアルティミシアだけが、未来でひとりだったのか。
誰にも理解されず、誰にも届かず、世界中から恐れられながら——時間の果てにたったひとりで立っていた。
その孤独は、説明されていない。
作中で語られるのは「アルティミシアは魔女だ」という事実だけだ。なぜそこまで孤独になったのか。なぜ時間を壊すほどの感情を抱えるようになったのか。その過程は、描かれない。
この「描かれない過程」の中に、魔女という存在の本質がある。
第1章|魔女は"選ばれた存在"ではない
「魔女って、要するに特別な人でしょ?」
そう思っていた。選ばれし者。生まれつきの力。普通の人間とは違う、何か特別なものを持って生まれた存在——くらいの認識でFF8をプレイしていた人は多いんじゃないかと思う。
ゲームで言う「魔法使い」「ウィザード」「賢者」的な。特定の才能を持つ特別枠。そういうやつ。
でも——FF8の魔女は違う。
FF8の世界で、魔女は「なる」ものだ。魔女の力は継承される。誰かが死ぬとき、その力が次の存在へと移っていく。
「え、じゃあ選ばれてるじゃないか」と思うかもしれない。でもここで重要なのは——本人の意志とは無関係だということだ。
準備ができているかどうかとは無関係に。なりたかったかどうかとは無関係に。ある日突然、その力が内側に入ってくる。
「おめでとう、あなたは今日から魔女です」
そんな通知は来ない。気づいたらなっている。
これは「力を得る」という体験ではない。
「何かが内側に入ってくる」という体験だ。
ここが重要だ。GF(ガーディアンフォース)が内側に入るとき、記憶という層に干渉した。SeeD候補生たちがGFをジャンクションし、記憶が薄れていく——あの現象だ。「GFを使いすぎると記憶が消える」という話は、作中でも触れられている。
でも魔女の力が内側に入るとき——干渉するのは記憶の層だけではない。もっと深い場所に触れる可能性がある。
感情という最下層に、直接触れる可能性がある。
「感情の最下層」という言葉が分かりにくければ、こう考えてほしい。
人間の内側には層がある。一番外側に「言葉」がある。その下に「思考」がある。その下に「記憶」がある。そして——一番深い場所に「感情」がある。
言葉は変えられる。思考は訓練できる。記憶はGFに干渉される。でも感情は——最下層にあるから、なかなか変えられない。それが人間の根っこだ。
魔女の力は、その根っこに触れる。
だとすれば——魔女とは、力を持った存在ではない。
感情という最下層に、外部から何かが触れた状態の存在だ。
それは「特別になった」のではない。「変わってしまった」のだ。
気づいたときには、もうなっている。望んでなったわけじゃない。でももう元には戻れない。それが魔女という存在の、最初の本質だ。
「特別な存在」ではなく「変わってしまった存在」——この違いは、アルティミシアという人物を理解するうえで、後からじわじわ効いてくる。
そしてここで——ひとつの問いが生まれる。
感情という最下層に何かが触れたとき、人間はどう変わるのか。
第2章|感情は、処理できる量を超える
感情は本来、流れるものだ。
怒れば、やがて収まる。悲しめば、やがて薄れる。愛せば、やがて形が変わる。感情は動き続け、変化し続け、次の感情へと移っていく。
「ああ、あのとき好きだったな」くらいの温度になる。
これが「普通の人間」の感情の動き方だ。
川に例えるなら——感情は水だ。上流から流れてきて、下流へと抜けていく。一時的に増水しても、やがて流れ去る。川が溢れても、時間が経てば水位は戻る。
人間にはそういう「感情の自然排水機能」がある。
失恋しても、半年後には笑い話になる。仕事でひどいミスをしても、数年後には「まあそういうこともあるよね」になる。怒り狂った相手も、時間が経てば「もういいか」になる。
人間が意外と折れずに生きていけるのは、この排水機能のおかげだ。
でも——魔女の力が感情の最下層に触れているとしたら、その流れが変わる可能性がある。
川の出口が、塞がれる。
感情が流れずに、蓄積する。
悲しみが悲しみのまま残る。怒りが怒りのまま積み重なる。喪失が喪失のまま、どこにも行かない。普通の人間なら、時間が感情を薄めていく。でも感情の最下層に何かが触れている存在は——その薄め方が、うまくいかなくなる。
感情が、処理できる量を超え始める。
そのとき何が起きるか。
最初は、感情が「重く」なる。
些細なことで深く傷つく。小さな別れが、大きな喪失に感じる。他人には軽く見える出来事が、自分の中では重大な意味を持つ。感情の密度が、普通の人間とは違う重さになっていく。
「あれ、なんでこんなに引きずってるんだろ」とは、本人も思わない。思えない。「自分が弱いのか」と感じるかもしれない。でも——弱さじゃない。構造の問題だ。
次に——感じ方が変わる。
世界が変わったのではない。世界への反応が、変わる。他人の痛みが届きにくくなる。他人の喜びに共鳴しにくくなる。自分の感情と、他人の感情の間に——ズレが生まれていく。
「世界が変わった」のではない。「感じ方が変わった」のだ。
「みんなが楽しそうにしているのに、自分だけ薄皮一枚隔てた向こうにいる感じ」——そういう経験をした人なら、少し分かるかもしれない。あれは世界が変わったのではない。内側の感じ方が変わっているのだ。
魔女の場合、そのズレは放置されるほど大きくなる。
感情が蓄積するほど、他人との共鳴は難しくなる。共鳴が難しくなるほど、孤独が深まる。孤独が深まるほど、感情はさらに内側に向かい、蓄積する。
これは悪循環ではない。構造だ。
悪循環なら、どこかで断ち切れる。でもこれは構造だから、一度始まれば、止める方法がない。魔女の力が感情の最下層に触れた瞬間から——この構造は、静かに動き始める。
本人には何も分からないまま。ただ、少しずつ、感じ方が変わっていく。
第3章|孤独は結果ではなく"構造"だ
魔女は孤独だ——と言われる。
でもその孤独は、「誰にも理解されない」という意味ではない。
もっと深い場所にある。
感じ方が変わった存在は、他人との感情の共鳴が難しくなる。同じ出来事を体験しても、感じることが違う。同じ言葉を聞いても、受け取り方が違う。
これは「理解されない」のではない。
「理解できなくなる」のだ。
他人の感情が、届かなくなる。自分の感情が、届かせられなくなる。どれだけ言葉を尽くしても、感情の温度が伝わらない。
「なぜ分かってくれないのか」ではなく——「なぜ分からなくなったのか」が、魔女の孤独の本質だ。
ここで重要なのは——この孤独は「選んだ孤独」ではないということだ。
望んで孤立したのではない。人を嫌いになったのではない。繋がりたいという感情は、最下層にある。消えない。でも——繋がる方法が、失われていく。
繋がりたいのに、繋がれない。
これが——魔女という存在の、最も深い悲劇だ。
孤独は結果ではなく、構造だ。
感情の処理が変わった結果として、必然的に生まれる孤独。選んだわけではない。なりたかったわけではない。でも——感情の最下層に何かが触れた瞬間から、その構造は始まっていた。
アルティミシアがひとりだったのは——世界が彼女を拒絶したからではない。
感情の構造が変わったことで、繋がる方法が失われていったからだ。
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ここまで読んで、もう気づいているはずだ。
魔女の孤独は、性格の問題ではない。感情が処理できなくなり、構造として孤独が生まれる。
では——その力の正体は何か。
そしてなぜアルティミシアは、時間圧縮という極限まで追い詰められたのか。
この先では、その問いに答える。
そしてその答えが見えたとき——アルティミシアという存在は、「敵」ではなくなる。
構造の必然として、そこに辿り着いた存在になる。
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