副業の売上と経費を、家計から分ける仕組み

副業を始める前に、1つ決めることがあります。口座を分けるかどうか。口座とカードで30分、保存フォルダの規則で10分です。

効いてくるのは、確定申告の手間ではありません。 帳簿と書類を保存しているかどうかで、その所得の区分そのものが変わることがあります。区分が変われば、青色申告特別控除(条件を満たせば最大65万円)も赤字を給与と通算する扱いも、使える側と使えない側に分かれる。分岐は、1件目の入金より前にあります。

Day8で出した副業の時間単価は、税引前の数字でした。税引後に直すには、まず売上と経費が分かれている必要があります。


帳簿があるかどうかで、区分が動く

この記事で触れる制度は、すべて2026年時点の整理です。

副業の収入は、所得税では事業所得業務に係る雑所得に入るのが一般的です。どちらになるかは、その活動が社会通念上の事業と言える程度かで判定するのが原則ですが、2022年改正の所得税基本通達で判定の目安が示されました。

  • 取引を記録した帳簿書類を保存している場合、原則として事業所得

  • 保存していない場合、原則として業務に係る雑所得(収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合を除く)

ただし帳簿があっても、収入が僅少(例年300万円以下で主たる収入の10%未満)、営利性が認められない(例年赤字で赤字解消の取組がない)場合は個別に判断されます。

この違いが効くのは、Day11で扱う青色申告です。青色申告特別控除や損益通算は事業所得の側にあり、業務に係る雑所得では使えません。記帳は、判定の材料を残す作業です。記録がなければ、事業所得の側で主張する材料が残らない。

なお業務に係る雑所得でも、前々年の収入が300万円を超えると、現金預金取引等関係書類の5年保存が義務です。

1. 口座とカードを分ける

口座。 屋号付きは開業届を出してからですが(Day11)、個人名義の別口座なら今すぐ作れます。ネット銀行なら土日でもオンラインで申込まで進みます。

  • 副業の入金先をその口座1つに指定する

  • 経費の引き落としも、その口座に寄せる

  • 生活費とは行き来させない。動かすときは日付と金額をメモに残す

口座やカードを分けたこと自体が会社に伝わる経路はありません。伝わるとすれば住民税の側で、Day12で扱います。

カード。 副業専用を1枚決めます。新規に作る必要はなく、2枚目を切り替えるだけ。AIツールのサブスクや書籍代を、そこに寄せます。

完璧に分けきる必要はありません。 事業用の口座から生活費を出した、生活費の口座で経費を払った。これは生活費とのやりとりとして分けて書けばよい項目です(青色の複式簿記なら事業主貸・事業主借)。

2. 記録は、4項目でいい

要るのは取引日・相手先・内容・金額の4つ。揃っていれば後から会計ソフトに移せますが、欠けた記録は復元できません。

道具は件数で決まります。月10件以下ならスプレッドシートで足ります(売上と経費で2シート)。それ以上なら会計ソフトの検討段階。口座とカードを連携させると、明細が自動で取り込まれます。

入力は週1回、土曜にまとめる形にすると、月末に1か月分を思い出す作業が消えます。平日は明細やメールを保存フォルダに放り込むところまで。土曜に開くのはそのフォルダだけで、取引が5件なら5分から10分です。

経費になるもの、ならないもの

入るもの:AIツールのサブスク料金、業務用の書籍・資料、通信費の按分、打合せ費用、クラウドソーシングの手数料。

入らないもの:私的な支出、所得税・住民税そのもの。そして生計を一にする配偶者や親族に支払った対価は、事業所得等では必要経費になりません(所得税法56条)。妻に手伝ってもらって報酬を払う形が、これに当たります。例外は青色事業専従者給与と白色の事業専従者控除で、どちらも事業所得の側の話。Day11で扱います。

金額で扱いが変わるもの:10万円未満はその年の経費。10万円以上は減価償却ですが、20万円未満なら3年均等の一括償却資産も選べます(青色でなくても可)。青色申告者にはさらに、30万円未満を年300万円まで一括で落とせる特例。Day11の判断材料です。

3. 書類は、電子のまま保存する

2024年1月に変わった点です。

電子帳簿保存法により、電子取引で受け取ったデータは電子のまま保存することになりました。 メールで届いた請求書のPDF、クラウドソーシングの支払明細、通販の領収書。紙に印刷して元データを消す扱いは認められません。

保存の要件は、改ざん防止の措置(タイムスタンプ、訂正削除の履歴が残るシステム、訂正削除ができないシステム、事務処理規程のいずれか)と、日付・金額・取引先で検索できることです。

ただし副業の規模では緩和されることがあります。

  • 前々年の売上高が5,000万円以上などなら、税務調査でダウンロードに応じられれば検索要件は不要(始めた年は前々年が0円なので通常ここ)

  • 保存要件に従えない相当の理由があ、ダウンロードの求めと書面の提示に応じられる場合の猶予措置も(事前の申請は不要)

最低限やることは2つ。 受け取ったデータを1つのフォルダに集め、ファイル名を「日付_取引先_金額」に揃えること。これで検索要件の形は整います。もう1つが改ざん防止で、国税庁が事務処理規程のひな形を公開しています。紙の領収書は、紙のままで構いません。

自宅を経費にする前に、床面積を見る

自宅の一部を作業に使う場合、電気代・通信費などを使用割合で按分して経費に入れられます(家事按分)。割合は作業スペースの面積を総床面積で割るのが基本形です。

持ち家の人には、もう1つ見る場所があります。住宅ローン控除の居住用割合は床面積で判定されます。

要件は床面積の2分の1以上が居住用であること。控除額は居住用部分に対応する分で計算します。ただし居住用部分がおおむね90%以上なら、家屋の全部を居住用として取り扱って差し支えないという取扱いがある。ここが分岐点です。

つまり部屋を事業専用にして床面積の10%を超えると、Day5で出した金額のうち事業用の割合の分が減ります。逆に、電気代や通信費を使用時間で按分するだけなら床面積の割合は動きません。 控除に触れずに経費を作る形もある、ということです。

比べるときは2つを税額に揃えます。減るのは控除額の全部ではなく居住用でなくなった割合の分、増えるのは按分額に合計税率を掛けた分。どちらを選ぶべきかは扱いません。判断の前に税務署で確認してください。

なお家事按分の要件は青色と白色で条文が違います(所得税法施行令96条)。原則は「主たる部分が業務の遂行上必要で、その部分を明らかに区分できること」。主たる部分は50%を超えるかで判定しますが、50%以下でも明らかに区分できれば差し支えないという取扱いがあります(所得税基本通達45-2)。青色の事業所得等には「記録から直接必要だったと明らかにできる部分」という別枠。割合の根拠は面積図か使用時間の記録で残します。

税引前の数字を、税引後に直す

副業の所得は、本業の給与所得と合算して課税されます。適用されるのは課税所得に上乗せされる部分の税率で、Day3でふるさと納税の上限を出したときの所得税率が使えます。ただしDay3の課税所得が税率帯の境目に近いなら、超えた分には上の税率がかかります。

  • 年間の売上見込み - 年間の経費 = 副業の所得

  • 合計税率 = 所得税率 × 1.021(復興特別所得税を含む) + 住民税率10%(標準税率。超過課税の自治体は上振れ)

  • 副業の所得 × (1 - 合計税率) = 税引後

  • 税引後 ÷ Day8で出した総投下時間 = 税引後の時間単価

所得税率20%なら合計税率は約30.4%、23%なら約33.5%です。

ただし副業の所得が年20万円以下で、その年にほかに確定申告をする用事がなければ、所得税の側は申告不要で、残るのは住民税だけです。逆にDay3のふるさと納税やDay4の医療費控除を確定申告で出す年は、20万円以下でもこの所得を含めます。判定は次回。

この数字と並べるのは、Day8の額面のほうではありません。Day8では税引後の比較を先の回に回しましたが、売上と経費が分かれた時点で出せます。Day1の年間天引き額を引いて出した、手取りの時間単価のほうです。 ただし手取り側は社会保険料も引いたあと、副業側(業務委託型)は乗らない。条件は完全には揃いません。

「まだ売上がない」「そこまでの規模じゃない」「あとでまとめてやればいい」

まだ売上がない。 むしろ、その段階が最安です。取引が0件のうちに決めておけば、1件目から自動的に分かれる。

そこまでの規模じゃない。 規模が小さいほど、帳簿の有無が区分の判断に効きます。記録のコストは件数に比例するので、いまが最も軽い。

あとでまとめてやればいい。 1年分をまとめると、明細から中身を思い出す作業が加わる。電子データにいたっては、後から集め直すこと自体ができない場合があります。

確認先

  • 税務署・国税局電話相談センター:所得区分の判定基準、家事按分の基準の立て方、住宅ローン控除の居住用割合の数え方(個別の割合の妥当性は事前判定しないので、聞くのは基準)

  • 国税庁ウェブサイト:所得税基本通達35-2、電子帳簿保存法の猶予措置と検索要件、事務処理規程のひな形、保存期間

  • 金融機関:個人名義の追加口座の開設要件、屋号付き口座の条件

コピー用シート:口座・記録の分離手順

【副業・売上と経費の分離シート】記入日:20__年__月__日

■ ステップ1:お金の通り道
 副業用の口座:金融機関________ 開設日20__年__月__日
 □入金先を指定 □引き落としを寄せた
 副業用のカード:________ □新規 □既存の2枚目を転用
 開始時に生活費から入れた額:________円

■ ステップ2:記録
 道具:□スプレッドシート(月10件以下) □会計ソフト(________)
 入力:□毎週土曜にまとめる □その他(________)
 平日は、受け取った明細・メールを保存フォルダに入れるだけ

■ ステップ3:書類
 保存フォルダ:________ ファイル名:日付_取引先_金額(例 20260913_〇〇社_33000)
 改ざん防止:□事務処理規程(国税庁のひな形) □訂正削除の履歴が残るシステム
 □紙の領収書の保管場所:________

■ 保存期間(今年=20__年。起算は申告期限の翌日)
 □青色:帳簿・決算関係書類7年→20__年 / 請求書・領収書等5年→20__年
 □白色:法定帳簿7年→20__年 / その他5年→20__年
 □雑所得(前々年の収入300万円超):現金預金取引等関係書類5年→20__年

■ 家事按分(どちらかを選ぶ)
 □面積で按分:作業スペース____㎡ ÷ 総床面積____㎡ = ____%(床面積の割合が動く)
 □時間で按分:週の作業____時間 ÷ 週の総使用時間____時間 = ____%(床面積の割合は動かない)
 年間の電気代________円 + 通信費________円 = ________円 × ____% = ________円

■ 住宅ローン控除との突き合わせ(持ち家でDay5の控除が残っている場合)
 事業専用にする床面積の割合:□おおむね10%以下(全部を居住用として扱える取扱いあり) □10%超
 Day5のシート「今年戻る額の目安」________円 × 事業専用の床面積割合____% = (A)________円
 按分額________円 × 合計税率____% = (B)________円 → (A)と(B)を並べる
 ※電気代・通信費を時間で按分するだけなら床面積の割合は動かず、(A)は生じない

■ 税引後に直す
 売上見込み________円 - 経費________円 = 副業の所得________円
 合計税率 = 所得税率____% × 1.021 + 住民税10% = ____%
  □Day3の課税所得が税率帯の境目まで____円 → 超える分は上の税率で計算
  □所得20万円以下 かつ 今年は確定申告をしない → 住民税分だけ(判定は次回)
 所得 × (1 - ____%) = 税引後________円 ÷ Day8の総投下時間____時間 = ________円/時
 → Day8の「手取りの時間単価」________円/時 と並べる(額面のほうではない)

■ 今日やること(40分)
 □口座の開設申込 □カードを1枚決める □保存フォルダとファイル名の規則
 □売上・経費のシートを作る

おわりに

口座を1つ、カードを1枚、フォルダを1つ。40分です。

この40分が効くのは今年ではなく、青色申告を出すか決める来年です。そのとき手元に帳簿がなければ、判定の材料は残っていない。分けないという判断もあります。何を失うかは、冒頭の「使える側と使えない側」に戻って確かめてください。

次回は、分けた結果として出る数字です。20万円の壁の、正確な意味。 よく聞く20万円という線が何の20万円で、誰に適用されるのか。超えなかった場合にも残る義務が何かを、判定のフローにします。

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