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広告経済の次 #27: もう一つの消えたハードル

前の記事で、デジタル環境で「コスト」が劇的に下がったことも、現代の問題を引き起こしている要因の一つだというお話をしました。

もう一つ、要因になっていることがありました。

それは、「匿名性」です。

1. 言論の自由と匿名性

言論の自由は、民主主義社会の根幹です。
そして、言論の自由を守るために匿名性が必要だ、という考え方があります。

権力者を批判するとき、実名では報復を恐れて声を上げられない人がいます。
内部告発をするとき、身元が明かされれば職を失うかもしれません。

だから、匿名で意見を述べる権利は守られるべきだ、と。

このロジックは、理解できます。


しかし、ネット上で起きている別の光景があります。

匿名の人々が、特定の個人を集中攻撃する。
「死ね」「消えろ」という言葉が、何百、何千と投げつけられる。

これも「言論の自由」なのでしょうか?

攻撃している側は、おそらく自分が正義だと信じています。
「あいつは悪いことをした」 「社会的制裁が必要だ」

でも、何かがおかしい。


2. 昔の「匿名性」

インターネット以前の世界では、体制を批判したいとき、人々はどうしていたのでしょうか?

匿名でメディアに情報を投げ、メディアがそれを取材し、検証し、報じるのを待つ。

ここで重要なのは、必ず責任者がいたということです。

匿名の声が、そのまま不特定多数に届くことはありませんでした。
メディアというゲートキーパーが、情報を選別していました。
そして、メディアがいったん選別して公の場に出したならば、その責任はメディアが負っていたのです。

便所の落書きやクチコミもありました。
でも、それらが不特定多数に広まるのは多くの場合、悪質なデマであり、マイノリティの虐殺などの悲劇をもたらしたことさえあります。


3. 今の「匿名性」

今はどうなっているか?

匿名で、ゲートキーパーなしで、不特定多数に直接届けることができます。

そして、誰も、何も、責任を問われない。

これは、便所の落書きやクチコミの悪質なデマ、とまったく同じです。

いや、それよりひどい。

集団で個人を攻撃する。
匿名の脅迫状、家への落書き、張り紙

それは「卑怯」とされてきた行為でした。
良識ある大人ならば、人間として最も恥ずべきことだと。

それを今の情報インフラは助長している。
そして、それがこの世界の常識であるかのように見なされている。
ああ、なんと嘆かわしいことでしょう・・・

4. その「匿名性」は必要か?

そう考えると、現代の情報インフラにおける「匿名性」なんて、何にも良いことがない、やめてしまえ、と思いたくなります。

ただ、良い面もありますね。

初心者が恥ずかしがらずに作品を発表できる。
既存の評判や肩書きから自由になれる。
失敗を恐れずに実験できる。

匿名性は、クリエイティビティを発揮するハードルを下げました。

ただ、同時に対人攻撃のハードルも消えてしまった。

この創作活動における匿名性と対人攻撃における匿名性は、どう区別すればよいのでしょうか?


5. 解決のアイディア

創作活動と対人攻撃をルールで区別しようとするのは、筋が悪いように思います。

筋論でいうならば、誰かの行為により、誰かが嫌な思いをしたら、その人には裁判に訴える権利があります。
勝てるかどうかは別ですが、訴える権利はある。
発信者が匿名であっても、実名であっても。
それが例えば名誉毀損にあたるかどうかは、裁判所が判断します。


しかし、現状はどうでしょうか?

プラットフォーマーは免責されています。
発信者を特定するには時間がかかり、多くの場合、被害者は泣き寝入りするしかありません。

まさに、それこそが是正すべきポイントなのだと思います。


ユーザーに匿名性を提供して収益を得ているのはだれか?
プラットフォーマーです。
ならばプラットフォーマーに、責任を負わせるべきです。


オールドメディアでは、それが当たり前でした。
匿名の投書をノーチェックで記事に載せるなんて、許されません。
訴えられたら、責任はメディアにあります。


プラットフォーマーは、我々はメディアとは違う、自由な言論の場を提供しているだけだ、と主張するでしょう。
しかし、そんなことは知ったことではありません。
誹謗中傷や脅迫は犯罪です。
そしてプラットフォーマーは犯罪を助長する場を提供して、儲けているのです。
何の責任もないはずがない。


我々社会が毅然としてこの筋論を押し通したら、どうなるでしょうか?

プラットフォーマーは何か改善施策を打つでしょう。
とはいっても、オールドメディアと同じようにすべてのコンテンツをチェックして自ら責任を負うのは無理です。
そうすると、ユーザー契約で「訴えられた場合は発信者情報を開示し、発信者に転嫁する」と明記するかもしれません。

いずれにしてもネット上の「卑怯」な行為は劇的に抑制されるはずです。


甘いでしょうか?


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