私は「AIでフリーランスが消えた」の数字を一次ソースまで追いかけ、確認できなかった
※この記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。
9月1日、日本経済新聞が「フリーランスから正社員へ、AI台頭で回帰の動き 企業も積極採用」という記事を出した。SNSでこの見出しを引用した投稿がよく流れてくる。
正直に書くと、私はこの記事を読めていない。有料会員限定で、見出しとリードしか見れていない。中身を読んだふりをして語るのは一番やってはいけないことなので、そこは先に断っておく。
ただ、私は中小企業にAI導入を提案する側であり、同時に外注を使う発注側でもある。見出しだけで「フリーランス終わった」と結論づけるのは危ないと思ったので、SNSで一緒に回っている数字を確かめに行った。
見出しと一緒に回っている数字、確認してみた
拡散されている投稿には、だいたい次のような数字がセットで付いている。ひとつずつ裏を取った結果がこれだ。
「転職仲介件数がリクルートエージェント2.8倍・doda2.7倍(5年前比)」→ ITmediaの2026年5月11日の記事に記述はあるが、両社の公式発表への導線がなく、件数か人数かも含めて一次ソースでは確認できなかった
「2026年3月時点で案件に対し人材が3倍余っている」→ 出所は個人ブログで、根拠は人材紹介会社の担当者への単発ヒアリング。統計調査ではなく、一次ソースとしては確認できなかった
「ミドル層以下の単価が月5〜10万円下落」「生成AI関連案件は他職種より月10〜20万円高い」→ 一次ソースを見つけられなかった
「年収が200万円下がっても社会保険を考えれば実質同等」→ これも一次ソースを見つけられなかった
見つからなかったものは「見つからなかった」と書く。これが今回いちばん時間を使った部分で、たぶんこの記事の一番の価値でもある。
裏が取れた数字、実は「下がった」じゃなく「差」だった
裏取りできた数字はひとつだけある。フリーランス協会の「フリーランス白書2026」によると、副業を含めた国内フリーランス人口は1,303万人。ファインディ社の調査(2026年1月23〜30日実施、Findy Freelance登録者265名が対象)では、フリーランスエンジニアの平均月単価は約80万円、時間単価5,319円。同じ調査で、コード生成AIの活用度によって月単価に約10万円の差があった。
ここは取り違えやすいので書いておく。この10万円は「時系列で単価が下がった」数字ではなく、「今の時点でAIを使う人と使わない人の間にある差」の数字だ。SNSでは「下落」の文脈で引用されがちだが、調査の中身は「差」の話でしかない。
数字の確からしさがここまでしか分からなかった以上、残るのは自分の手元で実際に起きたことだけだ。
私が外注をやめた仕事に共通していたこと
ここ1年で私が外注から離した仕事を並べてみたら、共通点があった。仕様書に全部書ける仕事だった。
原稿の構成、決まったフォーマットのバナー、テンプレート化された議事録整理。指示が完全に言語化できる仕事は、私の手元では渡す相手が人からAIに変わっただけで、外注を使わなくなった。同じことがどこでも起きているとまでは言えない。
逆に外注し続けている仕事には別の共通点がある。前提の共有、現場の判断、結果への責任——ここだけは、AIに指示を出す形にどう分解しても渡しきれない。
消えたのは職種じゃなく「発注しやすさ」
ここまでを合わせると、見えてくる線引きは職種ではない。オンラインで完結して、仕様書1枚で渡せる仕事ほど先に置き換わっている。それだけだ。ライターだから、エンジニアだから、デザイナーだからという括りでは説明がつかない。同じ職種の中でも、仕様書1枚で渡せる部分と渡せない部分が両方存在していて、前者から静かに消えている。
発注される側がやれること
単価表をやめて「これをやっていくら」のパッケージに変える。時間や工程を切り売りすると、その工程だけAIに取られる。
クライアントが言語化できていない前提を聞き出す仕事も、丸ごと引き受けてしまう。仕様書を書く側に回れば、AIに投げる前提そのものを作る仕事になる。「バナーをいくつか作ります」ではなく「この訴求で当たるかを一緒に決めます」まで踏み込めば、売っているのは成果物ではなく判断になる。
発注する側は、切る前に1枚書いてみるといい
外注を切ろうとしている経営者に伝えたいのはひとつだけ。その仕事、本当に仕様書1枚で書けるか、実際に書いてみてほしい。
書き始めて手が止まる箇所があれば、そこがまだ人に頼るべき部分だ。逆にすらすら書けてしまったなら、その仕事はもう外注である必要がない。判断はニュースの見出しではなく、自分の手で書いた仕様書1枚が教えてくれる。
肩書きより、仕事の渡し方の話
正社員に戻ること自体は否定しない。安定を選ぶのは合理的な判断だ。ただ、この現象を「フリーランス受難」という肩書きの話で片づけると、対策を間違える。問われているのは仕事の渡し方で、渡す相手を選ぶ側も選ばれる側も、次にやることは同じ。目の前の仕事を1枚の仕様書に書き起こしてみることから始まる。
同じ日に、AIエージェントを何本まで同時に回せるかを実測した記事も書いた。渡す相手がAIになったとき、今度は何が詰まるのかという話。
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