少女漫画が苦手な私が、それでも読み続けている理由 │ショートケーキケーキ(森下suu)
こんにちは。Amelie(アメリー)です。
今回は、「私の人生を変えた作品」ではなく、「印象に残っている作品」として、ひとつの漫画を紹介いたします。
これまで紹介してきた作品は、自分の価値観や生き方に大きな影響を与えてくれたものでしたが、今回、取り上げる作品は、少し立ち位置が異なります。
大きく何かを変えたわけではない。
けれど、気づいたら、ずっと心の中に残っている。
そんな作品もまた、自分にとっては大切な存在なのだと思います。
今回、紹介するのは、森下suuさんの『ショートケーキケーキ』です。
『日々蝶々』や、現在連載中の『ゆびさきと恋々』についても、少し触れながら書いていきます。
▼「私の人生を変えた作品」シリーズ
わたしが思う、森下suuさんの漫画とは
私は、少女漫画はあまり読みません。
恋愛にもあまり興味が無く、ラブソングにも共感できないタイプです。
そんな私でも、なぜか自然と読み続けてしまう作品があります。
森下suuさんの漫画です。
森下suuさんの漫画は、私の人生を大きく変えた作品ではありません。
でも、気づいたら、心の中にずっと残っている作品です。
強く心を揺さぶられたわけでもなく、
何か大きな価値観が変わったわけでもない。
それでも、ふとした瞬間に思い出したり、
もう一度読み返したくなったりする。
読み終えた後に残る余韻と、過去の景色が結びついて、静かに、自分の中に在り続けている。
森下suuさんの漫画は、心をぎゅっと掴まれる作品というより、気づかないうちに、心に在り続ける作品だと思っています。
森下suuさんは漫画家ユニットで、原作担当のマキロさんと、作画担当のなちやんさんのお二人で作品を作られています。
現在、連載中の『ゆびさきと恋々』は、2024年にアニメ化もされおり、各種漫画アプリなどでも読めます。『ゆびさきと恋々』にも、森下suuさんの作品に共通する「静かで澄んだ世界」が広がっています。
女子大生の雪は、ある日困っているところを同じ大学の先輩・逸臣に助けてもらう。聴覚障がいがあって耳が聴こえない雪にも動じることなく、自然に接してくれる逸臣。自分に新しい世界を感じさせてくれる逸臣のことを雪は次第に意識し始めて…!?
森下suuさんの漫画との出会い
森下suuさんの漫画との出会いは、本屋で見かけた『日々蝶々』でした。
他の本を買うために寄った本屋で、レジに向かうときに偶然、目に留まった一冊でした。
水彩画のような柔らかい色合いと、あたたかみのあるタッチのイラストに惹かれて、内容もよく知らないままに、手に取ったのを覚えています。
『日々蝶々』は、すいれんと川澄君の初々しい恋愛模様が微笑ましいです。
学校一の美少女・すいれんが気になるのは硬派な空手男子・川澄。お互い気になるけどお互い異性が苦手な2人。純粋すぎて恋心にもまだ気づけない。ひらり、ふわりの恋物語がはじまります。
普段、少女漫画はあまり読みません。漫画自体は好きでよく読んでいましたが、少年漫画や青年漫画が中心で、いわゆる「キラキラした恋愛」が前面に出ている作品は、少し苦手です。
恋愛そのものにもあまり関心が無く、音楽に関しても、ラブソングに共感したり、感情移入することがありません。
そんな私でも、森下suuさんの漫画は不思議と、自然に読み進めることができました。
どうして、森下suuさんの作品は、こんなにも自然に読み続けられるのか。
読み進めるうちに、少しずつ理由が見えてきました。
森下suuさんの漫画に惹かれる理由
ここからは、『ショートケーキケーキ』を中心に、私が森下suuさんの漫画に惹かれる理由を4つ、挙げていきます。
①恋愛ではなく、「人」を描いている
森下suuさんの作品は恋愛漫画でありながら、恋愛模様を見ている感覚が前面に出てきていません。
誰かを好きになることや、相手との関係が進展していくことよりも、その人がどういう人なのか、どんな価値観を持っていて、どう人と関わっていくのか。
そういった、人としての在り方に、意識が向く描かれ方をしているように感じています。
恋愛を軸にしながらも、作品の中で描かれているのは、もっと広い意味での人と人との関係性です。
だから、恋愛にあまり関心がない私でも、ストーリーを自然な流れとして受け取ることができたのだと思います。
恋愛を描いているのに、恋愛に縛られていない。
そこに、森下suuさんの漫画の大きな魅力を感じました。
▼△ 『ショートケーキケーキ』で、最初に気になったシーン △▼
1巻の終盤で、主人公の天たちが河原で鈴と出会い、鈴と分かれた後、天が石を積みながら回想するシーンです。
そこに描かれているのは、何か大きな出来事ではなく、「あの人は 何を 願ったんだろう」と、天が鈴の内面に想いを馳せる静かな時間と景色です。
目の前にある事実をなぞるのではなく、その奥にあるものを想像しようとする視点。
そういった、主人公が他者への理解を深めていく過程の切り取り方や、視点に惹きこまれたのを覚えています。
人は、自分のことを理解してほしいと思いながらも、逆に、他者のことをどれだけ理解しようとしているのだろうな。
天の視点を通して、そんなことを改めて考えるきっかけにもなったシーンでもあります。
②性愛ではなく、「人間愛」に近い感情
森下suuさんの作品に描かれている感情は、いわゆる恋愛感情というよりも、もっと静かで、柔らかいもののように感じます。
相手を強く求めるというよりも、その人のことを大切に思う気持ちや、「ただ、そばにいたい」と思う願いにも似た感情。
それらは、性愛というよりも、人間愛に近い感情なのではないかと思いました。
ストーリー展開上、少女漫画ならではの要素やイベントもあります。
しかし、そこには感情や価値観の押し付けをあまり感じず、過剰な演出によるキャラクターの感情変化を起点にしていない印象を受けます。
森下suuさんの作品は、日常の中にある心の揺れを丁寧に描いています。
人は分かり合えない前提の中で、それでも分かろうとする。その過程を、静かに描き続けています。
前回紹介した日本橋ヨヲコさんの作品が、極限の中の " 生 " ならば、森下suuさんの作品は、日常の中の " 生 " です。
強く生きることではなく、静かに生き続けることを描いている。
森下suuさんの作品に描かれているのは物語というよりも、人と人の間にある " 空気 " や " 温度 " のようなものだと思います。
少女漫画が苦手な私でも自然と読める理由は、そこにあるのかもしれません。
誰かを好きになる物語ではなく、
誰かを大切にする物語。
そう捉えたときに、物語の見え方が大きく変わります。
③重いテーマが、物語の土台にある
『ショートケーキケーキ』は、恋愛を描いた作品ではありますが、物語の軸になっているのは、それだけではありません。
人間関係や家族愛、居場所の問題など、それぞれの登場人物が抱えている背景が物語の土台として、しっかりと存在しています。
その土台があるからこそ、恋愛のやり取りだけで物語が進むのではなく、人物そのものに焦点が当たります。
その人がどんな環境で育ち、どんな感情を抱えてきたのか。
そういった部分が丁寧に描かれていることで、恋愛物語ではなく、その人自身に感情移入することができます。
恋愛の行く末ではなく、その人の背景に感情が向く。
それが、この作品の読みやすさにも繋がっているのだと思います。
④自分の記憶と重なる作品
森下suuさんの作品には、どこか懐かしさを感じる瞬間があります。
『ショートケーキケーキ』の背景や漂う空気感から、自分の故郷の景色を思い出しました。
作者の方が同じ九州出身ということもあり、作中に流れている空気や時間の流れ方に、懐かしさや親近感を抱きました。
「私の地元も、終バスは17時半くらいだったな」とか、長閑な自然の風景や友人と過ごす時間や場所の使い方など、共通点があるから親近感が湧き、自然と読み進めることができたのでしょう。
作品を読んでいるはずなのに、ふと、自分の記憶を辿っているような感覚になります。
それは、物語の中に入り込むというよりも、物語をきっかけに、自分の中にある記憶や感情を再生して、心の形を確かめているような感覚でした。
森下suuさんの漫画は紙面全体から、質感や温度を感じ取っているような感覚があります。
『日々蝶々』の1巻を読み進めていたときは、冷たく澄んだ水の世界を静かに浮遊しているような感覚になりました。
すいれんと川澄君の二人の持つ雰囲気や、たまにある二人の会話がぽつぽつと繰り広げられることで、二人から生み出される点と点が、冷たく澄んだ水の世界に浮かんでいくような穏やかな時間の流れを感じます。
背景などの細部の表現も含めて、森下suuさんの作品に惹かれているのだと思います。
▼△ 『ショートケーキケーキ』で、個人的に好きなポイント △▼
ストーリーとは直接関係ない部分でも、印象に残っているものがあります。
①背景や服の中に、さりげなく描かれている模様 ▽▲▽▲
特に、主人公の天ちゃんの背景や服に描かれていた、「三角形」が印象に残っています。
私は図形の中では、三角形が好きなのですが、柔らかいタッチで描かれたさまざまな三角形の質感や配置が、作品の空気感とも合っていて好きなんです。
②雨の日の描写
森下suuさんの作品では、雨の日のシーンがよく出てきます。
『ショートケーキケーキ』だけでなく、『日々蝶々』や短編集『まだ天の川にはいけない』に収録されている「10年の雨」も、雨のシーンの印象が残っています。『ゆびさきと恋々』だと、雪ですね。
雨が落ちていく軌跡の線や雨粒、水たまりの表現が好きなんです。
また、雨の日に描かれるシーンは、キャラクターの心象風景とリンクしていて、その心情変化や気分のメロディーラインが、物語にさらに質感や温度をもたらしています。
キャラクターの対比と人の成長
『ショートケーキケーキ』の中で印象的なのが、鈴と理久という二人のキャラクターの対比です。
私が、『ショートケーキケーキ』の中で、一番思い入れがあるキャラクターは鈴です。
鈴の人となりの深い部分は、物語の終盤になるまで分からないので、そこに至るまでのシーンで、鈴に対してあまり良い印象を持たない人も多いのではないかと思います。
実際、表面的な振る舞いだけを見れば、そう感じてしまうのも自然な描かれ方をしています。
ただ、物語を読み進めていくと、鈴の言動には、至るところにサインが出ていることが分かります。ある意味、分かりやすいキャラクターでもありますが、根っこの部分は分からない感じになっています。
それに対して、理久というキャラクターは、敢えて人となりが分かりにくく描かれているように感じます。
この二人の描き方のバランスが、印象的でもあります。
「この人はどういう背景を持っているのだろう」
「なぜこのような言動をするのだろう」と、
二人の間には何があるのだろう、それぞれの裏側には何があるのだろうかと思いを巡らせながら、自然と物語を読み進めてしまいます。
そして、この作品を読んでいて強く感じたのは、人が人として大きく成長するためには、「子供の頃に形成された認識を、自分で覆せるかどうか」がひとつの鍵になるのではないか、ということです。
『ショートケーキケーキ』では、家族関係を背景とした問題や幼い頃に受け取った価値観が、そのまま内面に残り続けている様子が描かれています。
子供の頃は、持っている視点も少なく、視野も狭い。
当然、物事を捉える視座も低いです。
その中で形成された認識は、時にトラウマと結びつきながら、その人の人格の深い部分に定着していく。
成長して大人になってからも浸食されないように、過去の出来事を客観的に捉え直し、必要であればその認識を自らの手でひっくり返すことが必要となります。
自分という人格の深いところに定着してしまった認識を覆すことは、簡単なことではありません。
キャラクターたちは物語が進んで行く中で、それぞれが自分と向き合い、自分の中にある弱さを認めて、周りの人の力を借りながら、それぞれの課題を乗り越えていきます。
その過程を通して、人が変わるとはどういうことなのか、成長とは何を指すのかを、静かに問いかけられているように感じました。
また、この作品を通して、特定の背景や経験を持った人は、ある種似たような方向に収束していくのかもしれない、ということも考えさせられました。
いわゆる、「アダルトチルドレン」と呼ばれるような概念とも重なる部分がありつつ、それだけでは語れない部分もあります。
そういった視点から、自分自身の過去を振り返り、改めて客観的に自分の特性や認識を分析するきっかけとなった作品でもあります。
人は、自分一人の認識だけで、自分のことを正しく判断できません。
自分の認識が正しいのか、それとも歪んでいるのか。
それを、自分一人で判断することは難しい。
そのため、視点を変え、視野を広げ、視座を上げながら、自分の認識は正しいのかと、何度も繰り返し、考え続ける必要があります。
そうすることで、子供の頃には見えなかったものが、ある年代や立場では見えなかったものが、少しずつ見えてくるようになります。
そうやって、人は多角的な思考を身に着けていくのだと、この作品を通して、改めて感じました。
『ショートケーキケーキ』を読んでいる時間は、物語を読むというよりも、自分の内面を見つめ直す時間に近いものだったのかもしれません。
あとがき
本日は、印象に残っている作品として、森下suuさんの『ショートケーキケーキ』を紹介させていただきました。
大きく何かを変えたわけではないけれど、気づいたら、心の中にずっと残っている。そういう作品が人生の中に存在することも、とても大切なことだと思っています。
森下suuさんの漫画が、まだ知らない誰かの心のにも静かに残る作品になれば嬉しいです。
もし、少しでも気になった方がいらっしゃいましたら、まずは一冊、手にとってみてください。
前回の更新から期間が空いてしまいましたが、「noteを始めた理由:私の生きる道」にも書いております通り、これからもわたしの人生の中で出会ってきた作品の魅力を伝えていきたいなと思っております。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。
またお会いしましょう。
一番思い入れがあるシーン ※有料エリアにネタバレを含みます
※この先は、『ショートケーキケーキ』の中で、一番心が揺れた場面について書いています。物語の核となる部分に触れていますので、未読の方はご注意ください。
有料エリアでは、なぜこのシーンに強く惹かれたのかを、少し個人的な視点で掘り下げています。
ご興味のある方だけ、お読みいただければと思います。
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