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「THE GUILTY / ギルティ」を観たかめちゃん 〜試される想像力 気づかざる共犯化の恐怖〜【感想】

どうも、かめちゃんと申します🐢
絶賛風邪引き中の僕です。

最近よくやってる映画感想noteです。
今回観た映画は「THE GUILTY / ギルティー」です。ブラナー版の名探偵ポアロシリーズは一旦観終えたのでね。

そこまで長くないかな、と思いますが
ネタバレにはご注意を⚠️

過去の映画感想などはこちら


概要

本作は2019年公開のデンマークの作品で、スリラー映画というジャンルだそう。
ホラーとかサスペンスとも近いですが、観客の緊張や不安を煽るような作品群のことらしいですね。

上映時間は85分とそこまで長くありません。
アカデミー賞外国語映画賞のデンマーク代表作品だったりして、一定の評価を得ているとのこと。
ハリウッドでもリメイクされているらしい。

僕が今回この作品を観たのは、YouTubeでAmazonプライムで観れる作品としてオススメされていたからで、特段の理由はなかったので、今回は声優さん狙いとかではないことは一応お伝えしておきます!一応ね!


本作は「緊急通報司令室」という、警察の電話での通報を受ける機関のみで展開される映画です。日本語版のHPのキャッチコピーはこれ。

事件解決のカギは電話の声だけ。
88分、試されるのはあなたの<想像力>

主人公アスガーはこの機関のオペレーターであり、電話の音声情報を主としながら事件解決を探っていく役回りです。
電話の基地局や警察の持っている情報を照会することはできますが、詳細な位置がわかるわけでもなく、やはり音声が中心となります。

本作は誘拐事件に巻き込まれた女性 イーベンからの通報がストーリーの中核を担います。
アスガーは取り乱す彼女をなだめながら、女性の声や車の発信音などの周囲の状況を頼りに事件の解決に奔走します。
怯えるイーベンの子 マチルデとオリバー、イーベンと口論をしていたという夫 ミケルなど、彼女の家族を取り巻く事件にアスガーもまた巻き込まれていくのです。

アスガー自身は、現場に駆けつけることができません。そのため、当該地域の所管警察などに働きかけるわけですが、情報の少ない段階ではアスガーは待つしかなく、やるせなさを抱えます。
彼は旧知の仲であるラシッドに個人的な頼みとして動いてもらうなどして、独自の判断で事件解決の糸口を探っていく...というストーリーになります。


誘拐事件が本作の表軸であるならば、裏軸はアスガー自身の物語です。
アスガーは元々刑事であったようですが、何らの事情でこの部署でのオペレーターを務めることになったようです。
ラシッドは刑事時代の相棒で、彼の協力もありながらいよいよ刑事復帰が見えてきた、というのが本作の時系列的立ち位置になります。

最終盤までこのアスガーの物語は明らかにはならないものの、少しずつ見えてくる部分もあり、それが彼自身のパーソナリティをうかがう糸口にもなっていましたね。


さて、この作品の概要をまとめてみましたが、これだけを見ると「Armchair Detective」(安楽椅子探偵)的な作品かな?と思う方もいらっしゃるかもしれません。
※Armchair Detective:現場に赴くなどして自ら能動的に情報を収集することはせずに、室内にいたままで、与えられた情報のみを頼りに事件を推理する探偵のこと。

もちろん、そうしたエッセンスは感じられるのですが、本作はミステリではなくスリラー映画。解決に奔走する中で明らかになっていく事件の全貌に触れていくことで、我々は真にこの作品の恐怖を知ることになります。


ネタバレなし感想

まずは本作のネタバレなし感想から。

本作は場所が固定されており、登場人物の動きも少ないため、映画としての派手さはないと言えます。
電話相手の容姿や現場の空気感すら"見えない"ため、視聴者の我々もアスガーと同じような視界を共有できる作品構造となっていました。

視覚情報に頼らない映画、という意味では手頃かもしれません。一方で音声情報は本作において非常に重要です。ストーリーを考えるとそこを聞き逃すわけにはいかないという緊張感があります。アスガーの仕事がそうした聴こえる情報をフルに活用するものだからこそ、視聴者も声に注目する必要があるのです。

途中まで、この作品は映画じゃなくてもいいのではないか?と思っていました。それこそ声優さんの朗読劇とかみたいな場で聴きたいなぁとも。
ただ、本作の最後まで見終わるとその意見は一変します。これは朗読劇ではダメだ。

なぜダメか。
徹底的に"見えてはいけない"んです。
少なくても僕の知り得る朗読劇のスタイルでは、電話相手の演者さんが、その身振り手振りが見えてしまう。
本作はアスガーの視点だけに徹底してフォーカスすることで、ある意味目隠しをして没入させるような仕組みになっていたように思います。

映画も進行につれて、部屋を移動するなどの環境的変化なども活用しながら、カメラワークなどで視覚的な情報量が制限される見せ方をしています。
引き算の美学が徹底的に生かされた作品であると言えるでしょう。


我々は日々、数多くの事象に対して判断を行なっています。情報は多ければ多いほど事象を立体化させてくれますが、そうした情報を集めるのには手間がかかりますし、本作のような一刻を争う状況では難しいというデメリットがあります。
対して、情報少ない状況であれば、そこを推論で補う必要があります。推論を立てるにあたっては経験則に基づく判断を用いて、正確無比ではないものの、一定の精度と時間的な簡略化を行っているわけですね。
こうした思考の手法を心理学の分野では「heuristic(ヒューリスティック)」と言います。

ちょっと小難しいことを書いたので、日常に置き換えて説明します。
あなたが旅行先でお土産を1つ買おうとしていたとします。片方は残り1個、もう片方はたくさん積まれているという状況です。ともに1個1000円。あなたならどちらを買うでしょうか。

Geminiで作成

...まぁ、この情報量だけだとまぁ何とも言えないかもしれませんが。笑
この状況でAを手に取るという方は、おそらく「Aの方が人気なのだろう」という推測を経験からなのかもしれません。それがまさにヒューリスティック判断を行っているということです。
ラーメン屋さんで並んでいるお店だから人気だろう、と推測するのもそうです。

でも、Bの方が人気であるという売上データがあったらばどうでしょうか。
そういう情報があれば判断は変わるはずですが、その判断のための情報を取り入れるのはAを手に取る行動より時間がかかるはずです。

だから人はヒューリスティックに基づき、簡便に、時間的コストをかけないように判断を行います。人生は大小あれど判断の連続なのですから、なんらおかしいことではありません。いわば思考の「近道」なわけです。

ただしその思考は、バイアスを含んでいる可能性を否定できません。
だから正確な判断を行うためにはできる限り情報を精査しながら集めることが求められるのです。


なぜ急にこんな話をしたのか。
それはやはり本作がそのヒューリスティック的判断を誘発する状況であるからです。
その中でこの仕事をすることがいかに難しいか。

僕の仕事は警察ではないのでまるきり同じ状況に立つことはないのですが、
片方の話を聞いて状況を見立てること自体は多々あります。
でも実際に現場で状況を確認するとそうではないという経験は少なからずあるわけです。
だからこそ、視野を広げることや1人で抱えないことが大事なのだなと改めて感じます。

他方で、主観は非常に大切です。その人にしかない感性のフィルターは尊重されるべきでもあると思っています。
客観的事実に基づくことばかりが美徳ではなく、その人の文脈においての主観的事実は時に鮮やかです。

本作はそうした主観と客観という視点が重要であると僕は感じました。
状況によってそれらをメタ的に捉えて、どちらを重視するのか、どちらかに偏っていないかなどを見つめ直すことがいかに重要かを痛感させられた作品でした。

...さて、ここまでも沢山感想を連ねてきましたが、本作についてはやはりネタバレなしで書くことの限界を感じます。
そのため、ここからはネタバレを含む感想を書いていきます。未視聴の方はぜひ映画を観た後で、はたまた「さいごに」まで飛ばして読んで頂ければと思います!




⚠️ネタバレ感想⚠️

さて、ここからネタバレ有りの感想です。
良いですね?

さて、本作において、アスガーの判断は完全にミステイクでした。なぜそう言えるのか。


イーベンは純粋な被害者ではなかった。


彼女は我が子を悪意なく手にかけてしまった、まだ罪の認識もできていない殺人者でした。
そして、誘拐犯と思われたミケルはイーベンを助けるために、強引で荒いながらも、かつて彼女が入院していた精神病棟に送り届けようとしていたのでした。

アスガーは、電話口のイーベンを信じ、助けようと独断で暴走したのです。

彼の暴走は密室の机上で起こっています。
イーベンの息遣いなどから状況の深刻さを読み取るまでは良かったのですが、現場と連絡を取る中で自分で動けないことが冷静さを失わせ、視野を狭窄させていきました。

ミケルには前科があります。また、マチルデの証言でミケルが口論の末にイーベンを連れて出て行ったことが示されていました。

こうした情報に触れ、アスガーはミケルを「悪い男」として捉え、イーベンに逃げるためにレンガで彼を殴ることさえも指示しています。

そして、彼はその視野の狭窄故に、ミケルがマチルデに「オリバーの部屋に入るな」と注意をしていたことの意味を捉え違えました。
まだ6歳のマチルデは、無惨にも腹を切り裂かれていたオリバーに出会ってしまったのです。彼女がどこまでその死を認識できていたのかは作中では明示されていませんが、マチルデは発見時に多量の血で染まっていました。幼い少女にとって、こんなに酷いことはありません。

この作品のタイトル「THE GUILTY / ギルティ」は有罪という意味を持ちます。
当初はミケルの罪、という表層的な捉えをしていたアスガー(そして視聴者)でしたが、実は心神喪失状態のイーベンが犯した罪。そして彼女を、何より自分を過信したアスガー自身の罪。
本作はそうした罪の上に成り立つ作品だったと感じます。

誰の罪であったか、という点のどんでん返しの面では傑作という評価も納得できるもので、ミステリではないというジャンル分類も納得の作品でした。


そして、僕の罪も。
視聴者に提供された視点はアスガー自身とも言えるものなので、彼が陥ったヒューリスティックの落とし穴にまんまとハマってしまいました。
故に、イーベンを悲劇の被害者として認識し、ミケルを残虐な犯罪者、ちんたら動いているように見える警察組織、など事象をバイアスがかかったような捉えで見てしまっていたなと。

本作の冒頭で、アスガーはアクシデントを電話で解決していました。そして、イーベンのために動く正義漢である主人公の彼を、いつしか肯定的に捉えるようになっていました。
本作の構成演出の上手さであるとともに、ある意味での「共犯者」として僕自身にも罪を突きつけられたような気がしたのです。

これ、個人でも起こりますが集団だとより怖いですよ。
「集団極性化」と言われたりもしますが、人は集団になると過度にリスキーな方向にシフトしてしまうこともあります。
今や大SNS時代なわけですが、そのアルゴリズムの中では同じような意見が集まるようにできていると言います。
物事の一面的な情報からヒューリスティック的に価値判断を行い、そこに集まる同じような意見の集団の中で暴走し過激化していくこともあるでしょう。
ネットリテラシーの観点だけでなく、日常の中でも気に留めておかなければならないなと改めて感じるきっかけになりました。


そして、もう一つの罪。
それはアスガー自身の物語。

元々現場で働いていたアスガーが何故オペレーターをしているのか。
作品序盤から「復帰」が匂わされており、何らかの事情で左遷ないし謹慎的な立ち位置にいることが仄めかされています。

彼は職務において不必要に人を殺めていました。相方であるラシッドに正当防衛を偽証させることで、現場復帰をしようとしていたと。

彼は本作の事件に向き合う中で、ミケルを殺人/誘拐犯として罵り、イーベンに不必要な罪(暴行)を教唆し、無垢なマチルデに酷い現場の当事者という傷を負わせてしまいました。
彼は自らが犯した過ちに直面し、自らの過去の罪にも向き合うことになります。ラシッドには正直に話しても良いと言い、"赦されない"道を選ぼうともしていました。

アスガーは事件を通して、イーベンに自分を重ねていたのではないかと思います。

物語の最終盤、イーベンは自らの過ちを認識し、自殺を図ろうとします。
アスガーは彼女を諭すのですが、彼女に寄り添おうとする一心で彼は自らの罪を自白することとなります。
結果としてイーベンは自殺せずに保護されることとなりました。彼女は生きることを通して自らの罪と向き合い、そして彼女の残された家族と向き合うための救いとなったわけですね。

こうしたことを踏まえて、本作は罪の所在を問うだけではなく、罪を認めるという行為を描いたものであると考えます。
デンマークにおける主たる宗教がキリスト教であることも踏まえると、この行為を宗教的枠組みで捉えられそうな気もしますが、自分にそのあたりの素養がないので専門の方に任せます。

僕は本作から、そうした罪を認め向き合うことを、通して救いに繋がる方向転換のためのイニシエーション的側面として描いた作品であったなという感想を抱きました。
それを宗教性と言うのかもしれませんが、善行も悪行も含めて自分の行いを見つめて内省するということは人間にとって非常に重要なプロセスであると思います。
神の存在の解釈は人によりますが、確実に自己は存在しているわけで。その自己をありのままに捉えることについて考えさせられる作品でもありました。




さいごに

本作は限られた舞台設定の中で、大きく動くことこそないものの、脚本と構成・演出で魅せられる作品になっていたなと思うものでした。

ちょっと鼻詰まりでやる気が出ないから観た作品でしたが、気づけば深夜までこんな感想を綴るくらいには良かったなぁと感じるものだったので、時間があれば観てもらえれば嬉しいです。

Amazonプライムって作品数少ないけど、こうやって良い作品にも出会えるのでまだまだ活用していきたいと思います。
良い作品があれば教えてください〜

それでは!

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