【長編小説】オーバーライド 第 5 話
《YouTuber 岡山》
YouTuberの岡山は『おかチャンネル』の生配信中だった。
画面には、次々と入室したことを知らせるコメントが流れていた。
「みんな、密室で可決されたAI法案のことはもう知ってると思うけど、どう思う?俺はありだと思うんだよね。
この間のデモオッサンは、AI法案を通すより、その税金をもっと有意義にって言ってたけどさ。
いいじゃん。税金で議員が私腹を肥やすばっかりだと腹立つけど、こうやって国民の為に使ってくれるんだからさ。
どうせ、デモやっても大した効果ないだろうなって思ってたんだよな。
そしたら案の定じゃん。
テレビじゃ家政婦の代わりになるっていうし、人間のために作られてるって言ってるだろう。
人間のために動くだけのAIなら、あったほうが絶対に便利!
やって欲しいことは何でもしてくれるんだし。
それに、一般市民に買えるようなもんじゃねぇだろ?
それをくれるって、太っ腹だと思わねぇか?
なんでそれを国民に配ろうと思ったのか分かんないけどさ。
しかも、男には女、女には男のAIって、どんな意味があるんだろうな?
でも、どんな意味があってもいいけどさ、どうせなら超美人AIがいいよな。
そうしたら、俺の人生パラダイス決定じゃん。
ん? おー、おー。コメントがどんどん入ってるねぇ。
えーっと、『この間からテレビではいいことばっかり言ってる』って?
ああ、知ってる知ってる。でも、それが本当ならいいんじゃねぇの?
『SNSのコメントがどんどん削除されてる』
確かにねぇ、削除されてるよね。
削除してる奴って、よっぽど暇なんだろうな。
『政府が削除してるんじゃないか』って?
あはは、まさか政府がそこまで暇だとは思わないよ。
でもまぁ、誰がやってるにしてもあれはないよな。
言論の自由ってのがなくなるわけだからさ。
『AIが故障したらどうなるんだ?』
AIが故障したら、政府が無償で直すって話だよな。
勝手に送りつけてくるんだからさ、直してくれないとそのままになるよな。
そうなると、ゴミ決定だから、直すでしょ。
『おかちゃんは、AIが来たらどうやって使うの?』
そりゃあ、まずは家政婦として料理作ってもらうよなぁ。
ロボットなんだから、動画編集なんてパパッと出来そうじゃん?
連れて歩けばカメラ代わりにもなる。なんでもできそうだよな。
『料理なんてできるのか?』
あははは、確かに。味覚がないのに、料理作っても濃すぎたりして。
でも、レシピ通りに作るのはOKなんじゃないの?」
岡山はひたすらしゃべり続けた。次々に入ってくるコメントを読み上げ、笑いを交えるそのしゃべりは、政府の政策を肯定することばかりで、AIが来ればと、夢物語を語り続けていた。
「なになに?
『デモのことが一切報道されないのはどうして?』
どうしてとか、俺に聞かれても分かんないって。
誰かが止めてるのかもしれないってのは、さっき言っただろ。
政府に都合が悪いから消されてるとか。
あー、こんなこと言うと、チャンネルBAN食らうかもだよ。
ダメダメ、そういうこと言わせないでよ。
このチャンネルが消えたら、俺が一番困っちゃうからさ。
でも、デモってそれなりに国民の声として、ちゃんと届いてるはずだからさ。
やりたい人はやればいいんじゃね。
俺はいかないけどね。
真夏のあっついなかで、汗かきながらなんていやだよ。
文句があるなら、動画とかSNSでやればいいのにさ。
世論を動かしたいと思うならね。
ということで、これ以上この話はしないよ。
だから言ってるだろう、俺はBAN食らいたくないんだよ。
平和主義なの。
俺のチャンネル見てるってことは、お前らだって平和主義だろ?」
笑う岡山は、そう言って最後の決まり文句を口にすると、配信を終えたのだった。
「おつかれ」
カメラを止めると、岡山は疲れたような表情を浮かべ、仲間を見た。
「SNSが消されてるのなんて、政府が潰してるに決まってんじゃねぇか!
俺のチャンネルまでBAN食らってたまるかよ」
岡山が吐き捨てるように口を開くと、仲間たちはみな『そうだよな』と笑って頷いた。そんな彼らは、AIが自分たちにどんな日常をもたらすのか、思い至ることはなく楽しい未来だけを想像しながら帰って行った。
誰もいなくなったその部屋で、岡山は棚にしまわれたカップ麺を手にした。
「AIが届いたら、一番先にカップ麺の作り方を教えるかな……」
鼻歌交じりに口にした岡山は、沸かした湯をカップに注いだ。すると熱い湯気が立ち上り蓋を閉める。
「なんでAI法案に反対するんだろうな。
人型AIが来れば、もう一人で飯を食うこともなくなるし、カップ麺を作るときに火傷することもなくなるっていうのに」
何度となく、湯を注ごうとして火傷した手の甲には、未だ消えない薄く焼けた跡がある。
「ドジだよなぁ、こんなところを火傷するとか。どうして俺って、こうどんくさいんだろう」
笑いはするものの、情けなさがこみあげてくる。
岡山は手をさすった。
「俺も彼女が欲しいなぁ」
つぶやくように口から漏らした岡山は、パソコンの前に座り、一つのファイルをクリックした。すると画面いっぱいに映ったのは、先日のデモの映像だ。そこには、タクシードライバーの田中が映っている。
「あのオッサン……あんなに暑いのに、一生懸命デモに参加しちゃって。
あのあと、大丈夫だったのかな……。
どんなに頑張っても、所詮は政府に勝てないっていうのに。
国民がなにをいったところで、どうなるもんでもないんだよ……」
誰に言うともなくつぶやき、ぼんやりと画面を見つめていた岡山は、キーボードに打ち込み始めた。
『AI法案反対! 税金削減!』
だが、数分とせずにそのコメントは消されていく。
岡山は、静かな苦笑を浮かべると、背もたれに勢いよく背を預けた。
「ほらな……」
自嘲気味なその声は、誰もいない部屋の壁に吸い込まれていった。
--------------------------------------------------------------------------------------
★毎日午前中に更新します。
※かめママブログ書庫入り口👇
※小説入り口👇
