【ホラー掌編】あし(妹視点)
※原作「あし」を妹視点にしてみました。👇
私には、足がない――。
私には兄がいる。
優しくて、明るくて、妹思いの兄。
その兄が、小学生の頃、両足を失った。
それでも兄は、いつも優しく、その笑顔が曇ることはなかった。
歩きたい、走りたいとは言うけど、どんなに言ってもどうなるものでもない。
分かっているから、きっと笑顔なのだろう。
走ることが好きだった兄。
その逆に、私は走ることが嫌い。
走るなんて、息が苦しくなるし、お腹が痛くなる。
どうしてそんな苦しいことをやらないといけないのか分からない。
だから、足のない兄が羨ましかった。
だって、誰にも文句を言われずに、走らないでいられるんだもの。
ある時、私が言った。
「お兄ちゃんはいいな。走らなくてもいいんだから」
兄の顔が曇った。
初めて見るその顔。幼い私には意味が分からなかった。
でも、その日を境に、兄の顔から笑顔がなくなった。
母はそんな私の言葉を聞き、怒っていた。
どうして怒られたのか分からない。
だって、私は思ったことを言っただけだから。
兄は中学生になった。
もちろん、制服を着て学校に行くわけじゃない。
学校に行かなくても怒られない。
いいな。いいな。いいな。
兄はよく私の足を見ている。
何も言わずに、じっと見つめている。
「なんでそんなに私の足を見るの?」
兄はうつろな目を上げて私に言った。
「学校に行きたくない?
走りたくない?
だったら、その足を僕にくれよ……」
そんなこと、出来るわけない。
私は、久しぶりの兄の冗談に大笑いした。
でも、兄は――。
その後も、兄の目線は私の足から離れなかった。
幾度となく、足をくれと呟く兄に、背筋に冷たいものが走る。
怖い。兄が、怖い。
ある夜、兄が決してつけない義足を履き、私の部屋にやってきた。
両親が眠り、猫でさえ夢の中。そんな静かな夜だ。
義足の兄は、不慣れな足でゆっくりと近づいてくる。
その目は、私の足だけを見つめていた。
「どうしたの?……」
部屋の空気が凍った気がした。
「足を、僕にくれよ」
兄の声が冷たく私をさした。
私には、足がない――。
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