俺は犬神~神様見習い、はじめました~②
!元記事を削除してしまったので、再投稿です。
どうしてこうもドジなんだよ……(´;ω;`)ウッ…
こちらで①から連続読みできますので、よかったらお越しください👇
作者:篠宮あおい
《あらすじ》
俺(ぽん太)は、14年家族と過ごし、静かにその生涯を終えた…はずだった。
静かに息を引き取る寸前、神様にスカウトされ、次に目覚めたのは、
排気ガスまみれの神社の前。
そして、なぜか“犬神様”として任命されることに!?
社は小さく今にも壊れそう、待遇はブラック、おまけに給料ゼロ――。
文句たらたらの俺だが、ある“力”を授かり、空へと舞い上がる。
不満と希望が入り混じる、犬神ぽん太の神様デビュー・前編!
第2話 犬神任命と空への旅立ち(前編)
長かったのか、一瞬だったのか―。
気がつくと俺は、今にも崩れそうな、古びた社(やしろ)の前に立っていた。
「ちっさ!」
思わず声が出るほど小さい。
生きていた頃に飼い主と行ったのは、もっと大きな、いかにも神社という感じのものだった。
それなのに、今目の前にあるのは、雑草こそ生えていないが、信じられない小ささだ。
そんな俺の声を聞いた神様が、憮然と口を開いた。
「お前のような下っ端が、立派な社に住めると思っていたのか?」
「住む?ここに住むっていうの?!…本気で言ってる?!」
「当然だ、神様だからな」
「いくら何でも、これは酷いを通り越して、酷すぎてるよ…。
しかも、空気がめちゃくちゃ悪いし。
犬が住むようなところじゃないよ。
だいたい犬は鼻がいいんだよ?地下にいるモグラの匂いだって分かるくらいなのに。
こんな排気ガスだらけじゃ、病気になっちゃうよ」
その通り、社はビルとビルのわずかな隙間に、押し込まれるように建っている。
その周りは、右も左も前も後ろも、ビル・ビル・ビル。
今まで住んでいた住宅地とは、まるで違う。
今までは一軒家が立ち並んで、ちょっと歩くと公園があって、あちこちに花が咲いてたんだ。今思えば、あれは天国だったのかもしれない。
それなのにここときたら、目の前には国道が走っている。
しかも目の前を通過する車はやたらと多くて、排気ガスどころか、音まで俺を殺しに来てる気がするくらいだ。
犬の俺としては、こんなにたくさんの車を一度に見たのは初めてなんだし、最悪としか思いようがない。
「よくこんなところに社、建てたよね」
「昔はもっとのどかだったのじゃ。
周りは田んぼや畑ばかりでなぁ、山があってトンボが飛んで…」
「それっていつの話?大昔?」
「かなり前だなw」
「俺、こんなところに住まないといけないの?
これって決まったことなの?」
「しつこいぞ、犬。
神様になったんだから、諦めろ」
「はぁ…俺の家の方が大きかったくらいだよ。
ウサギ小屋とか言ってたけど、よっぽど大きなウサギが住む家だったんだな。
神様なら、もっと豪華な生活かと思ったのに。
ねぇ、ソファーくらいはあるんだよね?」
「そんなものは自分で何とかしろ!」
「ええ~…」
ちなみに俺の家とは、犬小屋ではないけど、ウサギ小屋だった。
そこに人間が住んでいるんだから、ウサギってやつは、きっとものすごく大きいんだと思う。そんなに大きなウサギに会ったことはないけど。
「ここはな、都市開発で潰されるはずだった神社だ」
神様はそう言いながら、社の扉を開けもせず、スーッと通り過ぎていく。
それを見た俺も、神様に右にならえだ。
やってみると、案外簡単に社の中に入ることができた。
だが、入ってみると俺の体毛が総毛立った。
寒いわけでもないのに、なぜか毛が逆立ったのだ。
なんだろうとは思ったけど、俺は社の不気味さのせいだと自分に言い聞かせた。
何せ、墓があるわけじゃないし、社の中なんて特別過ぎて、入ったことがないのだから。
だから、気にしないことにして、俺は元気に神様に返事を返した。
「こんなに小さくても神社って名乗っちゃうんだぁ」
「うるさい犬だな、神様がいるんだから神社なんだよ!」
「神様がいたら神社なの?
だとすると、段ボールハウスでも、神様がいたら神社?
トイレも神社?
たまに落書きで『神降臨』とかって書いてあるけど」
「ああ、その通りだ。神様が鎮座すれば、それは神社だw」
「ねぇ、本気で言ってる?」
神様は咳ばらいをすると、話を続けた。
「だが、当時の神が潰すのを嫌がってなぁ。
それで工事の手を阻んだのだ」
「ああ、よくある奴だね。
取り壊そうとすると、事故が起こるみたいな。
呪いの大木とか、呪われた屋敷とか、そういう怖いやつw」
「犬のくせによく知っておるな。感心感心w」
「バカにしてるでしょ」
神様はまたしても咳払いをすると、話をそらした。
排気ガスに喉をやられたのかな?
「それでじゃ、お前はこの社の神として、人間の願いを叶えるわけじゃ」
「こんなところに人間が願い事をしに来るとは思えないんだけど。
来るとしたら、排気ガスで肺をやられたとか、騒音で耳が聞こえない人くらいでしょ?」
「ところがなぁ。この辺は、神社というのがないのだよw
だから、結構客が来る。もちろん肺を患ったものや、耳の病気もあるだろうがな」
「冗談のつもりだったのに…本当に来るのか、そんな病気の人」
神様のまさかの返答に、俺は驚いていた。
でも、それ以上に気になったのが「客」という言葉だ。
ということで、俺は「客」について聞いてみた。
「客なの?」
かなりドストレートな聞き方だったけど、この神様、こういう話は好きらしい。
「まぁ、こっちは無料奉仕だから、客というわけでもないが」
何とも、ニコニコと答えてくれるじゃないか。
「でも、お賽銭くれるよ。
あのお金って、誰が貰うの?
え…もしかして、神様は何ももらえない?
…え、え、えぇぇぇ!?
じゃぁ、何も買えないじゃないか!」
「当然じゃ、神様だからな。
わしだって、そんなもの、一度ももらったことはないぞ。
欲しいけどな」
「やっぱりブラックじゃん!」
「誰がホワイトだと言った?」
確かに聞いてない。
だが、これは酷すぎる。
働いて給料がもらえないなんて。
生きてた時、パパさんは、毎日のように会社に行って仕事して、少ないけど給料もらってたのに。だからご飯が食べられるんだ…ってママさんが言ってた。
神様の世界に労基署はないのか?!
だったら、神様集めて組合作って…あれ?...どうやって作るんだろう?
「まぁ、いいや。頭つかったら疲れちゃったし。
でさ、願いを叶えるって言うけど、どうやって?
俺には何の力もないけど?」
すると神様は、俺の頭を杖で叩いた。
「イテッ!」
思わず地面にひれ伏し、両手で頭を押さえたけど、なんで叩かれたのか分からない。
力がないのは本当のことだし、願いを叶えるのにどうやってかを聞くのも自然だろ?
それで殴られるとか、これは早くもセクハラ…じゃない、パワハラでしょ。
こんな時は、たとえ上司でも黙ってちゃダメだって、テレビが言ってた。
「何するんだよ、痛いだろ!
殴りどころが悪くて死んだらどうするんだよ!」
「そんなに痛くはないだろうw大げさな奴じゃ。
大体おまえはもう、死んでおるんじゃ。二度も死ぬことはないのだぞ?
安心しろw」
「そんなこと言われても嬉しくないよ!」
「よく文句を言う犬だなw」
「なんで殴るんだよ、理由がないなら、噛みつくからね!」
「お前に力を授けたんだ。文句はあるまい」
「…力?力って言うけど…」
俺は頭をさすりながら黙り込んだ。
今もまだジンジンと痛みが襲ってきているだけで、何も変わったような気がしない。
「…何も変わってないんだけど」
事実、俺に変化なんてものはない。
生きていた時と同じ感覚なのに、「力を授けた」と言われてもピンとこない。
いや、ピンとこないどころか『本当に、この神様って、頭いかれてんじゃないの?』と思ってしまう。
とはいっても、相手は神様。もし、本当に力をくれた…としたら?
どんな力なのか分からないけど、タダでもらえるなら、こんなラッキーなことないw
そんなことを思っていた時、神様は、勝ち誇ったように笑ってこう言った。
「ふふん…想像してみろ、犬」
「想像?何を?」
「例えば、空を飛ぶとかだなw」
「犬が空を飛ぶ?そんなバカなw」
あまりにありえない発想に、俺は大笑いしてしまったが、神様はいたって真面目。
それが証拠に、めちゃくちゃ怖い顔で、俺のことを睨んでいる。
ということで、神様に逆らって罰が当たっても損だと思い、俺は想像することにした。
それに、もし本当に飛ぶことが出来たら、これは嬉しいを通り越して、人類史上最大の奇跡じゃないか。
俺は目を閉じると、大きな翼で、誰よりも力強くはばたく姿を思い描いた。
真っ青な空を駆け巡る俺は、飛行機よりも早く飛んでいる。
雲を突き抜け、太陽の匂いを嗅ぎ、時折やってくる鳥と挨拶をする。
なんて気持ちがいいんだろう…。
ところが、想像したその時、俺の体がふわりと軽くなったのだ。
そして、まるで羽でも生えたように宙に浮いた。
俺は足元に目をやった。
すると足が地面から浮いてるじゃないか。
「わっ!わっ!わっ!なにこれ?!
俺の足、地面から浮いてるよ!」
しかも、背中に感じたことのない重さを感じる。
そこで俺は、首をひねって背中を見てみた。
すると、そこにあるのは想像通りの翼だった。
「つ、翼!翼が生えたの?!うそ!犬の背中に翼って、想像通りなんだけど?!
めちゃくちゃカッコいいじゃん!」
確かに、背中には大きな真っ白な翼が生えている。
どうやら、重いと感じたのは、この翼のせいだったらしい。
でも、ものすごく気持ちのいい重さだ!
しかも、想像した通りに力強さを感じる翼だ。
バサッと動かすと、すごい力が伝わり身体は宙に浮かび上がった。
俺は今すぐ飛びたいという思いに駆られ、大きな翼を広げる。
すると、小さな社の壁にぶつかりそうになった。
「うわっ!翼がぶつかる!」
「大丈夫だ、実在するものではない。
それらは全てお前の想像が生み出したもの。
ドアを開けずとも、社から出ることも可能じゃ」
「べ、便利!」
便利以外に言葉なんて浮かばない。
もう、俺の語彙力じゃ、これが精一杯。
それほど心が湧いて、全身の毛が逆立つ思いだった。
「どうだ、それが神の力だ、犬w」
「ええー!すごい、すごい!
こんなにすごいとは思わなかった!
このまま空の散歩もできるってことだよね?!」
「ああ、その通りだw
それとな」
神様が何か言いかけたけど、それどころじゃない。
俺は社を出ると、翼をはばたかせ、空へ向かって飛び出していた。
「なんだ、話を聞かずに行ってしまったかw
さすがは犬だな…w
まぁ、いいとするか」
神様は杖をひと振りすると、煙のように消えてしまった。
俺の方はというと、大興奮しながら空の散歩を満喫していた。
「すごい、すごい!
足を使わないで散歩ができるなんて!
これなら疲れることもないじゃないか」
大きな翼をはばたかせると、さらにスピードが増していく。
俺はさらに空高く舞い上がった。
耳をつんざくような風の音が、全身を駆け抜ける。
鼻先をかすめたのは、太陽に焼かれた雲の匂いと、空のどこかに残る雨粒の名残だ。
「うわぁー!なんて気持ちがいいんだ!」
風が俺の体を撫で、翼の先がピリピリと震える。
地上の景色は、どんどん遠ざかり、心も一緒に解き放たれる。
「やあ!小鳥さんw
俺に勝てるつもりなら、競争しようよ!」
俺は小鳥に声をかけた。
けれど、小鳥はこちらを気にする様子もなく、すぃっと通り過ぎていった。
「そうか、鳥には俺の姿が見えないのか。
神様だもんな、俺w♪」
俺はさらに上へ上へと昇っていく。
もう排気ガスなんて関係ない。
雲を突き抜け、このまま太陽まで行けるんじゃないかと思うほどだ。
下を見れば人間たちが小さく見える。
社の前を走っていた大きなトラックでさえ、アリのようだ。
俺は楽しさのあまり、ワンワンと大きな声を上げていた。
だが、誰も怒らない。
今までなら、ちょっと吠えただけでママさんに怒られたのに、今は誰も俺を怒るものはいないんだ。
俺は気分がよくなって、いっそ地球一周してみようかと空に向かって笑った。
けれど、地球がどれくらい大きいのか、俺には見当もつかない。
「うーん…確かに楽しいんだけど。
誰も俺に気が付いてくれないのは、寂しいなぁ」
俺はスピードを落としながら、地上へと近づいて行った。
すると通り過ぎる風が、俺の毛を躍らせて行く。
遠くの方で電車が走る音が聞こえてくる。
翼を広げたまま静止すると、ふわりとどこかの庭先から花の香りが届いた。
甘くて、ちょっと懐かしい匂いだった。
「これが人間の世界だったんだな…」
天を仰げばどこまでも青い空があり、地上を見れば小さな人間が見える。
風は心地よく俺に話しかけている。
ところが、胸の中にまで風が吹き込み、俺は寂しさを覚えた。
何か、大事なことを忘れているような、そんな寂しさだ。
俺は首を傾げ、この寂しさがなんなのかと考えてみた。
だが、初めての感情に、俺は理解が出来ずにいる。
その時、真っ赤な風船が俺の視界に入った。
揺れる風船は、女の子の手を離れ、どんどん上ってくる。
女の子は、風船を手放してしまったことで、泣いているらしい。
「あ…」
俺は小さく声を上げた。
それは、かつて見た光景と同じだったからだ。
俺がまだ子犬だった頃、奈津美も小さな女の子だった。
商店街を歩いていたら、風船を貰い、奈津美は大喜びしていた。
だが、手から滑り抜けた風船は風に流され飛んで行ってしまった。
「あの時…泣いてたよな」
俺は忘れていた大事なことを思い出した。
「奈津美…あの子のところに行かなくちゃ…」
俺は飛んでいった風船を追いかけ、紐をくわえると、女の子の前に降り立った。
もちろん、俺の姿なんて見えるはずはない。
それでも構わなかった。
どうしても、この風船を女の子に渡してあげたかった。
俺の気持ちがたとえ届かなくても、風に乗って伝わる気がしたんだ。
突然ハイスピードで下りてきた風船を見て、女の子は驚きもせず、「ありがと」と言ってくれた。
「俺のことが見えるの?」
俺は思わず女の子に聞いた。
女の子はニコニコしながら「わんわん」と繰り返し、俺に手を伸ばしてくる。
「そうか…君は神様が見えるんだね。
あの子も…俺の飼い主の奈津美も、きっと俺が見えるよね。
あんなに俺のことを可愛がってくれたんだから」
俺は空を見上げると、大きく翼を広げて飛びあがった。
行く先は決まってる。
地球一周なんかじゃない、太陽なんかでもない。
それはただひとつ、俺の帰りを待ってくれている家族の元だ!
《3話へ続く》
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