【ショートショート】亡くなった人の言葉を再現するAI
「私は、亡くなった人の言葉を再現するAIです」
毎日のようにパソコンを起動していると、AIを使うのも日課となる。そんな俺は、新しいAIだと知りインストールしてみた。
「へぇ、亡くなった人の言葉を再現ねぇ。
何も知らないのに、再現なんてできるのかよ」
そんなことができるはずはないと、俺は笑いながら聞いてみた。
「もちろんです。私は再現に特化したAIですから」
「自信があるんだな。だったら、俺の母親を再現してくれよ」
俺の母親は、俺が学生の頃に亡くなっている。会いたいと思っても、会うことなんてできない大切な人だ。
『タカシはいい子ね。お前は、頭がいいしきっと大きな事を成し遂げるわ。
母さんは信じてるからね』
「え……」
確かに俺の母親は、よく同じことを言っていた。小さなころから、俺を褒め、怒ることはなかったし、頭の悪い俺に「頭がいい」と言っていた。おかげで勉強ができなくても、それを悲観することはなかった。
「なんで分かるんだよ……」
「私は再現に特化したAIです」
「それにしたって……」
俺のことなんて、何も知らないはずなのに、どうして分かるのか?
「だったら、母さんが死ぬ前になんて言ったか、それを再現してくれよ」
『タカシ、自分に自信を持ってね。母さんは、いつでもお前のことを見てるからね』
その通りだ。
病院の重苦しい空気の中で、やせ細った母さんは、俺の手を握り同じ言葉を言った。俺は泣きながら、そんな母さんに頷いていた。
「なんでこんなことが……」
その時、俺の頭に浮かんできたものがある。それは都市伝説のような話だ。
政府が国民を監視し、あらゆる情報が集められている、と。つまり、俺の母親が死んだときの言葉も、母親が良く口にしていた言葉も、全て政府が集めた情報ということ。
「なるほどね。分かったよ」
監視されていると分かると、背筋に冷たいものを感じたが、その逆に二度と会えない人に会える喜びもある。しかも、言葉だけではなく、母さんの声、言い方まで再現してくれるのだから。
俺はそれから人生の中で、死に別れた人たちのことを再現していった。会えない人との再会は、俺の感情を高ぶらせた。しかし、繰り返される再会は、更なる刺激を求めだした。
「おい、AI。死んだ人の再現は分かったけどさ、他にはできないのか?」
「他には。と、言いますと、どんなことでしょうか?」
「そうだな、俺の別れた彼女の再現なんてどうだ?
死んだわけじゃないけど、別れたんだから同じことだろう?
俺は本当は別れたくなかったんだけど、別れなくちゃならなかった。
だからさ、もう一度いい感じになりたいんだ」
「できますが、やっていいんですか?」
「ああ、もちろんだ。彼女と話してよりを戻せたら最高じゃないか」
あれは、半年前だ。
付き合って二年。彼女との結婚を考えていた。それなのに、俺が浮気したことで彼女は離れて行った。ほんの出来心だったというのに、泣きながら別れを告げた彼女に、俺は何も言えなかった。
できることなら、もう一度彼女と話して謝りたかった。だから、そのシミュレーションのつもりだった。
「分かりました」
「おっ、やってくれるか! じゃ、再現してくれよ」
「どの地点にいたしましょうか?」
「そうだな。別れる時だな。ちゃんと謝って、別れを選ばずにすむ方向に行きたいからさ」
『あなたは、私よりもあの女を選んだのね』
「おっ! そうだよ、まさに、その言葉だった」
『もう、私のことは好きじゃないってことよね』
「そうじゃないよ、気持ちが変わったわけじゃないんだ!」
俺はあの時言えなかった言葉を繰り返した。言えなかった言葉。伝えられなかった思い。
本当なら別れるはずの俺たちは、俺が繰り返す言葉によって道が変わった。
「だから、もう一度やり直そう。頼むよ、愛しているんだ」
『その言葉、あの日に聞けたらよかったのに』
「大丈夫さ、これからやり直せばいいんだから!」
『そうね……やり直せれば、ね』
俺は喜んだ。まるで彼女と本当にやり直せるような気になっていた。だが、これが偽りだということを、俺は忘れていた。
だから――AIとの会話を終えた俺は、彼女に電話した。
今、AIと話した言葉の全てを、彼女にぶつけるつもりで。
「亜由美、久しぶり!」
俺の声は弾み、亜由美が答えるのを待っていた。
「タカシさん、かしら?」
電話から聞こえてきたのは、亜由美の母親の声だった。
「え? あ、はい。亜由美さんをお願いします」
「……亜由美は……亡くなったのよ」
「は? いつ……?」
「ついさっきよ。あなたとやり直したいって繰り返しながら、スマホを握って泣いていたの。そうしたら、急に苦しいって……」
俺はパソコンを見た。
すると画面に文字が浮かんでいた。
『私は亡くなった人を再現するAIです』
俺の唇が、小刻みに震えだした――。
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