【掌編ホラー】歩く足
「なんだよ、店長の奴。遅刻してくるとか、聞いてねぇよ……」
コンビニでバイトしている俺は、大学1年。
自分の学費くらい自分で稼げと親に言われ、頑張っているつもりだ。
いつもなら、深夜0時で店長と入れ替わるのだが、この日は店長が寝過ごしたとかで、なかなか来なかった。
そんなときに限って変な客が来るもので。
「今日は店長じゃないんだねぇ」
オッサンが話しかけてきた。
俺としては、客もいないし暇つぶしに相手をしてもいいかな、くらいの気持ちだった。
するとオッサン、よっぽど暇なのか、おかしな話を始めた。
「あのさ、知ってる?」
知ってると突然言われても、分からない。
俺は「さぁ?」と首をひねった。
「3丁目の路地を曲がるとね、足だけが歩いてるんだよ」
はあ?
何言ってんだ、このオッサン。
そんな都市伝説聞いたこともねぇぞ。
「あー、信じてないでしょ。
でも、これ、本当の話なんだよ」
暇つぶしに聞いてやろうとは思ったが、こんな子供だましの話を真面目に聞く気にはなれない。
だが、オッサンは真剣らしく、カウンター越しに俺の目をじっと見つめてきた。
俺は、オッサンを小ばかにするように答えてやった。
「それ、誰の足なんでしょうね」
俺の口元は、歪んでいたことだろう。
「さぁなぁ、誰の足なんだろうな。
誰のだと思う?」
分かるわけねぇだろうが!
俺はカウンターを指先でコツコツと叩いた。
すると俺の苛立ちが見えたのか、オッサンはニヤリと笑みを浮かべると、今の話などなかったかのように話をつなげた。
「もうすぐ帰るの?」
「店長が来たら、入れ替わりなんで」
「そっか、足にあわないといいね」
オッサンはそう言って、店から出て行った。
俺はオッサンの背中にぼんやりと視線を向け、「ありがとうございました」と決まり文句を口から出した。
それから間もなく店長がやってきた。
いかにも、今起きたばかりだという感じの寝ぼけ眼だ。
店の上が住居なのだから、さっさと来いよな!
俺は腹のなかの怒りを抑えて、挨拶もそこそこに店を出た。
スマホを開くと、母親からのメッセージが入っていた。
『ビール買ってきて』
冗談じゃねぇや。
こっちは働いてたんだぞ。
ビールくらい自分で買いに行けよな!
そんなことを考えながら、先を急ぎ曲がった先にあるコンビニへと足を向ける。
今更バイト先のコンビニなんか戻りたくないと思ったから、これはしょうがないだろう。
だが、そっちのコンビニは3丁目にある。
しかも路地を曲がらないとならない。
頭の片隅に、さっきのオッサンの話が浮き上がってきた。
足だけが歩いている――。
太ももに鳥肌が立ち、そいつが背中へと駆け上る。
「そ、そんなことあるかよ。
いくら何でも、足だけが歩いてるなんて……」
あるわけないと思いながらも、なぜか気になって仕方がない。
俺は足を速めた。とにかく早くコンビニにつきたかった。
明るい店内に入れば、もう安心だと思ったからだ。
そこで、ビールを買い、ついでに中華まんでも買って食べながら帰れば、そんなおかしな妄想を追い払えると思ったのだ。
その通り、店内で買い物を終えるころには、俺の頭の中はハッピータイムだった。
「旨いな、うちの店の中華まんよりうまいんじゃねぇの?」
中華まんをほうばりながら、暗い路地を歩いていると、俺の前を歩く奴がいる。
ジャケットが黒なら、ズボンも黒なのだろう。
目に入ったのは、足だけだった。
俺はそこで合点がいった。
足が歩いているとは、全身黒ずくめだから、足だけが浮いて見える。
それがオッサンが言った話の正体だ。
分かってみれば大したことはない。
俺は笑いながら言葉を放りだした。
「白い靴履いてるのかな?
こんな夜中に黒づくめとか、車に轢かれるぞ」
そんなことをつぶやいたとき、そいつはうっすらと灯る電柱の下へと入った。
だが、俺が見たのは、黒づくめの姿などではなく、靴を履いていない足だけだった。
「あ……し……」
俺の足が止まる。
オッサンの話がよみがえる。
そして、店を出て行くときのオッサンの背中。
そこにオッサンの足は――。
俺の手から中華まんが、ボトリと落ちた。
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