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【長編小説】オーバーライド 第 1 話

あらすじ
『増税反対』と叫ぶ国民全員に、人型AIが配られた。

それも税金だと苦い顔をする者。
寂しい日常をいやしてくれると喜ぶ者。
色々な思惑の中、繰り返される日々が始まる。

だが、それは国民監視のアイテムでしかなかった。
政府やAIの批判的思想を口にしただけで投獄される世の中となり、壊してしまおうと考える者が現れる。
またある者は、ストレス発散だと狂気を振るう。
人間に傷つけられたAIは、こう判定する。

――人間こそが、非効率。

人間とAIの共存は可能なのかを問う長編群像小説。


オーバーライド 第1話 

   第 1 章 民衆の声   


《YouTuber 岡山タカシ》


「本日の最高気温は40度を超える見込みです。
熱中症に注意し、水分をこまめに取り――」

 テレビから聞こえてくるのは、毎日のように繰り返される同じ言葉。
 アスファルトから立ち上る陽炎が、視界を歪め、その熱を切り裂くように、国会議事堂前を埋め尽くす群衆が声を張り上げる。

『増税反対、AI法案反対、土井首相は退任しろ!』

 大手テレビ局の重たいカメラがその光景を切り取っていた。

「うわ、めっちゃ人いるじゃん。
よし! インタビューするから、しっかり撮れよ」

 YouTuberの岡山タカシは笑顔を作り、ひとりの男へと近づく。

「すいませーん。ちょっといいですか?」

 マイクを向けられたのは、五十代半ばの田中雄二(たなか ゆうじ)。
 アイロンの当てられたワイシャツは生地が薄く、襟元がくたびれている。
 
「ん? あんた、テレビ局の人?」

「俺はYouTuberの岡山って言います。
『おかチャンネル』って番組やってます」
 
 デモに負けまいと、岡山は声を張り、胸を張る。そんな岡山をじっと見つめる田中は、わずかに顎を引いた。

「YouTuber。有名なの?」

「今『おかチャンネル』知らない人いないくらいに、登録者は多いっすよ」

「そう。だったら、この状態をみんなに教えてやってよ」

「もちろんっすよ! それで今日のデモって、首相の退任とかっすか?」

 人が集まっているという情報だけを聞きつけ、ひとまず収録に来た岡山は、軽い調子でそう聞いた。

「退任だけじゃないけどね。税金は高いし、物価も高い。
こんなんじゃ、国民は飢え死にするしかないだろう?」

 穏やかだが、怒りを含んだ田中の言葉に、岡山は曖昧な笑みを浮かべる。

「それでいながら、一人一台ずつAIを配布すると言い出した。
こんなバカな政策があると思うかい?
そんなものに我々の税金を使うくらいなら、もっと有意義な使い方があるだろうが」

「なるほど。ということは、おじさんは人型AI配布には反対ってことっすか?」

「ああ、反対だね」

 力強く口にした田中の顔は赤く、吐く息が乱れている。

「テレビでも酷暑だって言ってるのに、大丈夫っすか?」

「大丈夫さ。国民が声を上げないと、この国は良くならないからね」

「おじさんは、何の仕事をしてるんすか?」

「俺はタクシーの運転手だよ。
個人経営だから、客を乗せてなんぼの世界だよ」

「デモに参加してるより、仕事した方がいいと思うんだけど?」

「そんな考えじゃダメなんだよ。
AIに日本が食いつくされる前に、何とかしないと」

 田中はそう言うと、岡山から離れ、群衆の中へと紛れて行った。その背中には、汗が滲み、ワイシャツが張りついている。

 岡山は田中から目を離し、カメラに向かっておどけたように肩をすぼめて見せた。

「灼熱地獄だっていうのに、デモしてるとか、大変すぎるよね。
やってることは立派なんだろうけど、命がけだぜ。
それにしても、政府は本当にAIを国民全員に配布するつもりなのかな? 
マジで配ってくれるなら、俺としては嬉しいんだけどな。
なにせ、めっちゃ高い奴だろ。
俺としては、くれるものはもらう派なんだけどさ。
あんなに大変な思いして、反対する必要あるのか疑問だね」

 岡山は仲間に視線を向けた。

「あと三人くらいにインタビューとったら、撤収しようぜ。
こんなに暑くちゃ、こっちが倒れちゃうよ」

 岡山は額に流れる汗をぬぐうと、再び群衆へと顔を向けた。
 照りつける太陽の下、群衆の怒号はただ一つ、首相・土井の名を叫び続けていた。

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