【童話短篇】ゆく年くる年
作者:娘
編集:かめママ
僕はもうすぐ役目を終える。
次の役目はまた12年先だ。
終える、というよりは一旦休みという感じ。
だから、休みをもらう前に僕らは【引継ぎ】をする。
この一年はどうだったか、どう始まってどう終わったのか。
どんな大きな問題があって、どんな素敵な出来事があったのか。
事細かに次の担当に教える。
それを聞いた次の担当は
「わかった、それなら僕の時には君よりも、もっといい年になるように頑張るよ!」
と言って無事に引継ぎを終了する。
今回の引継ぎも無事に終わるはずだった。
だけど、そううまくはいかなかった。
僕は12年間の中で6番目のお役目。
僕らの上司を人間は【神様】と呼ぶ。
僕らは全部で12匹。
1年に1匹割り当てられている。
僕の次は7番目のウマ君が引き継ぐのに、そのウマが待てど暮らせどやってこない。
「なんでこないんだろう?」
不思議に思った僕は、彼の家まで、長くて細くてしなやかな、自慢の白い体をくねらせながら行くことにした。
「もしもし、ウマ君。いるかい?もうすぐ年があけちゃうよ!」
しんと鎮まった家の中からは返事がない。
「入るよ?いいよね?」
本来は、次の担当が今の担当のところへやってくるものなのだが、
今回はその逆になってしまった。
こんなの神様が知ったらなんていうだろう?
家の中に入ると、竜巻でも通り抜けたのかと思うほど荒れ狂っていて、家主であるウマは独り、身体より一回り小さな毛布をかぶって震えている。
そばにはちょこんと澄まし気味に座る白い猫がいた。
「やあ、猫さん。これはどういうことだい?僕はウマ君に引継ぎをしたいんだけれど」
「そんなの、見て分かるでしょ?引きこもってるわよ。
ウマ君ったら、役目を辞めて私に変わって欲しい、なんて言うのよ」
「なんだって……ウマ君、どうして辞めたいなんていうんだい?
この役目はとても名誉で光栄なことなのに」
すると、毛布から長くてすらりとした顔をちらりとのぞかせ、涙ながらにぽつぽつと話し出した。
「だって君の次なんだもの」
どういうことだろう?
正直なところ、誰の次だろうが変わらないと思うのだけど……。
「君ってば、すらっとしていて真っ白で、とてもきれいじゃないか。
それに比べてどうだい?僕を見ておくれよ」
すくっと立ち上がったウマの体は光輝くような明るい茶色に、金色の鬣(たてがみ)と尻尾、顔には白くてキレイなひし形の模様がついている。
どこをとっても《美しい》と言わざるを得ない容姿だ。
「綺麗じゃないか」
「どこが綺麗なもんか。僕には色があって、君らは白い。
白というのはとても綺麗なんだ……なのに、僕の体きたら茶色じゃないか」
すると、近くにいた猫はため息をついてからこう言った。
「だからって、ウマ年をやめてネコ年を作るなんて、そんなバカな話あるわけないでしょ?神様だって許さないわよ」
それはそうだ。
そもそもこの十二支という制度を決めたのも神様だ。
そしてその十二支を決めるとき、ネズミ君が猫に一日遅い日程を伝えたせいで猫は参加すらできなかったのだ。
そんな猫に「変わってくれ」なんて、それは酷というものだ。
猫だって、本当は十二支に加わりたかっただろうに、今はそれをぐっと堪えているのか、
しきりに顔を洗う仕草をしてウマをなだめている。
「だって、僕ってば……」
「ああもう、君は綺麗だよ!とても美しい見た目なのに、なんでそんなことを言うんだい?
白い色じゃないからなんなのさ?白い体を汚さないようにすることがどれだけ大変か分からないだろう!?
僕らみたいな純白はそれを保つだけでも大変なのに、その年をよりよくしようと頑張らないといけない!
でも君はそんな苦労しなくても十分キレイだ!
僕らよりもずっと上手に役目に取り組めるのに、なにが問題なのさ」
自分でも驚くほど、怒りを露わにした僕に、猫はそっと言った。
「落ち着きなさいよ。確かに、白も綺麗よね。
でもね、私は思うの。
太陽の光を浴びながら青々とした草原に佇んでいるときのあなたって、とってもイケてると思うわ。
私達白い者には持ちえない物だもの。
羨ましい、とってもね」
すると、ウマは涙を拭って「本当に?」と聞いてきた。
僕も猫も、大きく頷いて見せると、ウマはようやくやる気が出たのか、家の外に出ていった。
冷たく刺すような空気を体いっぱいに吸い込み、大きく一つ嘶いた。
「今年は、大変な一年だったよ。
だからウマ君、キミには僕の年よりももっと力強く、駆け抜けていってほしいんだ。
僕には出来ないことが君にはできるんだから」
「うん、まかせてよ!君達のおかげで目が覚めたよ!
猫さん、ヘビさん、困らせてごめんね。
それから、ありがとう」
明るい声で応えたウマ君は、にっこりと笑顔を作り、僕らにはかなうはずもないスピードで
走り出した。
金色の鬣(たてがみ)が、月光を浴びて光り輝いている。
その時、山の彼方から新年を告げる鐘の音が響き始めた。
