AIと考えるモビリティの未来 【第3話】 なぜ電動アシスト自転車は250Wが主流なのか?
第3話 なぜ電動アシスト自転車は250Wが主流なのか?
〜世界標準としての250Wと、日本の24km/hルール〜
※今回は少しだけ、制度やモーター出力の話に踏み込みます。
とはいえ、難しい規格解説ではなく、「250Wって弱いの? それとも十分なの?」という素朴な疑問を整理する回です。
第1話では500Wモーターの使い方を、第2話では同じ250W級でも乗り味が変わることを考えた。
そこで次に気になったのが、この疑問だった。
そもそも、なぜ電動アシスト自転車は250W級が主流なのか。
500Wの話をしたあとだと、250Wという数字は少し控えめに見える。
数字だけで見れば、500Wの半分だ。
では、250W級は弱いのか。
それとも、自転車という乗り物にとって、かなり現実的な落としどころなのか。
今回は、その250Wという数字について考えてみたい。
### 日本のルールは「250Wまで」ではない
まず整理しておきたいのは、日本の電動アシスト自転車は、単純に「モーター出力は250Wまで」と決まっているわけではない、という点だ。
これは、かなり誤解されやすいところだと思う。
私も最初は、電動アシスト自転車といえば250Wくらいまで、という印象を持っていた。
実際、市場に出ている電動アシスト自転車も、250W級のものが多い。
ただ、日本のルールの本質は、モーターのW数そのものではない。
重要なのは、人がペダルを踏む力に対して、モーターがどれくらい補助してよいのか。
そして、その補助を何km/hまで加えてよいのか。
日本の電動アシスト自転車では、10km/h未満の低速域では、人の力に対して最大2倍までモーターが補助できる。
そこから速度が上がるにつれて、補助できる割合は少しずつ下がっていく。
そして、24km/h以上になると、モーターの補助力は加わらない。
つまり、日本の電動アシスト自転車は、モーターが主体で走る乗り物ではない。
あくまで、人間がこぐ。
その人間の力を、モーターが補助する。
ここが大前提になっている。
だから、日本では「何Wのモーターを積んでいるか」だけを見ても、電動アシスト自転車の性格は分からない。
むしろ大事なのは、補助比率と速度域だ。
### 低速で強く助ける意味
10km/h未満で最大2倍まで補助できる意味は、発進や坂道で分かりやすい。
止まった状態からこぎ出すとき。
荷物を積んで坂に入るとき。
向かい風の中で走り出すとき。
人間が一番「重い」と感じる低速の場面を、モーターが強く助けてくれる。
スピードに乗ってしまえば、自転車は比較的軽く進む。
でも、止まった状態から動き出すときや、坂道で速度が落ちているときは、かなり力がいる。
そこをモーターが助けてくれるから、250W級でも日常ではかなりありがたい。
電動アシスト自転車は、モーターだけで走る乗り物ではない。
人間の脚力にモーターの補助が足される乗り物だ。
この見方をすると、250Wという数字は、見た目ほど小さくない。
### 欧州でも250W級が標準になっている
一方で、ヨーロッパでは250Wという数字がもう少し分かりやすく前に出てくる。
欧州のEPAC、いわゆるPedelec系の電動アシスト自転車では、連続定格出力250W以下、アシストは25km/hまで、という考え方が標準的に置かれている。
日本は24km/h。
欧州は25km/h。
数字には少し違いがある。
ただ、考え方としてはかなり近い。
どちらも、電動アシスト自転車を「モーター付きの小型バイク」としてではなく、「人がこぐ自転車をモーターが補助する乗り物」として扱おうとしている。
人間が主体で、モーターは補助。
速度が一定以上になったら、補助は切れる。
この考え方があるから、電動アシスト自転車は自転車の延長として社会に受け入れられているのだと思う。
そして、欧州の250W・25km/hという基準は、市場にも大きな影響を与えている。
大きな市場で250W級が標準になれば、部品メーカーもそこに合わせやすくなる。
完成車メーカーも、250W級を前提に商品を作りやすくなる。
結果として、世界的にも250W級が1つの中心になっていく。
もちろん、世界中すべてが250Wで統一されているわけではない。
国や地域によって、ルールも市場も違う。
750W級や1000W級のe-bikeが存在する地域もある。
ただ、少なくとも「自転車の延長として扱われる電動アシスト自転車」という枠で見ると、250W級はかなり大きな標準になっているように見える。
### 250Wは本当に弱いのか
では、250Wは弱い数字なのか。
私は、そうは思わない。
たしかに、500Wや750Wと比べると、250Wは控えめに見える。
スペック表だけを見れば、数字が大きい方が強そうだ。
しかし、自転車という乗り物の中で考えると、250W級は決して弱くない。
自転車は、もともと人間の脚力で走る乗り物だ。
車体は比較的軽く、速度域もそこまで高くない。
日常的な移動で重要なのは、最高速をどこまで伸ばせるかではない。
発進、坂道、向かい風、荷物を積んだときの負担をどれだけ軽くできるかだ。
そこに250W級の補助が入るだけで、体感はかなり変わる。
信号待ちからの発進が軽くなる。
橋の坂で足が止まりにくくなる。
疲れている日の通勤でも、最初のひと踏みが軽くなる。
この差は、毎日乗る人ほど大きいと思う。
だから、250Wという数字だけを単独で見るより、人間の力と合わさったときにどう感じるかが大事になる。
この見方をすると、250W級はかなり合理的だ。
### 500Wとの差はどこに出るのか
ここで注意したいのは、モーター出力を上げれば、そのままアシスト量が増えるわけではないということだ。
日本の電動アシスト自転車では、人が踏む力に対する補助比率と、24km/h以上で補助力が加わらないことが重要になる。
だから、たとえば500W級のモーターを使ったとしても、合法的な電動アシスト自転車として走る限り、補助の枠そのものが広がるわけではない。
では、500Wに意味はないのか。
私は、そうではないと思う。
500Wの意味は、最高速ではなく、高負荷時の余裕にある。
平地を普通に走るだけなら、250W級でも十分に感じる場面は多い。
ただ、坂道発進、重い車体、荷物を積んだ状態、向かい風のような場面では、モーター側に余裕があることの意味が出てくる。
250W級のモーターを限界近くで使うのか。
それとも、より大きなモーターを法規内に抑えながら、余裕を持って使うのか。
そこには、設計思想の違いが出る。
つまり、500Wは「速くするため」というより、「厳しい条件でも法規内のアシストを安定して出すための余裕」として見る方が自然だと思う。
### 出力を上げればよいわけではない
ただし、出力を上げればよいわけではない。
大きなモーターを使えば、バッテリー消費、発熱、駆動系への負担も増える。
フレーム、タイヤ、ブレーキ、配線、制御系にも余裕が必要になる。
そのぶん重量もコストも上がり、取り回しも重くなる。
電動アシスト自転車は、毎日使う日常の足だ。
駐輪場に止め、狭い道を走り、押して歩くこともある。
だから、ただ出力を上げれば便利になるわけではない。
むしろ、出力、重量、航続距離、価格、安全性、耐久性、整備性のバランスが重要になる。
そのバランス点として、250W級はかなりよくできている。
### 250Wは妥協ではなく現実解
250W級は、弱すぎず、強すぎない。
車体を過剰に重くしすぎない。
バッテリーも巨大化しすぎない。
ブレーキやフレームも、自転車としての範囲に収めやすい。
日常用途では十分な補助になる。
そう考えると、250Wは妥協ではなく、自転車用モーターとしての現実解なのだと思う。
もちろん、用途によっては250Wでは足りない場面もある。
重い荷物を運ぶカーゴバイク。
急坂が多い地域。
体力に不安がある人の移動支援。
雪国や山間部。
あるいは、自転車ではなく特定小型原付や小型電動モビリティとして設計する場合。
そういう用途では、より大きな出力が必要になることもある。
だから、すべての電動モビリティを250Wに収めるべきだとは思わない。
ただ、一般的な電動アシスト自転車として考えるなら、250W級が主流になるのはかなり自然だ。
### 同じ250Wでも乗り味は変わる
ここで、第2話の話につながる。
同じ250W級でも、乗り味は同じではない。
踏み始めの反応。
補助の抜き方。
変速との組み合わせ。
車体重量やタイヤの設計。
こうした味付けで、250W級の印象はかなり変わる。
同じ出力でも、発進が自然に感じる車体もある。
坂道で不足感が少ない車体もある。
24km/h付近までスムーズに伸びるように感じる車体もある。
逆に、全体的に自然で控えめに感じる車体もある。
つまり、250Wという数字は同じでも、メーカーの思想は同じではない。
250Wだから同じ。
250Wだから弱い。
250Wだからつまらない。
そうではない。
250Wという現実的な標準の中で、どう気持ちよく走らせるか。
どう安全に補助するか。
どう日常の負担を減らすか。
どう「楽しい」と感じさせるか。
そこにメーカーごとの腕が出る。
### 次に考えたいこと
ここまで整理すると、逆に500Wという数字の異質さが見えてくる。
一般的な電動アシスト自転車が250W級を中心に組み立てられている中で、500Wモーターを積むという選択はかなり目立つ。
では、500Wなら単純に速いのか。
最高速を伸ばすための500Wなのか。
それとも、まったく別の目的で500Wを使っているのか。
ここで気になってくるのが、日本企業であるAcalie(アカリエ)が展開するモビリティブランド「EVEREST XING」の電動アシスト自転車、「CITY Plus」だ。
500Wなのに、最高速を伸ばす方向に振っているようには見えない。
ただし、500Wだから法規上のアシスト量が増えるわけでもない。
だからこそ、その500Wをどう使っているのかが面白い。
250Wが自転車用モーターとしての現実解だと分かると、500Wをどう扱うのかという問いはさらに面白くなる。
500Wなのに速くない。
500Wだからといって、アシスト量が増えるわけでもない。
では、その500Wは何のためにあるのか。
次回は、Acalie(アカリエ)の「EVEREST XING CITY Plus」を題材に、500Wモーターをどう電動アシスト自転車として成立させているのかを考えてみたい。
