AIと考えるモビリティの未来 【第4話】 なぜ500Wなのに最高速は伸びないのか?
第4話 なぜ500Wなのに最高速は伸びないのか?
〜電動アシスト自転車として成立させる500W〜
※今回は少し長めです。
500Wと聞くと「速そう」と感じますが、電動アシスト自転車では話が少し違います。
今回は、500Wモーターをどう“速さ”ではなく“成立させるための余裕”として使っているのかを考えてみます。
第3話で見たように、250W級は電動アシスト自転車にとってかなり現実的な標準だ。
弱すぎず、強すぎず、日常の足としてバランスが取りやすい。
そんな中で、少し気になる存在がある。
日本企業であるAcalie(アカリエ)が展開するモビリティブランド「EVEREST XING」の電動アシスト自転車、「CITY Plus」だ。
このモデルは、500Wモーターを搭載した電動アシスト自転車として紹介されている。
さらに公式では、型式認定を取得した認定車両とも説明されている。
つまり、ここで見たいのは「500Wなのに大丈夫なのか」という不安ではない。
500Wモーターを積みながら、どう日本の電動アシスト自転車として成立させているのか。
今回は、そこを考えてみたい。
### 500Wの誤解と、本当の意味
500Wと聞くと、どうしても速そうに感じる。
250Wより500Wの方が強い。
だから、500Wなら速く走れそう。
アシストも強そう。
最初は私も、そういうイメージで見ていた。
けれど、日本の電動アシスト自転車では、話はそこまで単純ではない。
日本の電動アシスト自転車は、24km/h以上でモーターの補助力が加わらない。
つまり、500Wモーターを積んでいても、24km/hを超えてモーターが押し続けるわけではない。
最高速を伸ばすために500Wを使うことはできない。
さらに大事なのは、500Wだからといって、法律上のアシスト量が増えるわけでもないという点だ。
電動アシスト自転車では、人が踏む力に対する補助比率が決まっている。
10km/h未満の低速域では、人の力に対して最大2倍までモーターが補助できる。
そこから速度が上がるにつれて補助できる割合は下がり、24km/h以上では補助力が加わらない。
つまり、250W級でも500W級でも、合法的な電動アシスト自転車として走る限り、補助の枠そのものが広がるわけではない。
ここを間違えると、500Wの意味を読み違える。
500Wだから最高速が伸びる。
500Wだから法規上のアシスト量が増える。
そういう話ではない。
差が出るとすれば、坂道発進、重い車体、荷物を積んだ状態など、低速で高い負荷がかかる場面だと思う。
250W級のモーターを限界近くで使うのか。
それとも、500W級のモーターを法規内に抑えながら、余裕を持って使うのか。
そこには、設計思想の違いが出る。
ただし、それは「500Wだから補助比率が上がる」という意味ではない。
あくまで、決められた補助の範囲内で、モーター側に余裕を持たせられる可能性があるという話だ。
### 商品展開としての500W
このモデルの面白さは、500Wという数字を、最高速やアシスト量を競う方向ではなく、商品展開全体の中で使っているように見える点だ。
同じEVEREST XINGのCITY系には、特定小型原付モデルの「CITY」と、電動アシスト自転車モデルの「CITY Plus」がある。
この構成を見ると、CITY Plusの500Wという選択は、単純に「250Wより強いアシストを出すため」と見るより、CITY側と車体や部品、設計思想をある程度共有しながら、自転車モデルとして成立させるための選択と見る方が自然に思える。
もちろん、実際にどこまで部品が共通化されているかは、外から断定できない。
ただ、同じブランド、同じシリーズで複数の制度に対応するなら、車体や部品、整備ノウハウをある程度近づけたいと考えるのは自然だ。
メーカー側から見れば、開発コスト、部品調達、在庫管理、販売店への説明もしやすくなる。
ただし、自転車モデルにすることで、むしろ必要な部品が増える面もある。
特定小型原付であれば、基本的にはモーターで走れればよい。
しかし、電動アシスト自転車として出すなら、ペダル、クランク、人力を後輪へ伝える駆動系、そして踏力や回転を検出する仕組みが必要になる。
つまり、自転車モデル化は単純なコストダウンではない。
特定小型原付に近い車体を、電動アシスト自転車として成立させるための商品設計と見る方が自然だ。
そこまで含めて見ると、CITY Plusは「500Wで速く走る自転車」というより、CITY系のモビリティを電動アシスト自転車として成立させるための商品に見えてくる。
### シングルギアは装備不足なのか
ここで、シングルギア構成の意味も出てくる。
もともとCITY系は、20km/h前後の生活速度域で使うモビリティとして設計されているように見える。
特定小型原付モデルであるCITYは、最高速度20km/h以下の枠で使う乗り物だ。
モーターで走り、低速から中速の生活速度域を楽に移動する。
そこに、多段ギアで高速巡航まで伸ばす発想は、そもそもの商品思想とは少しズレる。
その考え方を自転車モデル側にも引き継いでいると見れば、シングルギア構成はかなり自然だ。
もちろん、500Wモーターに多段変速を組み合わせれば、商品としての魅力は強くなると思う。
「よく走りそう」
「坂道にも強そう」
「スペックが高そう」
そう感じやすいし、若いユーザーやガジェット好きにはむしろ刺さりやすい。
ただし、日本の電動アシスト自転車として見ると、そこには別の難しさも出てくる。
24km/h以上では補助力が加わらない。
補助比率にも上限がある。
そのうえで多段変速を入れるなら、車体構成、コスト、耐久性、メンテナンス性まで考える必要がある。
何より、CITY系を20km/h前後の生活速度域で使うモビリティとして見るなら、多段ギアを付ける必然性はあまり高くない。
多段ギアを付けないのは、足りないからではない。
そもそも必要とする速度域を狙っていないから。
そう考えると、シングルギアは装備不足ではなく、20km/h前後の生活速度域に収まりをよくするための現実的な落としどころにも見えてくる。
### 自転車を選べる安心感
もう1つ、このモデルで大きいのは「自転車を選べる」という安心感だ。
特定小型原付は便利な乗り物だと思う。
免許不要で、ペダルをこがずに20km/hまで走れる。
近距離移動の手段としては、かなり魅力がある。
ただ、まだ新しい乗り物でもある。
私が常日頃から引っかかっているのが、歩道走行まわりだ。
もちろん、特定小型原付は原則として車道を走る乗り物だ。
歩道を走れるのは、歩道通行モードなど、特例特定小型原付としての条件を満たす場合に限られる。
制度としては分かる。
でも、実際の道路はいつもきれいに整っているわけではない。
路肩が狭い。
路上駐車がある。
工事で左端がふさがっている。
後ろから車が迫ってくる。
そういう場面で、通常モードのまま歩道側へ逃げてよいのか。
歩道通行モードへ切り替えるべきなのか。
そもそもその歩道を通れるのか。
これを瞬時に判断するのは、使う側からするとかなり分かりにくい。
もちろん、ルールを守ることが大前提だ。
危ないからといって、好き勝手に歩道へ入っていいという話ではない。
ただ、「いざというときにどうすればいいのか分かりにくい」という不安は残る。
その点、電動アシスト自転車は、多くの人にとってすでに見慣れた乗り物だ。
ペダルをこぐ。
自転車として扱う。
日常の移動に馴染みやすい。
この安心感は大きい。
同じシリーズにCITYとCITY Plusを用意することで、特定小型原付の快適さと、自転車としての分かりやすさを選べるようにしている。
どちらが上という話ではない。
制度が違い、使い方が違い、ユーザーの不安も違う。
だから、同じシリーズの中に両方の選択肢があることに意味がある。
### ルールの中で攻めるということ
ここまで考えると、CITY Plusは単に「出力の大きい電動アシスト自転車」ではないように見えてくる。
500Wという数字は攻めている。
でも、その攻め方は最高速を伸ばす方向ではない。
また、法規上のアシスト量を増やす方向でもない。
むしろ、500Wモーターを使いながら、電動アシスト自転車として成立させる。
特定小型原付モデルと近い商品展開をしながら、自転車としての選択肢を残す。
シングルギア構成によって、20km/h前後の生活速度域に収まりをよくする。
これは、かなり日本企業らしい攻め方に見える。
第2話で、日本メーカーは安心安全心象を重視しているように見える、と書いた。
安全であること。
安全そうに見えること。
無理をしていないように感じること。
メーカーが危ない橋を渡っていないように見えること。
今回のモデルにも、その流れを感じる。
500Wという数字は目立つ。
でも、最高速で見せびらかす方向ではない。
特定小型原付の新しさもある。
でも、電動アシスト自転車として選べるモデルも用意する。
危ない橋を渡る攻め方ではなく、ルールの中で生活に収める攻め方。
そこが面白い。
もちろん、課題もある。
500Wモーターを積んだ電動アシスト自転車は、価格も重量もそれなりになる。
軽快なシティサイクルとは違う。
取り回しや駐輪場での扱いやすさも、ユーザーによって評価が分かれるはずだ。
また、500Wという数字が前に出ることで、一般ユーザーが「速く走れる自転車」と誤解する可能性もある。
そこは販売側の説明がかなり重要になる。
500Wだから速いのではない。
500Wだから補助比率が増えるのでもない。
500Wモーターを、電動アシスト自転車の枠内でどう使うか。
この説明がきちんと伝わるかどうかで、商品の受け取られ方は変わる。
### 次に考えたいこと
第1話で見たMOPEROの500Wは、特定小型原付の低速トルクとして面白かった。
第3話で見た250Wは、電動アシスト自転車の世界標準として現実的だった。
そして今回は、その間にある。
500Wの力を持ちながら、電動アシスト自転車として成立させる。
特定小型原付に近い存在感を持ちながら、自転車として選べる余地を残す。
これは、単なるスペックの話ではない。
500Wなのに速くない。
500Wだからといって、アシスト量が増えるわけでもない。
だからこそ面白い。
それは、500Wモーターをどう強く使うかではなく、どう電動アシスト自転車として成立させるか、という話なのだと思う。
ただ、ここまで考えてくると、次の疑問も出てくる。
日本企業にも、こういう攻め方はできる。
ルールの中で、新しい選択肢を作ることはできる。
では、なぜこうした攻めた商品がもっと増えにくいのか。
次回は、その背景にある「変えないこと」と「変われないこと」の違いについて考えてみたい。
