AIと考えるモビリティの未来 【第1話】 500Wで32%の坂を登れるのか?
第1話 500Wで32%の坂を登れるのか?
〜AIに聞いた疑問が、すべての始まりだった〜
最近、特定小型原付という新しい乗り物に興味を持っている。
免許不要で乗れる小型電動モビリティとして、自転車とも原付とも少し違う。ペダルをこがずに走れるけれど、最高速度は20km/h以下。車でもなく、自転車でもなく、原付とも少し違う。
いままでの移動手段の隙間に出てきた、かなり面白い存在だと思う。
エンジニアとして、どうしても気になってしまうのは構造や駆動系の仕様だ。
モーター出力。
ギア構成。
坂道でのトルク。
バッテリーとのバランス。
最高速度をどこに置いて、どこに力を使っているのか。
そんな中で目に留まったのが、SWALLOW社のMOPEROシリーズだった。
特に気になったのは、500Wモーターとプラネタリーギアの組み合わせだ。
### 500Wの本当の意味
500Wという数字だけを見ると、家電製品ではそこまで大きな数字に見えないかもしれない。
でも、人間の脚力に置き換えると印象がかなり変わる。
私は普段、電動アシスト自転車に乗っている。一般的な電動アシスト自転車でよく見る250W級でも、坂道や向かい風ではかなり助かる。
500Wは、その倍にあたる数字だ。
もちろん、人間の瞬間的な脚力やスポーツ走行とは単純に比べられない。競技レベルなら瞬間的にもっと大きな力を出す人もいる。
ただ、日常の移動を助ける動力として考えると、500Wはかなり大きい。
でも、私が一番気になったのは、500Wという数字そのものではない。
500Wモーターに、プラネタリーギアが組み合わされている点だった。
プラネタリーギアは、ざっくり言えば、モーターの回転をそのまま速さに使うのではなく、回転数を落として押し出す力に変える仕組みだ。
(業界によっては減速機とも呼ばれる)
自転車で言えば、重いギアで無理に踏むのではなく、軽いギアに落として坂を登りやすくする感覚に近い。
モーターは高速回転が得意だ。
でも、坂道で必要なのは最高速ではない。
必要なのは、低速で車体を押し上げる力だ。
特定小型原付は、最高速度20km/h以下という制度の中で走る乗り物だ。高速域を伸ばすより、低速域でしっかり力を出す方が、日常の使い方には合っている。
そう考えると、500Wモーターにプラネタリーギアを組み合わせて、低速トルクに振る設計はかなり理にかなっているように見えた。
そこで、素朴な疑問が浮かんだ。
本当に500W+プラネタリーギアで、32%の坂を登れるのか?
32%の坂は、普通の坂ではない。
自転車で見ても、登る前から少し気持ちが折れるような激坂だと思う。もちろん、実際に登れるかどうかは、乗る人の体重、荷物、路面状態、バッテリー残量、助走の有無などで変わる。
だから私は、この数字を単純に「すごい」と受け取るより、500Wモーターと減速機で低速トルクを稼ぐ設計として見た方が面白いと感じた。
### AIを壁打ち相手にして
この疑問をAIに投げかけてみた。
AIに聞いたと言っても、答えを丸投げしたわけではない。
むしろ、自分の中にある「なんとなくすごそう」「でも本当にそうなのか?」という感覚を、1つずつ分解するための壁打ち相手にした。
最初の問いは、とても単純だった。
500Wで32%の坂を登れるというのは、本当にすごいことなのか。
そこから、問いを分けていった。
500Wとは、どれくらいの力なのか。
32%坂とは、どれくらい急なのか。
プラネタリーギアがあると、何が変わるのか。
特定小型原付の20km/h制限の中で、速さよりトルクに振る意味は何なのか。
そうやって分解していくと、最初に見えていたものとは少し違う景色が見えてきた。
単に「500Wだから強い」という話ではない。
限られた速度域の中で、何に力を使うのか。
最高速なのか。
坂道性能なのか。
発進のしやすさなのか。
積載時の余裕なのか。
日常で安心して使える実用性なのか。
MOPEROは、少なくとも最高速を伸ばす方向ではなく、低速トルクや実用性を重視した設計に見えた。
ここが面白かった。
### 小さな疑問から大きな話へ
この「分解する」作業を通じて、最初はただのモーターの話だったものが、徐々に広がっていった。
同じ電動モビリティでも、設計思想によって乗り味はかなり変わる。
たとえば、私はヤマハのPAS Braceに乗っている。
PAS Braceは、ものすごく自然で安心感のある電動アシスト自転車だと思う。急に押される感じが少なく、乗り手の力を自然に補ってくれる。
ただ、24km/h付近を維持しようとすると、それなりに脚力は必要になる。
一方で、海外のe-bikeを見ると、同じような250W級でも、24km/h付近までかなり楽に伸びるように見えるモデルがある。
これは単なるモーター性能の差なのか。
それとも、制御思想の違いなのか。
日本メーカーは本当に性能で負けているのか。
それとも、できるけれど、あえてそういう乗り味にしていないのか。
500Wモーターとプラネタリーギアから始まった小さな疑問は、いつの間にか、メーカーごとの設計思想、日本と海外の違い、ルールの中でどこまで攻めるのか、という大きなテーマへつながっていった。
小型モビリティほど、設計者の思想が見えやすい。
限られた出力の中で何を優先し、何を諦めるのか。
安全側に振るのか。
体感を優先するのか。
制度の内側で、どこまで攻めるのか。
500Wという1つの数字の中に、実はかなり多くのものが詰まっていた。
そして、ここからもう1つの違和感が出てきた。
なぜ、海外e-bikeは24km/h付近まであれほど楽に走れるように見えるのか。
それは単なる性能差なのか。
それとも、日本メーカーがあえて選んでいる制御思想の違いなのか。
次回は、その違和感を掘ってみたい。
