漂声~雨に溶けた祈り~第十五話
📘 第十五話|祈っただけで、命を奪われた
――それでも私は、この祈りをつなぐ
☁️ 雲律庁|異常と断定
朝、雲律庁の観測室。
“ひかり”の存在波形が、真っ白に消えていた。
名前は制度に登録されたまま
だが、生きている証だけが、跡形もなく消えている
観測官・遠子がつぶやく。
「制度には、削除命令は残っていない。
じゃあこれは――誰かが制度の外で、命を奪ったということ」
“光”のように見えても、それは命令だった。
雲律庁はこの出来事を殺人事件として捜査を開始した。
🕯 ヒナ|母の灯りを抱いて
札、布、手紙。
お母さんが残したものが、部屋の机の上に並んでいる。
ヒナは、震える指で札を撫でた。
「通しただけで、なんで……。
祈っただけなのに、なんで……」
でも知っていた。
お母さんは全部、最初から覚悟していた。
そのうえで、“誰かのために”名前を通して消えていった。
☎ 深音との電話|ふたりの娘
スマホが鳴る。
ヒナは即座に通話ボタンを押した。
深音:「……お母さん、本当に消えたんだね」
ヒナ:「うん。光に包まれて……何も、残らなかった」
深音:「殺されたって……制度じゃなく、誰かの命令で」
ヒナ:「“火影官”。天孫族の監視役。
制度の記録に残らない命令を下した」
深音:「私が名前を返したから……ごめん」
ヒナ:「違う。あなたが名前を返したから、お母さんは生き返ったんだよ。
その上で、“通す人”になった。
だからこれは、終わりじゃない」
深音:「私も祈るよ。
ひとりじゃないって、言ってくれてありがとう」
ヒナ:「ううん。私たちは、ふたりとも“娘”だった。
一緒に、この声を灯そう」
通話が切れても、心にはまだ灯りが残っていた。
ふたりの声が、母の祈りを受け継いでいた。
☁️ 雲律庁・記録局奥|“命令の正体”
遠子は捜査報告を開いた。
削除命令:記録なし
備考欄に小さな印字
【記録外処理:火影官・第九列】
遠子はゆっくり口を開いた。
「この世界では、“通した祈り”が怖いんだ。
名前が届くことが、誰かの都合を壊すから」
「でも、通された祈りはもう戻せない。
だったら私は、それを記録する側で抗い続ける」
🌌 ヒナ|通す人として
夜。部屋を暗くして、布と札を広げる。
目を閉じて、声を重ねる。
「まだ名前を持てていない誰かへ――
この灯りが、あなたに届きますように。
私は、通す人です。
お母さんが開いてくれた道を、絶対に閉じません」
札が静かに光る。
空気が、そっと脈を打つように揺れた。
ヒナの祈りが、初めて世界に届いた瞬間だった。
💭 結び(遠子)
名前を返しただけで命を奪われた。
けれどその祈りは、いま新しい手に渡されている。
通す声が続く限り、それは“存在の証”になる。
私は記録する。この光の中に消された命を――もう、消させない。
📘 第十五話・完
