町が指定管理者を訴える。これから公立病院を誰が支えるのか。
三春病院の指定管理終了から考える、これからの地域医療
公立病院の経営が、いよいよ限界に近づいているのではないか。
福島県三春町の町立三春病院をめぐる報道を見て、そう感じました。
報道では、三春町が、指定管理者だった公益財団法人星総合病院に対し、指定管理期間満了前の撤退によって損害が生じたとして、約2億6200万円の損害賠償を求める方針とされています。(毎日新聞)
この件は、単に一つの町立病院と指定管理者のトラブルとして見るべきではないと思います。
背景には、人口減少、患者数の減少、物価高騰、人件費高騰、医師・看護師確保の困難さがあります。これは三春病院だけの問題ではなく、いま全国の医療機関が直面している現実です。
ところで指定管理者制度とは何か
わたしもあまり詳しくないので指定管理者制度について調べてみました。
指定管理者制度とは、自治体が設置する公の施設を、自治体が指定した法人や団体に管理運営してもらう制度です。地方自治法では、公の施設について、条例に基づき、法人その他の団体を指定管理者として指定し、管理を行わせることができるとされています。(指定管理者.info)
病院でいえば、
・建物や開設主体は自治体のまま、
・実際の病院運営を医療法人や公益法人などが担う形
です。
いわゆる「公設民営」です。
自治体に病院経営のノウハウが十分でない場合、地域医療を守るために、病院運営の経験を持つ法人へ運営を任せる。
その意味では、指定管理者制度は、公立病院を存続させるための一つの知恵だったと思います。
三春病院も、もともとは福島県立三春病院でした。県立病院としての廃止が決まった後、三春町が地域医療を確保するために病院を受け入れ、町には病院経営のノウハウがないことなどから、指定管理者に運営を委託する方針となりました。その結果、星総合病院が指定管理者に選定され、2007年4月から指定管理者制度により運営されてきました。(福島県公式サイト)
つまり、星総合病院は長年にわたり、地域医療を支えてきた側でもあります。
なぜ撤退となったのか
三春町の広報によれば、星総合病院からは2025年9月3日付で、2026年3月31日をもって指定の取り消しを求める申し出がありました。
基本協定書上の指定管理期間は2027年3月31日まででした。しかし、医療資材や光熱費などの物価高騰、人口減少による患者数減少、人件費高騰、医師・看護師などの医療職確保困難を背景に、指定管理業務の継続が不可能になったと説明されています。(マイ広報紙)
星総合病院側のお知らせでも、三春町が開設者、星総合病院が指定管理者となり、2007年4月から公設民営方式で地域の保健・医療・福祉サービスに取り組んできたものの、人口減少、利用者数減少、物価・人件費高騰、人材確保の問題から、2026年3月31日で指定管理を終了するとされています。入院機能は2025年12月、外来診療は2026年2月で終了したとされています。
ここで大切なのは、単純に「途中で投げ出した」という話ではないことです。
基本協定書の抜粋では、星総合病院側が三春町に対して、指定管理者負担金として毎年度2,773万円を支払うとされています。これは将来の病院建て替え・再建設費用に備える趣旨です。
一方で、三春町は、病床機能の変更、病床数の縮小、一部外来診療の縮小、さらに指定管理者負担金年間2,773万円の免除、病院維持管理費用に対する町の支援年間1,485万円など、運営継続に向けた協議や支援を行ってきたと公表しています。(マイ広報紙)
病院継続のために、町は途中でかなり支援をしています。
広報では、三春町は指定管理者負担金・年間2,773万円の免除や、病院の維持管理費用への町支援・年間1,485万円などを行い、運営継続に向けて協議してきたとされています。
つまり、お金の流れはこうです。
当初の基本形
星総合病院:診療報酬・利用料金を収入として運営
星総合病院 → 三春町:指定管理者負担金2,773万円/年
三春町:施設・設備更新などを負担
経営悪化後の支援
三春町:星総合病院から受け取るはずの負担金を免除
三春町:維持管理費用も一部支援
それでも星総合病院側は継続困難と判断
という構図です。
町も支えようとした。
指定管理者も続けようとした。
それでも続かなかった。
ここに、現在の医療経営の深刻さがあります。
お金の流れは単純ではない
指定管理者制度というと、「自治体がお金を払って民間に病院運営をお願いしている」と思っていました。
しかし、三春病院の経営強化プランを見ると、町の一般会計から負担する経費として、病院施設設備の更新・修繕、医療機器備品の更新、病院事業会計の運営に関する事務的経費、政策的事業に必要な経費などが挙げられています。一方で、将来の大規模改修や備品購入に備えるため、指定管理者には建物減価償却費分を負担金として求めている現状も記載されています。(福島県公式サイト)
つまり、町が一方的に指定管理者へお金を払っていた、という単純な構図ではありません。
自治体側にも施設・設備を守る責任がある。
指定管理者側にも病院運営を担う責任がある。
ただし、患者数が減り、物価が上がり、人件費が上がり、人材が確保できなければ、制度上の責任分担だけでは病院は動かなくなる。
病院経営は、紙の上の制度だけでは成立しません。
公立病院全体が苦しい
全国自治体病院協議会の2024年度決算状況調査では、会員病院657病院のうち、経常損失を生じた病院の割合は約9割、医業損失を生じた会員病院の割合は95%とされています。
これは、かなり重い数字です。
公立病院は、救急、へき地医療、感染症、災害医療、不採算医療など、地域に必要だけれど採算が取りにくい医療を担っています。
一方で、医療は人件費産業です。
医師、看護師、リハビリ職、薬剤師、放射線技師、検査技師、事務職、看護助手、清掃、給食、設備管理。
誰か一人が欠けても、病院は動きません。
さらに、医療材料、薬剤、光熱費、給食費、委託費、修繕費は上がります。
しかし、診療報酬は医療機関が自由に価格設定できるものではありません。
ここが一般企業との大きな違いです。
コストが上がったからといって、明日から手術料や入院料を自由に値上げすることはできません。
「誰も助けなくなる」のか
今後、誰も公立病院の指定管理を引き受けなくなる、と断定することはできません。
ただ、今回の件から見えるのは、少なくとも「使命感がある法人にお願いすれば、赤字でも地域医療を守ってくれる」という時代ではなくなっているということです。
地域医療を支えるには、理念が必要です。
しかし、理念だけでは給料は払えません。
理念だけでは医療材料は買えません。
理念だけでは夜勤体制は組めません。
理念だけでは医師も看護師も確保できません。
公立病院を守るなら、地域に必要な医療機能は何か、その医療機能を維持するために必要な費用はいくらか、その費用を自治体、国、地域、医療機関がどう分担するのかを、正面から議論しなければなりません。
私たちのような専門特化型の意味
このような時代に、私たちのような専門特化型の有床診療所は、ひとつの現実的な医療提供モデルなのかもしれません。
私たち福岡脊椎クリニックは、脊椎・脊髄外科、内科、リハビリテーション科を標榜し、許可病床数19床、手術室2室の形態で、2024年2月に開設いたしました。(福岡脊椎クリニック)
当院は脊椎手術に特化したクリニックであり、19床の入院ベッドを持つ有床診療所として、MRIやCTなど最新の検査機器とナビゲーションや脊椎内視鏡を備えた手術室を備え、低侵襲な手術治療を目的とした患者さんを対象としています。(福岡脊椎クリニック)
大きな総合病院のすべてを代替することはできません。
救急、感染症、周産期、重症管理、広範な内科疾患、災害医療。
これらは公立病院や大規模急性期病院が担うべき重要な役割です。
一方で、すべての医療を大病院に集めるだけでは、地域医療は回らなくなります。
脊椎疾患に特化し、検査、手術、入院、術後早期リハビリ、骨粗鬆症治療、在宅復帰支援を一体的に設計する。
病床数はコンパクトにする。
意思決定を速くする。
専門領域に資源を集中する。
急性期拠点病院や地域の医療機関と連携する。
このような形であれば、大病院とは違う役割を果たせる可能性があります。
大きいことが正解とは限らない
これからの医療経営では、「大きい病院だから安心」「公立だから続く」「民間に任せれば効率化できる」という単純な見方は通用しにくくなると思います。
大切なのは、規模ではなく、役割の明確さです。
何を担うのか。
何を担わないのか。
誰と連携するのか。
どこに人材を集中するのか。
どの医療機能に投資するのか。
ここが曖昧なままでは、病院は大きくても苦しくなります。
逆に、コンパクトでも、役割が明確で、専門性が高く、地域の中で必要な位置づけを持てば、医療機関としての存在意義は十分にあります。
地域医療は、善意だけでは守れない
三春病院の問題は、地方の一病院の問題ではありません。
これは、全国の医療機関に向けられた問いだと思います。
地域に必要な医療を、誰が支えるのか。
その費用を、誰が負担するのか。
人材を、どう確保するのか。
医療機関は、どの機能に集中するのか。
公立病院も苦しい。
指定管理者も苦しい。
民間病院も苦しい。
有床診療所も苦しい。
その中で、私たちは、専門特化型のコンパクトな医療提供体制を磨いていくしかありません。
大病院と同じことをするのではなく、私たちにしかできない役割を明確にする。
脊椎疾患で困っている患者さんに、できるだけ早く、専門的に、そして一貫して対応する。
手術だけでなく、リハビリ、骨粗鬆症治療、在宅復帰までを見据える。
地域医療を守る方法は、一つではありません。
公立病院を守ることも大切です。
大規模急性期病院を支えることも大切です。
そして、専門特化型の小さな医療機関が、地域の中で明確な機能を担うことも大切です。
今回の三春病院の件は、医療経営の厳しさを突きつける出来事です。
だからこそ、私たちは問い続けたいと思います。
これからの地域医療を、どのような形で支えるのか。
誰かの善意に頼るのではなく、持続できる仕組みとして医療を設計できるのか。
医療経営は、本当に苦しい時代に入りました。
それでも、地域に必要な医療を守るために、私たちは自分たちの役割を磨き続けていきたいと思います。
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