95. 商品数が多いのに売れない店の罠
溢れる品々に、大切な想いが埋もれてしまわないように
「選べる」という贅沢が、いつの間にか「迷い」という負担に変わる瞬間
加納光|40年間、誰よりも「選ばれない理由」と向き合い続けてきたからこそ、伝えたいこと
一生懸命に汗をかいているのに、なぜか思うように評価が追いつかない。
そんなもどかしさを抱えている人には、ある共通点があります。
それは、決してあなたの力が足りないからではありません。
ただ、心を配る「ピント」が、ほんの少しだけずれているだけなのです。
欲張りな棚が、お客さまの足を止めていませんか。
思うように数字が動かないとき、私たちはつい焦って「何かを付け加えよう」としてしまいます。
「もっと新しい品を並べなければ」
「色やサイズを揃えて、選択肢を広げよう」
「あれもこれもと並べれば、きっと誰かの目に留まるはず……」
そのひたむきな熱意は、見ていて胸が熱くなるほどです。
けれど、40年という月日を現場で重ねてきた私が確信しているのは、「選択肢の多さ」と「売れること」は、決して等号では結ばれないということです。
むしろ、良かれと思って増やした品々が、かえってお客さまを遠ざけてしまう。そんな皮肉な光景を何度も目にしてきました。
たとえば、あなたにもこんな記憶はありませんか。
ふらりと入ったパン屋さん。
棚という棚に、何十種類ものパンがぎっしりと並んでいる。
一見、心躍るような光景ですが、いざ選ぼうとすると「何が一番の自慢なのか」が見えてこない。
どれにしようか迷い続けて、結局、心が疲れてしまい「また今度でいいや」とお店を後にしてしまう……。
一方で、種類は決して多くはないけれど、
今食べるべき一品が誇らしげに並び、
季節の香りが真っ直ぐに伝わってくる。
そんな潔いお店のほうが、不思議と手は伸びやすいものです。
人は、選択肢が溢れているからといって、必ずしも満たされるわけではありません。
むしろ、迷わずに済む「心地よさ」に、そっと背中を押されたいと願っているのです。
それは、スマートフォンの画面越しでも同じこと。
似たような品が50種類も並び、何が違うのかも分からない。
そんな情報の波に呑まれた瞬間、そっとページを閉じてしまった経験があるはずです。
私はセミナーを通して、この「引き算の美学」について説き続けてきました。
思うようにいかない組織ほど、新しい品を足すことで解決しようと躍起になります。
けれど、私が経営者の方々にまず見つめ直してほしいのは、もっと別の部分です。
あなたの「一番の想い」が、他の品々に埋もれていませんか?
似通ったもの同士が、お互いの良さを打ち消し合っていませんか?
初めて訪れた人が、一目で自分への贈り物を見つけられますか?
誰にも選ばれないものが、大切な一画を占領していませんか?
伝えるべき言葉が多すぎて、相手を疲れさせてはいませんか?
管理することに追われ、もてなす心を忘れてはいませんか?
ここを丁寧に繕うだけで、滞っていた流れが劇的に変わり始めるお店は珍しくありません。
実際、あるお店では、品数を思い切って3割削ぎ落としました。
本当に愛されているものだけに注力し、
見せ方を瑞々しく整え、
「これこそが、私たちの誇りです」という一品を明確にしたのです。
すると、品数は減ったはずなのに、手にする人の数は驚くほど増えていきました。
あなた自身も、そうではありませんか。
お品書きが多すぎるレストランでは、選ぶだけで一苦労。
数えきれないほどの作品が並ぶ動画配信では、結局何も見ずに閉じてしまう。
似たような服ばかりが並ぶお店では、選ぶ楽しみがため息に変わる。
私たちは、多さという「数字」を求めているのではなく、心から納得できる「出会い」を求めているのです。
だから、思うように選ばれないときほど、焦って何かを足そうとしないでください。
もっと増やすことよりも、相手が迷わずに一歩踏み出せるような、そんな優しさを纏えているか。
その「心の準備」が整ったとき、あなたの想いは、これまでとは違う確かな手応えとなって、相手に届くはずです。
