42. 真面目な人ほど損な役回りになる理由
その献身は、あなたの価値を正しく伝えていますか。
誰よりも誠実なあなたが、ただの「便利な存在」で終わらないために。
加納光|40年間、誰よりも「選ばれない理由」と向き合い続けてきたからこそ、伝えたいこと
人一倍努力しているのに、なぜか思うように評価が追いつかない。
そんなもどかしさを抱えている人には、ある共通点があります。
それは、決してあなたの力が足りないからではありません。
ただ、心を配る「ピント」が、ほんの少しだけずれているだけなのです。
「いい人」という称号の裏側に、自分を閉じ込めていないか。
声をかければ、快く引き受けてくれる。
不平不満も言わず、期限は必ず守る。
どんな難題であっても、最後まで投げ出さない。
そんな真面目な人は、職場の宝であるはずです。
誰よりも高く称賛されるべき存在です。
けれど、現実は時として残酷な表情を見せます。
仕事だけが際限なく降りかかり、
誰もが避けるような役回りばかりが巡ってくる。
言葉では感謝されても、いっこうに境遇は変わらない。
その傍らで、世渡り上手な誰かが悠々と果実を手にしている……。
40年という歳月のなかで、組織の光と影を見つめ続けてきた私が確信しているのは、真面目な人が報われないのは、その誠実さのせいではなく、いつの間にか「都合よく扱える相手」だと思わせてしまっているからです。
たとえば、あなた自身にもこんな記憶はありませんか。
余裕なんてないのに、頼まれるとつい頷いてしまう。
自分の彩りある時間を後回しにして、誰かの期待に応えようとする。
困っている人の顔を見ると、NOを飲み込んでしまう。
誰にも頼らず、自分ひとりで歯を食いしばって何とかしようとする……。
そんな姿は、周りの瞳にはどう映っているでしょうか。
「あの人に頼めば、何とかしてくれる」
「あの人なら、無理を言っても大丈夫だ」
「とりあえず任せておけば安心だ」
そこにあるのは、敬意というよりも、安易な「甘え」に近い感情かもしれません。
組織という生き物は、文句を言わずに動く歯車にこそ、より重い負荷をかけてしまう習性があるのです。
お店という営みでも、全く同じことが言えるでしょう。
無理な値引きを求める声に、ただ寄り添い続けるお店は、いつまでも「安さ」という尺度でしか測られなくなってしまいます。
私はセミナーを通して、この「誠実さと献身の履き違え」について説き続けてきました。
誰かの力になることと、誰かの言いなりになることは、似て非なるものなのです。
だからこそ、私は経営者の方々には、働く人との向き合い方についてこう問い直してもらいます。
「断る」という勇気を持つ人を、正しく育てていますか?
誰か一人の肩に、あまりに重すぎる荷物が載っていませんか?
便利さではなく、生み出された果実で評価をしていますか?
一人で抱え込むことを、美徳だと勘違いさせてはいませんか?
役割の線をあいまいにしたまま、誰かに背負わせていませんか?
その我慢強さを、都合よく利用してはいませんか?
そして、懸命に働くあなたには、こう伝えたいのです。
頷く前に、ふと一呼吸を挟んでみてください。
何を一番に成すべきか、あの人とすり合わせていますか?
無理な期限には、歩み寄りの提案を添えてみませんか?
今、自分が抱えているものの重さを、分かち合えていますか?
引き受けるための「約束」を、毅然と示せていますか?
ひとりで震える拳を握りしめるのを、やめてみてください。
実際、ある女性社員は「毎日目が回るほど忙しいのに、なぜ認められないのか」と、深い孤独の中にいました。
お話を聞けば、
雑多な頼まれごとをすべて受け入れ、
自分の本来の仕事は、いつも月明かりの下でこなしていました。
そこで私は、届いた依頼を丁寧に整理し、
期限を正しく見極め、
自らの本業を最優先に据えるように伝えました。
添えない分は、素直に言葉にして分かち合う。
ただそれだけで、彼女の残業は消え、評価に直結する大きな成果を手にすることができたのです。
新しい才能が開花したわけではありません。自らの熱意を注ぐべき「配分」を整えただけなのです。
あなた自身も、そうではありませんか。
何でも差し出してくれる人には、つい甘えてしまう。
けれど、凛とした自分だけの線を持っている人には、相応の敬意を持って接したくなる。
人の営みは、とても自然なものです。
人の心は誰しも正直で、誰もが無理なく生きていきたいのです。
ガンバる時でも無理にならないように少し形を変えて前に進める。
だから、損な役回りばかりが続くと嘆くときほど、
もっと頑張ろうと焦る前に、
「今の自分は、あの人に敬意を抱かせているだろうか。それとも、ただ便利だと思わせてはいないだろうか」。
真面目さは、あなたの何よりの輝きです。
けれど、その輝きを誰かのために使い切ってしまうのではなく、自分自身の誇りを守るためにも使ってください。
正しく自分を大切にできたとき、あなたの誠実さは、初めて確かな報いとなって返ってくるはずです。
