96. 競合より上でも負ける店がある理由
「一番」であることよりも、ずっと大切なこと
優秀さで競う前に、相手の心に寄り添えているか
加納光|40年間、誰よりも「選ばれない理由」と向き合い続けてきたからこそ、伝えたいこと
一生懸命に汗をかいているのに、なぜか思うように評価が追いつかない。
そんなもどかしさを抱えている人には、ある共通点があります。
それは、決してあなたの力が足りないからではありません。
ただ、心を配る「ピント」が、ほんの少しだけずれているだけなのです。
優れているから選ばれる、とは限らない。
「うちの商品の方が、あそこの店よりずっと質が良いんです」
この40年、私はそんな言葉を何度も耳にしてきました。
品質は確かに申し分ない。
お値段だって、十分に納得できる。
スタッフも皆、実直に、真面目に仕事に向き合っている。
ライバル店よりも、何倍も努力を重ねているはず。
それなのに、なぜか選ばれない。
その現実に、多くの経営者が肩を落としてきました。
けれど、忘れてはならない真実がひとつあります。
それは、「上であること」と「選ばれること」は、決して同じではないということです。
たとえば、あなたにもこんな記憶はありませんか。
A店の方が、料理は格別に美味しいし、素材へのこだわりも深い。
でも、車を停めようとすれば難しくて、入り口を潜るのにも少し勇気がいる。
頼み方もどこか複雑で、どれくらい待てばいいのかも教えてもらえない……。
一方でB店は、味はそこそこ。
けれど、ふらりと入りやすくて、待たされる不安もなく、お会計までがとても軽やか。
結局、何度も足を運んでしまうのは、B店だったりしませんか?
人は、頭のなかの点数表だけで心を決めているわけではありません。
ただ、「今日という一日を、気持ちよく過ごせるかどうか」。その予感に身を委ねて動いているのです。
美容室だって、同じことが言えるでしょう。
A店の方が、ハサミの腕前は超一流。
でも、なかなか予約が取れず、顔なじみの担当もコロコロ変わる。
説明の端々に、どこか突き放すような冷たさを感じてしまう。
B店の技術は、平均点。
けれど、思い立ったときに予約ができて、こちらの悩みを自分のことのように聞いてくれる。
そうなれば、いつしか心地よい縁が続くのは、きっとB店の方なのです。
私はセミナーを通して、この「数値化できない価値」の大切さを説き続けてきました。
思うように選ばれない組織ほど、「あそこより性能がいい」「実績がある」と、目に見える勝敗にばかり心を奪われてしまいます。
けれど、私が経営者の方々にまず見つめ直してほしいのは、もっと別の部分です。
初めて訪れた人が、一歩を踏み出すのをためらわせてはいませんか?
手に取るまでの道のりに、迷いの影を落としていませんか?
向かい合う言葉に、無言の圧力を滲ませてはいませんか?
誰かの大切な時間を、独りよがりに奪ってはいませんか?
縁を結んだ後も、その人の胸に爽やかな余韻を残せていますか?
「あそこ、いいよ」と、誰かに伝えたくなるような優しさはありますか?
たとえ商品の質で勝っていても、この心のやり取りで負けてしまえば、選ばれることはありません。
実際、ある会社では、ライバルよりも品質が高いと評価されながら、契約率が伸び悩んでいました。
調べてみると、原因は意外なところにありました。
問い合わせへの返信がどこか遅く、資料の言葉が難しすぎて、相談窓口の対応が少し素っ気なかった。
そこを丁寧に、相手の呼吸に合わせるように整えただけで、依頼は次々と舞い込むようになったのです。
変えたのは中身ではなく、**「相手への届き方」**でした。
あなた自身も、そうではありませんか。
どんなに腕が良くても、心の通わない場所は避けてしまう。
少しぐらい普通でも、いつだって笑顔で迎えてくれる場所へ戻りたくなる。
私たちは、優秀さだけを求めて生きているわけではないのです。
だから、ライバルよりも勝っているはずなのに選ばれない時ほど、視点を変えてみてください。
もっと高みを目指すことよりも、
相手が心置きなく手を伸ばせる、そんな優しい形になれているか。
その一歩が整ったとき、これまでとは違う、本当の「勝ち方」が見えてくるはずです。
