100. 口コミが起きる店は、感動より不満ゼロが先(100本ノック最終回)
誰かに教えたくなるのは、そこに「安心」を託せるから。
特別な驚きを贈る前に、まずは曇りのない誠実さを。
加納光|40年間、誰よりも「選ばれない理由」と向き合い続けてきたからこそ、伝えたいこと
一生懸命に汗をかいているのに、なぜか思うように評価が追いつかない。
そんなもどかしさを抱えている人には、ある共通点があります。
それは、決してあなたの力が足りないからではありません。
ただ、心を配る「ピント」が、ほんの少しだけずれているだけなのです。
「味はいいんだけど……」その言葉に隠れた、紹介できない理由。
「もっと評判を広げたい」「誰かの口づてに広まるようなお店にしたい」
そう願う経営者の方は、少なくありません。
思わず写真を撮りたくなるような一品を作ろう。
あっと驚くような演出で、お客さまを喜ばせよう。
話題になるような、派手な企画を仕掛けよう。
その情熱は、とても素晴らしいものです。
けれど、40年という月日を現場で重ねてきた私が確信しているのは、誰かが誰かに「あのお店、いいよ」と伝えるとき、その根底にあるのは、きらびやかな感動よりも、揺るぎない「安心感」だということです。
なぜなら、人は大切な誰かに何かを勧めるとき、「自分の言葉を信じて足を運んでくれた人に、悲しい思いをさせたくない」と、無意識に願っているからです。
たとえば、あなたにもこんな記憶はありませんか。
料理は文句なしに美味しい。
けれど、
待たされる時間が長すぎたり、
接してくれる人の言葉遣いにムラがあったり、
隣との距離が近すぎて落ち着かなかったり……。
そんなとき、「美味しいけれど、ちょっと覚悟が必要かも」と余計な一言を添えなくてはなりません。それでは、大切な友人には少し勧めにくいものです。
一方で、特別な派手さはなくても、
隅々まで手入れが行き届き、
いつ訪れても心地よく迎えられ、
納得のいく時間を約束してくれる。
そんな場所こそ、私たちは胸を張って誰かに教えたくなります。
人は、自分の言葉に責任を乗せて誰かを誘います。
だからこそ、ほんの少しでも「不安」の影が見える場所は、広まりにくいのです。
美容室だって同じことが言えるでしょう。
ハサミの腕は確かでも、予約がたびたび変更になったり、
行くたびに担当の方の雰囲気が違ったり……。
これでは、親しい人ほど紹介しづらくなってしまいます。
私はセミナーを通して、この「信頼の正体」を説き続けてきました。
思うように選ばれない組織ほど、話題性ばかりを追いかけてしまいます。
けれど、紹介が絶えない場所は、何よりも先に、揺るぎない「当たり前」を磨き上げているのです。
だからこそ、私は経営者の方々にこう問いかけます。
迎える側の心に、日によってのムラはありませんか?
誰かの大切な時間を、疎かにしてはいませんか?
隅々まで、慈しむような手入れが行き届いていますか?
差し出す価値に、嘘偽りのない納得感はありますか?
初めて訪れた人が、迷うことなく馴染めますか?
勧めてくれた人の顔を潰さない、確かな質を保てていますか?
ここが整って初めて、あなたの想いは人から人へと繋がっていきます。
実際、あるお店では、広告に頼るのを一度やめました。
その代わりに、予約のやり取りを一から見直し、
磨き上げるべき場所を徹底して整え、
どんなときも変わらない誠実さを大切にしました。
すると、常連のお客さまが、大切な人を次々と連れてきてくれるようになったのです。
特別な演出をしたわけではありません。ただ、心から「あそこなら大丈夫」と信じてもらえる場所になった。それだけのことなのです。
あなた自身も、そうではありませんか。
面白いけれど、どこか危うい場所は、誰かを誘うのをためらってしまう。
地味でも、いつだって温かく迎えてくれる場所は、自信を持って紹介できる。
人は、自分の信頼を失うような紹介は、本能的に避けるものです。
だから、口コミを増やしたいと願うときほど、派手な仕掛けを急がないでください。
「誰かに勧めても、恥ずかしくない自分たちでいられているか」。
その曇りのなさを追求することこそが、いちばんの近道になります。
