56 お客様は比較して買うのではなく除外した後に残ったものを買う
選ばれる理由を探す前に、見限られる理由を拭い去る。
「最高の一軒」を求める心より、「失敗したくない」という本能。
加納光|40年間、誰よりも「選ばれない理由」と向き合い続けてきたからこそ、伝えたいこと
一生懸命に汗をかいているのに、なぜか思うように評価が追いつかない。
そんなもどかしさを抱えている人には、ある共通点があります。
それは、決してあなたの力が足りないからではありません。
ただ、心を配る「ピント」が、ほんの少しだけずれているだけなのです。
「一番」を競う土俵に、上がることさえ叶わない理由。
多くの人は、選ばれるために「強さ」を磨こうとします。
「ライバルよりも、質の高いものを届けよう」
「比較表で並んだときに、ひとつでも多くの丸を勝ち取ろう」
「他にはない機能を詰め込んで、優位に立とう」
もちろん、その意気込みが実を結ぶ瞬間もあるでしょう。
けれど、40年という月日を現場で重ねてきた私が確信しているのは、人は「より良いもの」を探しているようでいて、その実、「嫌な予感がするもの」を真っ先に選択肢から外しているということです。
たとえば、あなたにもこんな記憶はありませんか。
今日のご飯をどこで食べようかと迷ったとき。
A店は味の評判も良く、こだわりも強そう。けれど、どこか清潔感に欠ける気がする。
B店は味こそ普通かもしれないけれど、いつ訪れても清々しく、迎え入れてくれる。
そんなとき、多くの人が足を向けるのは、きっと後者のB店ではないでしょうか。
A店がB店に劣っていたわけではありません。
ただ、A店が持つわずかな綻びが、お客さまの心のなかで「外される理由」になってしまっただけなのです。
美容室だって同じことが言えるでしょう。
ハサミの腕は超一流。SNSでの評価も申し分ない。
けれど、予約がなかなか取れなかったり、
こちらの想いを聞くよりも先に、自説を押し付けられたり、
その日の気分によって、接客にムラがあったり……。
そんな「小さなひっかかり」を感じた瞬間に、どんなに腕が良くても、次回の候補からは外れてしまいます。
私たちは、最高得点を叩き出す場所を探す前に、
**「ここで嫌な思いをすることはないだろうか」**と、無意識に自分を守っているのです。
私はセミナーを通して、この「減点を取り除く大切さ」を説き続けてきました。
思うようにいかない組織ほど、さらに魅力を足そう、特典を増やそうと躍起になります。
けれど、その情熱を注ぎ込む前に、まず正すべき綻びがあるのです。
だからこそ、私は経営者の方々に、まず今の自分たちを問い直してもらいます。
誰の瞳にも、清々しい姿で映っていますか?
頼りたいと思ったとき、すぐに手を差し伸べられますか?
相手の貴重な時間を、疎かにしてはいませんか?
初めて扉を叩く人の不安を、解きほぐせていますか?
もてなす心に、日によってのムラはありませんか?
大切な誰かに、胸を張って勧められる姿でいられていますか?
ここを丁寧に繕わなければ、どれほど磨き上げても、比較の土俵にすら乗せてもらえません。
実際、ある会社では、ライバルよりも品質が高いと評価されながら、成約に結びつかない日々が続いていました。
紐解いてみれば、その理由は技術の差ではありませんでした。
寄せられた想いへの返信がどこか遅く、
手渡される資料が独りよがりで、
向き合う人の言葉に、寄り添う優しさが欠けていたのです。
そこを正しただけで、依頼は次々と舞い込むようになりました。
勝負に勝ったのではありません。「選ばれない理由」を、一つひとつ拭い去っただけなのです。
あなた自身も、そうではありませんか。
どれほど美味しそうでも、清潔さを感じられない場所は避けてしまう。
どれほど条件が良くても、やり取りが煩わしい相手は後回しにする。
どれほど優秀でも、心根にトゲを感じる人とは、距離を置きたくなる。
私たちは、いつだって「嫌な予感」を敏感に察知し、それを避けて生きています。
だから、思うように選ばれないときほど、もっと上を目指そうと焦らないでください。
「自分たちは、知らないうちに相手から外されてはいないか」。
その謙虚な眼差しを持てたとき、滞っていた流れは、劇的に変わり始めます。
