88. チラシで失敗する店は、言いたいことが多すぎる
届けたい想いが、誰かの手を止めてしまう前に。
「すべて」を語ろうとするほど、心は離れていく。
加納光|40年間、誰よりも「選ばれない理由」と向き合い続けてきたからこそ、伝えたいこと
人一倍努力しているのに、なぜか思うように評価が追いつかない。
そんなもどかしさを抱えている人には、ある共通点があります。
それは、決してあなたの力が足りないからではありません。
ただ、心を配る「ピント」が、ほんの少しだけずれているだけなのです。
欲張りな一枚が、大切な出会いを遠ざけている。
チラシを手に取る人の姿を思い浮かべてみてください。
思うように人が集まらないお店ほど、その一枚に何もかもを詰め込もうとしてしまいます。
「あのおすすめ商品も載せたい」
「自分の大切にしている想いも綴りたい」
「案内図も大きく、クーポンも忘れずに」
「積み重ねてきた歴史や、素材へのこだわりも全部……」
その溢れんばかりの熱意は、痛いほどよく分かります。
大切に育ててきたものだからこそ、伝えたいことが尽きないのは当然のこと。
けれど、そうして欲張ってしまった結果、皮肉なことに「何が言いたいのか分からない」一枚になってしまうのです。
私は40年、そんな「届かない想い」を何度も目にしてきました。
たとえば、あなたにもこんな経験があるはずです。
ポストに届いたチラシ。
隙間なく埋め尽くされた文字、主張の強い色使い。
写真は溢れ、お得な情報がこれでもかと並んでいる。
一見、サービス精神に満ちているようですが、あまりの情報の多さに気が滅入って、そのままゴミ箱へ……。そんな瞬間はありませんでしたか。
反対に、心に残るのはこんな一枚。
潔く、たった一つの言葉。
目を惹く一枚の写真。
「何のお店か」が瞬時に分かり、「自分にとってどう嬉しいか」が直感的に伝わってくる。
そんな余白のある紙は、つい手を止めて見入ってしまうものです。
人は、情報の量に比例して心を動かすわけではありません。
むしろ、迷わずに済む「分かりやすさ」に、そっと背中を押されるのです。
これは、日々の人間関係でも同じことが言えるかもしれません。
初めて会った瞬間に、自分の経歴や実績、趣味から価値観までを一度に語り尽くそうとする人。
決して悪い人ではないけれど、どこか圧倒されて、少しだけ疲れてしまいませんか。
必要なことだけを穏やかに話してくれる人のほうが、また会いたいという余韻が残るものです。
私はセミナーを通して、この「引き算の美学」について説き続けてきました。
選ばれない組織ほど、その一枚に社内の「あれもこれも」という事情が透けて見えてしまいます。
けれど、チラシは決して説明書ではありません。
誰かの心を動かし、最初の一歩を誘い出すための「きっかけ」に過ぎないのです。
だからこそ、私は経営者の方々にこう問いかけます。
届けたい願いは、たった一つに絞れていますか?
誰に微笑みかけているのか、一目で分かりますか?
相手の喜びが、理屈抜きで伝わりますか?
読み込まなくても、大切なことが心に届きますか?
色や言葉が、相手を疲れさせてはいませんか?
次にどうすればいいか、優しくエスコートできていますか?
ここを整えるだけで、返ってくる反応は劇的に変わります。
実際、あるお店では、10個もの商品を並べるのをやめました。
一番の人気者だけに絞り込み、訪れる楽しみを明確にして、文字の量を思い切って半分以下にしたのです。
すると、客足は驚くほど戻ってきました。
何かを足したからではありません。余計なものを削ぎ落としたからこそ、想いが真っ直ぐに届いたのです。
あなた自身も、そうではありませんか。
読みづらい案内は後回しにするし、煩わしそうな画面はすぐに閉じてしまう。
私たちは、自分を疲れさせるものを、無意識のうちに避けて通っています。
だから、伝えたいことがあるときほど、言葉を尽くしすぎないでください。
中身を増やすことではなく、相手が一瞬で受け取れる形まで、丁寧に削り取ること。
その潔さが、滞っていた流れを鮮やかに変えてくれます。
