32. 成果が出る人は、人に頼るのがうまい
ひとりで震える拳を握りしめるよりも、誰かと手を取り合うしなやかさを。
そのひたむきな努力が、孤立という名の迷い道に迷い込まないために。
加納光|40年間、誰よりも「選ばれない理由」と向き合い続けてきたからこそ、伝えたいこと
一生懸命に汗を流しているのに、なぜか思うように評価が追いつかない。
そんなもどかしさを抱えている人には、ある共通点があります。
それは、決してあなたの力が足りないからではありません。
ただ、心を配る「ピント」が、ほんの少しだけずれているだけなのです。
「自力」という誇りに、自分自身を閉じ込めてはいませんか。
優秀な人、と聞いて思い浮かべるのはどんな姿でしょうか。
何でもひとりで完璧にこなし、
決して弱音を吐かず、
どんな難題も自力で解決していく……。
けれど、40年という歳月のなかで数多の仕事の現場を見つめ続けてきた私が確信しているのは、本当に鮮やかな成果を手にする人は、「誰かの力を借りる」ことが驚くほど洗練されているということです。
たとえば、あなた自身にもこんな記憶はありませんか。
分からないことがあっても、聞き出せない。
予定が溢れかえっているのに、すべてを抱え込んでしまう。
頼みごとをすれば、相手に嫌な思いをさせてしまうのではないかと怯え、
結局、ひとりで何とかしようと歯を食いしばる。
真っ直ぐで誠実な人ほど、そんなふうに自分を追い込んでしまいがちです。
けれど、その頑なさが、皮肉にも
歩みを遅らせ、
届けるものの質を損ない、
あなた自身の心を削り取ってしまうのです。
周りから見ても、あなたが今どんなに苦しいのか、手を貸すべきなのはいつなのかが見えなくなってしまいます。
一方で、誰からも愛されながら結果を出す人は、
迷いが生まれたら早めに言葉を交わし、
自分よりもその一事に長けた人に、敬意を持って委ね、
周りの人々の力を、ひとつの大きな流れへと変えていきます。
それは決して責任の放棄ではありません。想いをつなぎ、より良い明日を共に創り上げる知恵なのです。
お店という営みでも、全く同じことが言えるでしょう。
店主ひとりがすべてを背負い込み、疲れ果てている店よりも。
仕入れを愛でる人、装いを整える人、お客様の心に寄り添う人。
それぞれの得意が響き合っているお店のほうが、訪れる人の心に深く残るはずです。
私はセミナーを通して、この「共鳴する力」について説き続けてきました。
大きな成果とは個人が孤独に戦い抜いた末にあるものではなく、誰かと肩を並べて歩んだ先にこそ、実を結ぶものなのです。
だからこそ、私は経営者の方々にも、働く人を育む場面でこう問い直してもらいます。
ひとりで抱え込むことを、美徳だと勘違いさせてはいませんか?
迷いを感じたとき、すぐに声をかけられるような雰囲気を作れていますか?
その人の「好き」や「得意」に、ふさわしい役割を託せていますか?
誰かに寄り添い、共に悩むことを、正当に評価していますか?
助け合うことが当たり前の巡りになるような、仕組みを編んでいますか?
特定の誰かにだけ、重すぎる荷物を背負わせてはいませんか?
そして、焦燥感に揺れるあなたには、こう伝えたいのです。
三十分悩んで光が見えないのなら、誰かにその想いを打ち明けてみること。
何を実現したいのかを整えてから、協力を求めてみること。
暦の期限を添えて、誠実に願いを届けること。
相手が輝ける力を、遠慮なく借りてみること。
力を貸してもらったら、ありったけの感謝を言葉にすること。
あなたもまた、誰かの欠けた部分を補う存在であること。
実際、ある女性社員は「毎日夜遅くまで残っているのに、思うような成果が出ない」と、深い孤独の中にいました。
お話を聞けば、彼女はすべてを自分ひとりで処理しようとし、
誰にも相談せず、
誰かに頼ることを極端に恐れていました。
そこで私は、確認すべきことは早めに周りに投げかけ、
自分にしかできないこと以外は仲間と分かち合い、
得意な人に力を借りるよう伝えました。
ただそれだけで、彼女の残業は消え、生み出す成果は目に見えて増えていきました。
能力が上がったわけではありません。自分ひとりの腕に頼るのをやめ、周りの豊かな力を味方につけただけなのです。
あなた自身も、そうではありませんか。
重い荷物も、ひとりで抱えれば身体を痛めてしまうけれど、誰かと一緒に持てば、足取りは驚くほど軽やかになるはずです。
人の営みは、とても自然なものです。
人の心は誰しも正直で、誰もが無理なく生きていきたいのです。
ガンバる時でも無理にならないように少し形を変えて前に進める。
だから、もし今、あなたが自分の力不足に悩んでいるのなら、
さらに独りで頑張ろうとする前に、
「この仕事は、誰の力を借りれば、もっとたくさんの人を喜ばせられるだろう」と、自分自身に問いかけてみてください。
誰かに頼れる人とは、決して弱い人ではありません。
どうすれば最高の成果を届けられるかを知っている、本当の意味で賢く、そして温かな人なのです。
