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『新しい階級社会』について

日本国内の格差拡大が深刻であり、相対的貧困率は15.7%(7人に1人)で、G7中最悪となっている。

所得や富の不平等さを測る指標である「ジニ係数」においても、OECD諸国の中では、米英よりは低いものの、所得格差の大きい国とされている。

かつて、日本は「一億総中流」と言われた時代もあったし、「最も成功した社会主義国」とまで称されたこともあった。かつては、それくらいに貧富の差が少ない国というイメージがあったのだろう。

僕の感覚では、2000年前後頃、小泉・竹中コンビニよる規制撤廃が進んだ頃、非正規雇用者が急速に増大した時期に格差が顕著になったように思うのだが、『新しい階級社会』によれば、日本の格差拡大が始まったのは、1980年前後のこととあるので、バブル景気以前から既に格差拡大は徐々に進行していたことになる。

本書によれば、現在の日本には、「資本家階級」を頂点として、「アンダークラス」を最下層とする階級構造が存在する。これら2つの間には「新中間階級」「正規労働者階級」の2つの中間階級がある。また、これらとは別枠となるが、「旧中間階級」という自営業者や農業従事者とその家族が存在する。あとは、「パート主婦」という「新中間階級」「正規労働者階級」の夫を持つ層がある。

これらのうち、最も最下層にあるのが「アンダークラス」で、推定890万人ほどであるという。いわゆる「ワーキングプア」のイメージに近い。これ以外に59歳以下で専業主婦以外の失業者・無業者というのも存在し、推定280万人ほどとされる。

「アンダークラス」の特徴としては、①女性比率が高い(56.8%)。②年齢層が総じて高めである(40歳代(32.9%)、50歳代(25.4%))。これは、概ね「就職氷河期世代」と重なる。「就職氷河期世代」とは、93年から04年に社会人になった世代のことなので、生まれ年だと、70年から86年生まれが該当する。既にもう若くはないのだ。③平均年収は216万円程度であり、貧困率は実に37.2%である。④未婚者が高い。男性の未婚率が74.5%もある。⑤業種は、事務とマニュアル職(生産現場、技能職、運輸・通信、農林漁業従事者等)が多い。⑥社会的に孤立しがちで他者に対する信頼感が弱い。⑦健康上の問題(メンタル面含む)を抱えていることが多い。

「アンダークラス」が増えた理由は、経済のグローバル化であるという。先進国の製造業は競争力を失って衰退するか、安価な労働力を求めて中枢部分以外は海外移転する。結果として、先進国の産業の中心を、金融とか情報サービス業が占める結果、先進国の職業構造は、高度な技能や判断力を必要とする高賃金職種と、低賃金の単純労働に分極化する。

歴史的に見ても、資本家階級は労働者階級を搾取する構造が認められるが、新中間階級のような高度技能職も搾取する側であり、また正規労働者階級の賃金の低下を抑えようと思えば、アンダークラスを搾取することによって調整するしかない。いわば、「資本家階級」「新中間階級」「正規労働者階級」という企業の「メンバーシップ型雇用」の恩恵を受けている人たちを守るために、「アンダークラス」が捨て石のようになっている構図が見えてくる。

だが、「アンダークラス」は未婚者が多いということは、次世代の労働力の再生産が行なわれないことを意味する。一方、グローバル経済が存続する限り、「アンダークラス」は今後も必要である。となると、他の階級の次世代の子ども達の一部から、「アンダークラス」に転落してもらわなければならない。ただし、「アンダークラス」は子どもを産み育てず、後には何も残らない。ブラックホールのようなものである。

格差拡大は、社会に対して多くの弊害をもたらす。「アンダークラス」を中心とする貧困層が増大することで、多くの人が困難な人生を強いられる。教育の格差、命の格差が生み出される。社会保障支出が増大し、国家は財政危機に陥る。消費が伸び悩み、景気は低迷する。社会から連帯感が失われて、人々の社会活動への参加が減少し、犯罪が増加することで、徐々に社会が病んでいくことになり、社会の持続可能性が失われて行く。

つまり、格差拡大によって損失を被るのは、「アンダークラス」等の下層階級の人々だけでなく、社会全体が損失を被るという点を看過してはならない。格差解消、所得再分配については、自分がどこの階級に所属するかに関係なく社会全体の課題として取り組んでいく必要があるのだ。

本書では、日本人の政治意識をクラスター分析することで、5類型に整理している。すなわち、「リベラル」(26.4%)、「伝統保守」(21.0%)、「平和主義者」(20.9%)、「無関心層」(18.5%)、「新自由主義右翼」(13.2%)である。ただし、これら5類型が政党支持を決定しているわけではなく、カラーの明確な「新自由主義右翼」でも4割以上、「伝統保守」でも5割近く、他の3クラスターは6割前後が無党派層である。つまりこれは、日本の現在の政党システムが、日本人の政治意識の構図と相当にズレてしまっていることを示している。

ちなみに、所得再分配や生活困窮者への支援に対する理解が高いのは、「リベラル」以外に、実は「伝統的保守」であり、「新自由主義右翼」が極端に低いという特徴がある。いわゆる「自己責任論」に対する考え方の違いである。

自民党は、野党転落、与党復帰の過程を経て、与党の民主党と差別化するために右傾化を進めたとされている。「岩盤保守」「新自由主義右翼」に分類される層の要求も受け容れて地盤強化を優先した結果であるという。そして「新自由主義右翼」に対する遠慮もあって、自民党が民主党からの政権奪取以降、岸田政権までの間、自民党は当該分野には目立った取り組みを行なって来なかった。

しかしながら、もしも自民党が「伝統保守」にスタンスを回帰させることができるならば、格差解消の問題で自民党と野党とが鋭く対立することはなくなる。つまり、「リベラル」を支持基盤とする野党と、「伝統保守」を支持基盤とする自民党の二大勢力を中心とする政党システムが実現するならば、格差の縮小と貧困の解消が必要という社会的合意が形成されて、日本社会にとっては明るい展開が期待できるというのが著者の見解である。

日本の政党システムのブラッシュアップはさほど簡単に進むようには思わないものの、もしも実現するならば、日本にとっては明るい未来が展望できそうである。

今よりも格差が縮小し、より平等に近い階級構造のもとで、多くの人々が平和に生活を送れるようになれば、各階級ともに次世代を再生産するに足る所得を獲得できることになり、日本の出生率も回復することになる。消費が促進されれば、景気も上向くし、経済の安定成長も期待できるというものである。

繰り返しになるが、誰かを犠牲にして成り立つようなシステムがサステナブルであるはずがない。いずれどこかで行き詰るし、貧しいのは自己責任という話では済まされない。

『静かなる大恐慌』(柴山桂太)にも、「グローバル化が進むほど政府規模は大きくなる」とある。つまり、「グローバル化を進めることは、「小さな政府」のもとでは不可能」であり、福祉の拡大を伴わないと、社会を維持することは難しくなるのだ。


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