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掌編小説『ベジタブル』コーヒー1杯の小説シリーズ


僕はお野菜が好きだ。

キャベツをむしって食べるのも好きだし、細く切ったピーマンをむしゃむしゃと食べるのも好き。
セロリにマヨネーズをつけて食べるのも好きだし、きゅうりに味噌をつけて食べるのも好き。
ナスの漬物、からしをつけて食べるとたまんないよね。
大根のお味噌汁、これを飲まなきゃ朝が始まらないよ。
口の中が甘酸っぱい汁でじゅわーっといっぱいになるトマトは、晩ごはんにかかせない。
そんなトマトと相性ばっちしなものといえば、レタスだよね。

そう、僕は本当にお野菜が大好きなんだ。でも、ママのことはもっともっと好き。
ママもお野菜が大好きだから、僕がお野菜を食べていると、いつも顔がくしゃくしゃになるくらいにっこり笑いながら褒めてくれるんだ。
こんなの、野菜好きにならないほうがおかしいよね。

それにママはお料理の天才なんだ。そのまま食べても美味しいお野菜を、魔法みたいにもっと美味しくしちゃう。
ぐつぐつと煮込んで砂糖みたいに甘くなったにんじんは、僕の大好物の一つだ。
にんじんが嫌いだなんて言ってる幼稚園の友達は、たぶんママがお料理上手じゃないから、ああいうおいしいにんじんを作ってもらえないんだろうなって思う。
ねぇママ、僕もママみたいにおいしいにんじん料理を作って食べさせてあげるから、早く元気になってね。
この前僕が倒れてお医者さんに連れていかれて以来、どんどんママは元気がなくなっちゃって、昨日からはずっとお布団で眠ったままだ。
どうしちゃったのかなぁ。仕方ないから、今日はママの代わりに僕がお買い物に行ってくるよ。たくさんお野菜を買ってくるから待っててね。



むにゃむにゃ、ううん、ここはどこだろう。たしか買い物に行って、帰ってきてがんばってにんじんを切って、一生けんめいお鍋を用意したりして、そのうちに頭がぼーっとして、体がふわふわしてきて、ええっとそれから…。んんっと、あれっ?もしかしてここはこの前連れていかれたお医者さんかな?あ、僕がベッドで横になってるのが見える!変なの!…ああ、もしかしたら今僕は寝ちゃってて、夢を見ているところなのかもしれない。あ、ママだ!ママがいる!お医者さんと何か話してるぞ。なんだろう。僕のことを話してるのかな。


「いいですか。お子さんは今、たくさんの栄養を必要としているんです。骨や筋肉が形成される重要な時期にいるんですよ。」

「だから、なんだっていうんです?」

「あの、ですから…。しっかり肉や魚も食べなければ栄養不足になり、成長に悪影響を及ぼすんです。現にお子さんは気を失うほどに体調を崩してしまっているじゃないですか。」

「だから肉を食べさせろと?肉を食べさせてこの子の父親のような野蛮な男に育て上げろと先生はおっしゃるんですか?」

「いや、そういうわけでは…。それにお肉を食べたからと言って、」

「肉を食べるから男は獣のようになるんです。性欲を剥き出しにして他の女に手を出すようになり、身内には暴力を振るうようになるんです。あんなものは人ではありません。私はこの子をあんな化け物にするわけにはいかないんです。」

「お肉だけじゃなくて、カルシウムを摂るために牛乳も…。」

「牛乳!あんなものを飲ませ続けるからいつまでたっても女に頼りきりのクズみたいな男が出来上がるんです。浮気性で、暴力を振るうくせに、私に頼ってばかりの…。先生も男だから、そういうクズを擁護するんでしょう?だからそんなものばかり食べさせようとするんですね。ほんとに男は、みんな、みんな総じてクズだ。どいつもこいつも…下劣で、汚らしくて、ゴミみたいな…。」

「あー…。ええっと、もうはっきり言いますけどね、このままじゃお子さんは長くは生きられないですよ。それでもいいんですか?大事なお子さんなんでしょう?」

「…。」

「それに、もうこの子は母乳を経験しているんでしょう?なら既にミルクを飲ませているんだから、あなたの理論で言うなら、いわゆる手遅れというやつじゃないんですか?」

「あれはいいんです。私の体から出たものだし、ずっと飲ませていたわけじゃないし。」

「なんにせよ、一時的にでもお肉を食べさせてあげてくださいよ。重い病気にでもなってしまったらどうするつもりなんですか?」

「…。」

「黙ってないで、答えてください。」

「…肉…でも…しょう。」

「え?」

「私の肉でも別に、かまわないんでしょう?それなら、まあ食べさせても…。うん、そうね、これを食べれば、なんなら私みたいにお淑やかな子に育ってくれるかも…。」

「あの、それはどういう、」

「そう、母乳の時と同じで少しの間だけ。あくまでちょっとだけだから…。」

「ちょっと、何を考えて、」

「はぁ、先生、どうもありがとうございました。おかげでこの子を助けてあげられそうです。」

そういえば、あの日からママは不思議なシチューを作るようになったんだ。お野菜とは違った、なんか変な味のシチューだった。でも、嫌じゃなかったな。あれを食べ始めてから、少しずつ元気になっていったし。そういえばママは、あのスープを作るときものすごく苦しそうな顔をしてた。僕を元気にするために無理しちゃったのかな。ごめんよう、ママ。


はっ…。あれ、ああ、起きたんだ。まさかお料理の途中で寝ちゃうなんて思ってなかった。僕はなんてバカなんだろ。さてと、寝ちゃった分を取り返すためにもがんばってお料理作らなきゃ。ねぇママ、僕もうこんなに元気になったよ。お買い物にも行ってこれたよ。さあ、この前ママが僕を助けてくれたから、今度は僕がママを助ける番だ。お料理ができあがったらお布団まで持っていって食べさせてあげるから、もう少しだけ待っててね。

大好きだよ、ママ!


この作品は、以下の曲を聴いている際にふと思い立ち、勢いで執筆しました。

ちなみにこの曲の歌詞と本作品には何の関係もありません。でも、いいですよこの曲。なんか不気味で。というかこのアルバム自体恐ろしく不気味で最高です。僕の大好きな音源の一つ。是非聴いてみてください。

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