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掌編小説『うしろ姿』 コーヒー1杯の小説シリーズ


私だけが知ってる秘密。

あなたのうなじに潜む影。

私だけが知っている秘密。

襟足から仄見える、ちっちゃなかわいいあなたのほくろ。


あなたは化学の授業が始まると、いの一番に寝てしまう。
そして終わりのチャイムがなると同時に、気持ちよさそうに伸びをする。
その一瞬だけ世界が変わる。私だけの聖域が生まれる。
普通にあなたを見ている人たちには、絶対に見つけられっこない代物。
大事な大事な、私だけの、宝物。


あなたの周りにはいつも人が溢れている。
男友達はもちろん、女の子達も、どこでも一緒。
みんなあなたを憧れの眼差しで見てたり、蕩けて何も言えなくなってたりする。
冗談混じりに話しかけてる女の子だって、よく見ればちょっぴり頬を赤らめてる。
そう、あなたを好きじゃない人なんて、誰一人いない。
あなたの所作を見ていれば、誰だって、どうしたって好きになってしまう。

制服を着ていれば、すらっと伸びた綺麗な体のラインがどうしたって目につく。
体操服を着ていれば、程よく引き締まった二の腕に吸い込まれそうになる。
お行儀よく、軽やかな足取りで歩いていくあなた。
いつまでも見ていたくなる。
一番の親友にさよならをし、一人家路へ就くあなたの後ろ姿を。


あなたが誰にでも優しいことはみんなよく知っている。
だけど、帰り道で猫を見つける度に石をぶつけているあなたの姿は、誰も知らないはずだ。
猫はあなたを見て驚き、逃げようとする。
あなたはすぐさま大きな石を拾い上げて、正確に猫の体へ叩きつける。
悶え苦しむ猫の姿を見て、すたすたと立ち去っていくあなたの後ろ姿。
それを見ていると、たまらなく愛しくなる。
今この人は私だけのものなんだなって、心の底から思うことができる。


家に着いたあなた。
夕方になる、夜になる。深夜になる。誰も帰ってこない。
あなたの部屋の電気は、まだ煌々と輝いている。
日付が変わる。ようやく誰かがやってくる。
暗がりでよく見えないが、同じクラスのあの子に違いない。
あなたの部屋のカーテンに、影が一つ追加される。
影と影はお互いに近づいていき、口のあたりでぴったりとくっつく。
そして二人はゆっくりと重なりあい、淫らに艶やかに動き出す。
私の胸は高鳴り始め、体の隅々まで火照ってくる。
頭とお腹が熱くなってきて、そのままとろんと溶けてしまいそうになる。

ねえあなた、いつまでもそうしていてね。
お願いだから、ずっと他の女を愛し続けていて。
また来週になれば、別の人を連れてくるんでしょ?
それでも全然構わない。けれど、私だけはやめてほしい。
私はあなたの後ろ姿が好き。あなたの黒いシルエットが好き。
いつも私の前にいてくれるから、私はあなたを好きでいられるの。
誰でも知ってるあなたの顔も、きっと割れているであろう見事な腹筋も、
実際に見てしまったら、幻滅するに決まってるから。
明日も私はいつものように、あなたが席につくまでずっと顔を伏せているつもり。
だから大好きなあなた。

絶対に、話しかけたりなんかしないでね。


この作品における影の描写に関しては、以下の曲を参考にさせて頂きました。

全然有名じゃないですけど、とても良い曲なので是非聴いてみてください。

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