【めぐる物語】 とりかえ
今回は、出品作に繋がる物語をご紹介します。
絵から見る世界と、言葉から感じる世界。それらが、観る人の心のなかで「物語」として繋がるとき、どんな鑑賞体験を得られるでしょうか?
試みの実験作、お楽しみいただけますと幸いです。
◇◇◇
幻想から現実を描く、物語のはじまり。
月と衣がつないだ縁。
たけはみず たけはみず
たけはくれなゐ たけかくし
おりのような たけのなか
なくしたころも あかころも
さがしさまようわたしをみつけた
あなたにたくす つきあかり
◇◇◇
青の静寂と、白霧満ちる竹林のなか。
一匹の蛇が、泣きながら這いずっていた。
「かえして…、かえして…!」
蛇の周りには、青の静寂を吸い上げながら、空に向かってずるずると伸びる竹たちが、取り囲んでいる。それはまるで、蛇を閉じ込める檻のようであった。
「わたしの衣をかえして…!」
蛇は泣きながら、どこまでも続く竹林のなかを這いずり続けた。
◇
ここで、一匹の若狐が登場する。
この狐、何に秀でるも無く、平凡を絵に描いたような凡狐だが、名前だけはいっちょまえに、幽狐(ユウコ)と名乗っていた。母は千年を生きる白狐だというが、本当か否か、知るは本人ならぬ本狐のみ。今は親元を離れ、一狐立ちした旅の途上である。
さて、そんな若狐が、都果ての竹林小径を通りかかったときのこと。眼前に、見慣れぬ赤布が落ちているのを見つける。これが全てのはじまりだとは、この凡狐、知る由もない。
「わぁ!きれいなひらひらだっ!」
ユウコ、まだまだ頭が子狐。火を好む狐の性か、赤い布を大層気に入ったようだ。ユウコは赤布を咥えると、四本の小さな脚をぱたたっぱたたっと、めちゃめちゃに動かして、飛び跳ねたり走ったり、はためく赤布の動きに終始瞳を輝かせた。
その様子に、竹林の竹たちはざわめき、噂し合った。
「姫の衣を、狐が盗ったらしいぞ。」
「いやいや、ハハタケ様がお与えになった御衣を、恩知らずの姫が捨てたんだ。」
「いやいや、ハハタケ様は我々にお命じになったじゃないか。『あの衣を竹林の風で吹き飛ばせ』と。」
「なんでそんなこと仰ったんだろうな?」
「知るもんか。ハハタケ様が仰ることは全て正しい。」
「なるほど。違いない、違いない。」
赤布に夢中になったユウコは、なびく布の動きにつられて、赴くままに竹林の奥へ駆けていく。
ぱたたっ、ぱたたっと、狐の四肢と布のはためきがリズムを刻み、陽が傾きはじめた竹林の薄暗さを、ユウコに忘れさせた。
◇
日暮れになっても、蛇は泣きながら這いずり続けていた。もちろん、人のように赤顔し、涙を流しておいおいと泣くわけではない。蛇の心が、涙に暮れているのだ。
「もう、もどれない…もどれない…。」
その時、薄暗い竹林のなかを何かが走ってくるのが見えた。ぱたたっ、ぱたたっと、はためく赤が目に入る。
蛇は首をもたげ、丸い鏡のような瞳を輝かせた。
「あれは…!」
(つづく)
この物語の続きは、展覧会会場で絵画作品として発表しています。
絵描きが書く文章で、その道の文筆家の方々には到底及ばない、恥ずかしい素人芸ではございます。
しかし有難いことに、私の絵画作品を観たお客様方から「どんな物語なんですか?」とお尋ねいただくことが増えまして、未熟なりに精一杯、言葉を並べてみた次第です。
ぜひ展覧会にご高覧いただき、作品の前で物語の続きをご想像(ご妄想)いただけますと嬉しいです。作家が在館しておりましたら、お気軽にお声がけください。そして「あなたの考えた物語」を是非、教えてください。
展覧会概要は、下記投稿をご覧ください。
この展覧会は、4月に東京、5月に京都へ巡回します。
