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高いギターほど弾かなくなる。私がギブソンよりエピフォンを欲しくなった理由

部屋の隅に、黒いハードケースがある。

金色の金具がついた、いかにも頑丈そうなケースだ。

その中には、ずっと憧れていたギターが眠っている。

ケースを開けると、独特の甘い匂いがする。

深い色の塗装。

光を受けて浮かび上がる木目。

指板に並ぶインレイ。

手に取るたびに、やはり美しいと思う。

けれど最近、そのギターを弾く回数は、それほど多くない。

大切にしすぎているからだ。

傷をつけたくない。

汗がついたままにしたくない。

壁に立てかけて、倒したくない。

気温や湿度も少し気になる。

弾き終えたら、クロスで拭く。

ケースへ戻す。

留め金を、一つずつ閉じる。

ギターを弾くことが、いつの間にか小さな儀式になっていた。

儀式は美しい。

ただ、疲れている夜には、少し重い。


憧れを手に入れた、その先で

高いギターを買えば、もっと弾くと思っていた。

音楽への情熱も深くなる。

練習量も増える。

少しだけ、演奏まで上手になるような気がしていた。

もちろん、そんな魔法は起きなかった。

よい楽器には、よい楽器の喜びがある。

音を出した瞬間に分かるものもある。

手に伝わる振動。

コードを鳴らしたあとの余韻。

長い間、多くの人が憧れてきた理由を、指先で理解できる瞬間がある。

それでも、楽器は弾かなければ音が出ない。

どれほど美しくても、ケースの中では沈黙している。

ある夜、仕事から帰った私は、ギターを弾こうと思った。

けれど、ケースを出して、机の周りを片づけ、弾き終えた後に手入れをすることを考えると、少し面倒になった。

結局、スマートフォンを見て、そのまま眠った。

そのとき、ふと思った。

私はギターを所有しているのだろうか。

それとも、ギターを守る係になったのだろうか。

気楽に使えるものが、日常を変える

今、私はエピフォンのES-335が気になっている。

もちろん、ギブソンの代わりが欲しいわけではない。

優劣だけを比べたいわけでもない。

欲しいのは、もっと気楽に手を伸ばせるギターだ。

部屋に出しておく。

帰宅して、ネクタイを外す前に一度鳴らす。

傷を見つけても、少し残念に思うだけで済む。

週末には、そのままスタジオへ持っていく。

音楽を始めるまでの扉が、もっと軽いもの。

そんなギターが欲しい。

人は、価値の高いものを大切にする。

それは自然なことだ。

けれど、大切にすることと、使わないことは、とてもよく似ている。

高級なノートを買ったのに、字を間違えるのが嫌で書けない。

よい服を買ったのに、汚れるのが怖くて着られない。

高価なカメラを買ったのに、持ち歩くのが重くて家に置いたままになる。

道具はときどき、値段が上がるほど、こちらへ礼儀を求めてくる。

丁寧に扱ってください。

よい場面で使ってください。

失敗しないでください。

そう言われているような気がする。

一方で、少し気楽な道具は、黙ってこちらを待っている。

雑でもいい。

とりあえず始めよう。

うまくできなくても、また使えばいい。

その気軽さが、行動を生む。

ハードケースが部屋にあるだけで

不思議なことに、私はハードケースそのものも好きだ。

部屋の隅に置いてあるだけで、少し気分が上がる。

音楽を続けている人の部屋に見える。

次のライブやセッションを、静かに待っているようにも見える。

合理的に考えれば、場所を取る。

軽いソフトケースの方が便利かもしれない。

それでも、黒いケースが視界に入ると、

自分には仕事以外の時間もあるのだと、思い出せる。

会社では、営業や管理職として振る舞う。

数字を確認する。

判断する。

説明する。

誰かの相談に答える。

けれど家に帰れば、まだうまく弾けないフレーズを繰り返す人間に戻れる。

ハードケースは、その境界線に置かれた小さな標識なのかもしれない。

道具の価値は、触れた回数で決まる

仕事の道具も同じだと思う。

機能の多いシステムが、よいシステムとは限らない。

高価なソフトが、仕事を速くするとも限らない。

立派な手帳を持っていても、開かなければ予定は整理されない。

大切なのは、使う人が迷わず手を伸ばせることだ。

起動するまでが速い。

操作に気を使わない。

失敗しても、すぐやり直せる。

日常の中に自然に置いてある。

道具の価値は、価格や性能だけでは測れない。

何度、生活の中で使われたか。

その回数によって、初めて道具は人生の一部になる。

高いものを持つ喜びはある。

憧れを手に入れることにも意味がある。

だから私は、ギブソンを手放したいわけではない。

あのギターには、あのギターにしかない時間がある。

ただ、それとは別に、毎日のように触れる一本が欲しい。

疲れた夜にも。

少し酔った週末にも。

仕事でうまくいかなかった日にも。

ケースを開ける理由さえ要らないギターが欲しい。

最も価値のある道具は、最も高かった道具ではないのかもしれない。

気づけば傷だらけになり、それでも何度も手に取ったもの。

使った時間が染み込み、いつしか自分の癖まで覚えてしまったもの。

そういう道具が、最後にはいちばん愛おしくなる。

まだ、エピフォンを買うと決めたわけではない。

けれど、店で見かけたらきっと触ってみる。

音を確かめるだけではなく、自分が気楽に手を伸ばせるかを確かめたい。

上手に弾くためではない。

もっと弾くために。

道具を守る人生ではなく、道具と一緒に時間を使うために。


あなたの部屋にも、大切にしすぎて使えなくなったものがあるでしょうか。

そして、傷だらけでも、なぜか何度も手に取ってしまうものはあるでしょうか。

この記事の中に思い当たる道具があったら、「スキ」でそっと教えてください。

これからも、仕事と趣味の間にある、うまく言葉にできない気持ちを書いていきます。同じような時間を大切にしている方に、また読んでいただけたらうれしいです。


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