第47話(今宵の一膳)千歳烏山「鳥ふぢ」一本一本の火入れに宿る隠れ家の夜
静かな夜に
山形新幹線は東京に向けて定刻通りに走り出した。
最後の確認の仕事を終え、ノートパソコンを閉じる。
バックから今月号の Car Graphic を取り出し、表紙をめくった。
山形新幹線で帰るときは、雑誌やら小説を読む。
そんな機会が、いつの間にか多くなった。
i-musicで流していたのは、懐かしい Shakatak の Streetwalkin’。
窓越しには、ゆっくりと暗くなっていく夏の風景が続いていた。
この日は、いつもより少し早めの新幹線に乗ることができた。
東京でひとり、何か美味しい和食でもいただこうか。
何をいただくか。
いただくなら、やはり和食がいいだろう。
……そんなことを考えながら、好きな「焼き鳥屋」に行くことに決めた。
東京駅の新幹線改札口を出て中央線快速に乗り継ぎ、新宿へ。
新宿から京王線の特急に乗り換え、満員電車の中、久しぶりに「千歳烏山駅」で下車した。
1.千歳烏山の夜の気配
京王線の中でも、夜の似合う街が千歳烏山だ。
南口の商店街の道を進む。
駅前の灯りは派手ではないが、どこか温度のある明るさを持っていた。
この道から左の路地に、「鳥ふぢ」という美味しい焼き鳥の店がある。
週末の夜、ひとりふっと気持ちを切り替えたくなったときに選ぶには、
ちょうどいい店なのだと思う。
2.扉を開けると、焼き鳥の匂いが迎えてくれる
暖簾をくぐって一歩店内に入ると、焼き鳥屋らしい香りがふわりと立ち上がる。
常連らしき背中が数人、静かに並んでいた。
店主ひとりの、カウンターだけの店。
こういうのが好きだ。
その空気は、語りすぎず、飾りすぎず、ただ“夜の時間”としてそこにある。
鳥ふぢは、そういう店だ。
3.一本一本の焼きが違うという幸福
席に腰を下ろし、串が運ばれてくるたびに思う。
——この店は、一本一本の焼き方が違う。

ねぎまは、脂の落ち方を見て返しのタイミングを変え、
レバーは、中心にほんのり火を残しながら香りを立たせ、
つくねは、“焼く”というより“育てる”ようにじっくり火を入れる。
ししとうや野菜串は、肉の流れの中にひと呼吸を置く役割を果たす。
その違いが、ただの焼き鳥ではなく、夜の物語を形づくっていく。

「うで」と呼ばれるしそ巻きも、美味しかった。
4.ビールと、静かな余白
グラスを傾けると、焼き鳥の香りがふっと鼻に抜ける。
焼き鳥屋で飲む酒は、決まって“ビール”をいただくことにしている。
鳥ふぢの夜は、酒を主役にしない。
ただ、串の余韻をそっと支えるためにそこにある。
焼き鳥屋でいただくビールの味は、なぜ一味ちがうのだろうか。
そんなことを考えながら、東京の夜のひとときを過ごした。
5.帰り道、車が来るまでの静けさ
会計を済ませて店を出ると、千歳烏山の夜風が少しだけ涼しかった。
街灯の色がやわらかく、歩くたびに影が伸びたり縮んだりする。
Goで配車を依頼したタクシーが到着するまで、
今宵の一軒の余韻がそっと包み込む。
そんな気がした。
家へ戻る道は静かで、焼き鳥の香りがまだ少しだけ残っていた。
参考
この日を再び思い出すための手がかりとして。
