《モコンさんの庭》:セルアニメ時代に合作作品を手がけたトップクラフト在籍時1972~1983年の覚え書き MEMO:07
トップクラフト&RANKIN/BASS合作作品
での作品制作の体制について
セルアニメ制作者の無意識の常識は
業界外の人にとっては関係ないことかも…
トップクラフトの合作作品制作過程を紹介していますが、ある程度のアニメーション制作に興味のある方やご存じの方には「なるほど」と思われる内容かと思います。
しかしながら、アニメーションの制作の模様に初めて触れる方には理解しづらいコンテンツもあると思います。普通の視聴者はアニメの放映や映画を観ていると出来上がるまでの過程は考えないと思います。
アニメの制作現場で何本も何本もの仕事をしているうちに、ほとんどの作業が条件反射的に身体に染みついて、意識しなくても「次はこの作業がくるな」という具合になっています。
例えば「原画担当者はひとりではなく何人もの人達が描いているけど、どうして同じように描けるのかな?」「作品全体でどうしてキャラクターが統一されているの?」といった疑問について、制作過程がわりと知られるようになってきたのはアニメ専門誌のおかげかと思います。
ジブリ作品の制作過程の模様を特集したテレビ放映があったり、アニメの専門雑誌が出版されていたり、声優をメインに特集している専門雑誌もあったりします。
アニメに関する用語辞典や制作過程などを克明に書いてある書籍も多く出ていて、興味さえ持てばアニメの知識を、たとえ仕事にしていなくてもかなり理解できるようになりました。
文字情報だけでなく、アニメ技法を動画にして解説しているサイトなどもあり、ネット上でアニメの知識を動画で解説していて、かなりわかりやすく知ることができます。
日本の量産アニメーションの制作過程は実写の制作体制から
アニメ向けに必要な部分をアニメ向きに特化させたものだと思いました
ぼくが東映動画の下請け会社に入社した70年代では、撮影助手や制作進行、そして演出助手という、アニメの制作過程の中でアニメーターではないことを説明する場合「なんで絵を描かないの?」という目で見られていました。この頃はアニメ制作過程が分業化されていることすら認識されていなかったという訳です。ですから「アニメ業界に就職=絵を描く人」という認識で見られていても仕方ないことでした。
それでも70年代、ぼくが体験して覚えた東映動画の制作過程はセルアニメ時代からデジタルになり、なかには必要のなくなった役割もありますが、制作手順の基本はずっと継承されてきています。実写映画のスタッフと役割の名称は同じでも、アニメでは作業内容が違ったり、アニメでは必要のない役割もありますが、実写もアニメも作品を支えるうえでどの役割も欠かせないのです。
当時思ったことは、東映動画の制作体制は実写からの転用という下地があり、その名残りとして分かりやすいのが実写での「記録(スクリプター)」だと思います。実写での仕事内容は、映画の撮影現場において、撮影はセットの都合やロケーションなど様々な条件から撮影の順番が変わるので、撮影シーンの様子や内容を記録・管理する重要な役目であり、女性が多いそうです。
デジカメなどない時代に記録(スクリプター)は、小道具の配置を記録し、カットの時間の計測と記録、作画監督の指示などをメモし、撮影済みの箇所を記録し、その他撮影時の諸事を記録し覚えているプロです。スクリプターは日本の言い方で、英語表記だと「script supervisor」や「script girl」と呼ばれることもあったそうです。やっぱり女性が多いということでしょうか。アニメの記録も女性の方でした。
アニメでの作業としての記録は、編集時におけるラッシュフィルムの確認でのリテーク出しと編集作業でのカットの入れ替えやオミット(削除)したカット、セリフを変更したカットなどをすべて記録して、ラッシュ編集後にアフレコ台本を作成します。また、使う音楽を演出と打ち合わせてダビング時の選曲の手配、および効果音の打ち合わせも同時にしておき、ダビングの下準備を担います。このために東映動画では音響作画監督が必要ありませんでした。演出がアフレコからダビングまですべてを担当するシステムとなっていました。この記録という職種は他のプロダクションと仕事をしてみて、東映動画独自のものだと思いました。
当時の演出のスタッフが実写の作画監督助手からの転職が多かったことも特徴かと思います。制作進行の方にはちょい役で映画に出ていた方もいらっしゃいました。東映動画では多くの作品を同時に進行しているので、毎日のように何らかの作品のラッシュがありました。手の空いているスタッフは誰でも見ることができます。また、初号試写も同様に誰でも見ることができ、演出同士で意見を交わしていました。しかし、誰一人として悪口を言ったりするスタッフはいませんでした。「あのシーンは惜しかったね」といった具体的にハッキリとした意見をいただけるという環境でした。
そして70年代には東映動画でも今までモノクロ作品だったのがカラー作品に置き換わる時期でもありました。ぼくが演出助手を担当した「タイガーマスク」はカラー作品でした。
アニメで使われている用語は実写映画と同じ用語が多く使われています。実写映画では必要な作業がアニメでは必要のないものもあります。カメラワークについては、実写でできることをアニメでも同じような効果が得られるように様々な工夫がなされています。
トップクラフトの合作作品も東映動画の制作手順と基本は変わりませんが、合作作品独得のテクニックもあります。それは今までに説明してきた通りです。
トップクラフトの合作アニメーション
トップクラフトで合作作品を制作するうえで、トップクラフトらしい特徴といえるものを考えてみました。
トップクラフト各部門のスタッフは、トップクラフトの成長と共に育ってきた人たちが支えています。トップクラフトが最初のアニメ関係の仕事先として入社し、トップクラフトの仕事を通してそれぞれの部門で力をつけていきました。
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原画とのコミュニケーション
トップクラフトの原画担当者はほとんどが最初からトップクラフトで育ってきました。トップクラフト社内で原画担当者はみな演出と打ち合わせだけでなく、担当レイアウトや原画での問題点を随時話し合うことで解決することができます。レイアウトのチェックや原画のチェックのときに問題がある場合、原画担当と演出がすぐに直接話し合うことができるので、作業の滞りをなくすことができます。
■原画担当者のキャラクターへの演技付け
すべてはサウンドトラックがアクションを決める鍵になっています。特にセリフは声に感情がどのように入っているか知ることができます。何度も何度も聴きます。
絵コンテができたあと、原画担当者には最初にレイアウトを上げてもらいます。レイアウト作成時にどのようなアクションが要求されているかを確認するには、やはりサウンドトラックが欠かせません。
■ぼくのチェックポイント
ぼくの場合はダイアログナンバーをタイムシートに自分で記入して、原画チェックのときだけでなく、動画もチェックするときにセリフの形が合っているかを確認します。特に原画が同ポジ(同じポジション)で何カットかに分割されているような場合、タイムシートが複雑になり、動画が勘違いをすることもあるので確認します。
■チームワークの重要性
トップクラフトも創業当時は国内テレビシリーズや劇場用の作品と変わらない制作体制で、アニメの各部署のスタッフの分業により、自分の担当作業が終わると作品の仕事自体が終わりというのが普通の状態でした。
例えば原画担当者は自分に振り分けられているカットを全部終えれば仕事も終わりとなります。その後の動画や仕上げなどの部署には関わらないということになります。スケジュールが立て込んでくると、制作進行は社内だけでなく外注にカットを出してスケジュール内に作品が上がるように算段するわけです。
特に『ホビットの冒険』から社内の全員が一致して作品にあたるという体制が一気に整ったと思います。
このとき、ホビットのキャラクター設定の描き込み、背景がペンを使って輪郭をとり水彩調で仕上げる、彩色の色数が従来より多いなど、スケジュールに間に合わせるためには今までのようなやり方では間に合わせることが、たとえ外注に出しても難しいという危機感がありました。
そこで本来は演出だった佐々木皓一氏が自分から制作責任者(制作デスク)に転向して、作品全体の指揮をとったのです。スケジュールと作品の質を守るために危機感を抱き、作品の最初から納品まで貫いた功労者でした。
実際に取られた方法としては、スケジュールも押し詰まり時間の限られる中、原画の担当箇所が終わった原画は動画を手伝う、動画も同様に自分の持ち分が終わったら他の動画の人の応援に入る、動画が終わったら彩色の応援に入る、撮影の応援にも参加するなど、各パートを越えて協力していく方法をとったのです。
ぼくも撮出し待ちの空き時間に、そして制作も回収の合間の手の空いているときは、彩色を手伝ったりして隙間の時間をフルに使って本来の仕事以外の補助につきました。『ホビットの冒険』は実際、ここまで徹底してやらなかったらとてもアップする作品ではありませんでした。
社内の人々に今どのような作業状況にあるかという情報共有がなされていたことになるかと思います。そこで生まれた社内のチームワークは貴重なトップクラフトの財産だと思っています。もちろんこのチームワークは『最後のユニコーン』でも発揮されています。
■トップクラフト方式の合作作品制作はトップクラフトだけのものでした。
トップクラフトを退社した後で合作作品に関わったことがあるのですが、トップクラフトと同じ方法を取れませんでした。大きな理由は原画とのコミュニケーションがトップクラフトと同じように機能しなかったことにあると思います。そしてトップクラフトのように社内が一丸となるような下地がまったくなかったことも一因かと思います。
トップクラフトではうまく機能していたことも、トップクラフト以外のプロダクションでは通用しないということから、あえてトップクラフト方式と言ってもよいかと思うのです。
※本稿はぼく個人のセルアニメ業界での実体験をもとにした記録です。当時の資料としてご覧いただけたら幸いです。個人名は当時の状況を踏まえ実名で記しております。関わってくださった皆さまに心より感謝いたします。
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